第4話 痒いんです
実家に連絡し終えたエリスは、さてこれからどうしようかと思案した。
実家から連絡ないしは家族がやって来るまで最低でも二ヶ月は掛かるだろう。その間、放置していたら、街の人達はもっと酷い目に合うことになる。かといって今、自分が表立って動いても、知らぬ存ぜぬで通されてしまう恐れがある。
「だったらコッソリとやりますかね」
エリスは悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
「恐らくこの辺りにいるはず」
エリスは街の外れの沼地に来ていた。
『サーチ』
探索魔法を使う。
「おっ! 居た居たっ!」
お目当てのモノを見付けたようだ。
「う~ん...この辺りでいいかな?」
沼地の畔に口が大き目のガラス瓶をセットし、そこにナイフで自分の指先を切りつけ、血を何滴か垂らす。
「良し、これで準備完了。後は沢山集まってくれるのを待つだけだね」
指先を治癒魔法で治しながら、エリスは呟く。
「さて、街に戻って食事にしよう」
数時間後、戻って来たエリスは、ガラス瓶を覗き込みほくそ笑んだ。
「大量、大量、これだけあれば十分だね」
ガラス瓶の蓋を慎重に閉めて、ポケットに入れた後、
「さあ、お仕置きの時間だよ」
エリスはクズ夫の屋敷に向かった。
◇◇◇
「お前か、メイド希望の女というのは」
「はいぃ~ こちらのお屋敷でぇ~ 募集してるって聞きましてぇ~ 雇って貰えないかと思いましてぇ~」
エリスは髪の色と瞳の色を魔法で変え、メガネを掛けて変装していた。なるべくバカっぽい喋り方を心掛け、胸を強調するのも忘れない。
「う、うむ。待っておれ。ご主人様に取り次いでやろう」
主人がクズなら使用人もクズらしい。だらしなく鼻の下を伸ばしている。待っている間、探索魔法でお目当てのモノを探す。思った通り、地下に居るようだ。
しばらく待たされてから案内されたクズ夫の部屋は、饐えたような匂いがして気持ち悪かった。内装も趣味が悪くやたら金色を使っていて目に痛い。エリスは速攻帰りたくなった。
「おぉっ! お前が新しいメイドかっ! 良いぞ良いぞ、もっと近う寄れっ!」
舌舐りしながらそんなことを言う。気持ち悪い。エリスはもう限界だった。さっさと目的を果たすことにする。
『スリープ』
睡眠魔法で眠らせる。クズ夫がコテンと横たわる。
「さあ、出ておいで~♪」
ガラス瓶を開けて中のモノを開放する。
「細工は流流仕上げを御覧じろ」
エリスはそっと部屋を後にした。
◇◇◇
翌朝、エリスはコッソリ屋敷に忍び込んだ。聞き耳を立ててみる。
「痒い痒い痒い~! 誰か何とかしろ~!」
クズ夫の叫び声が響いていた。
「上手くいったみたいね」
エリスは破顔した。昨日、エリスがクズ夫の部屋で開放したのは『ツツガノムシ』というダニの一種で、コイツに噛まれると全身を耐え難い痒みが襲う。痒いなんてもんじゃない。メチャクチャ痒い。寝ても覚めても痒い。食事も儘ならないくらい痒い。
エリスは領地に居た頃、噛まれた経験があるので良く分かる。地獄の苦しみを味わった後、必死になって原因究明に努めたものだ。ボリボリボリボリ体中を掻きながら。
まだ一般的にはそれ程知られていないので、クズ夫が原因に辿り着くまで相当時間が掛かるだろう。街に嫌がらせをする余裕も、女を抱く余裕も無いだろう。良い気味だ。とことん苦しめばいい。
「さて、行きますかね」
恐らくクズ夫から屋敷中の使用人にも飛び火したのだろう。警備が薄くなっている。エリスはゆっくりと地下に降りて行った。
「だ、誰!?」
「シッ! 静かに。助けに来たわ」
クズ夫が拐って行ったという女性達だ。昨日、探索魔法で居場所の検討はついていた。
「さあ行きましょう」
「で、でも見張りが居るんじゃ?」
「大丈夫よ。痒くてそれどころじゃないから」
「えっ? 痒くて?」
「フフッ、こっちの話よ。気にしないで。それと家族の元へ帰ったら、しばらくは身を隠すようにしておいてね。見付かってまた拐われたりしないように」
「わ、分かったわ」
当分の間、この人達のことを気にする余裕は無いだろう。逃げ出したことに気付かないかも知れない。
こうしてエリスは少しずつクズ夫にお仕置きをしていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます