第3話 クズな夫は本物のクズでした

 今思えば最初から変だった。


 いくら王都から一ヶ月以上掛かる距離があるからとはいえ、晴れの結婚式に新婦側の親族の出席を断るなんて。それも断る理由が「金銭的に苦しくて満足なおもてなしが出来そうも無いから」というものだった。


 呆れた理由だが、その時は「それだけ困窮しているならしょうがない」と諦観したものだった。今なら良く分かる。そもそも結婚式を挙げる気すらなかったのだと。そりゃ出席されても困るだろう。花嫁にこんな仕打ちをする所を見られたくないだろうから。


 それにあのマルクの容姿、釣書詐欺にも程がある。確かまだ十代のはずなのに、見た目はデップリと中年太りしたオッサンのよう。脂ぎった目で嫌らしそうに見られた時は、気持ち悪くて虫唾が走った。あんな男に抱かれるくらいなら、追い出された方がよっぽどマシだった。その点だけは感謝したいくらいだ。


「さてどうしたものか...まずは住む場所を確保しないとな」


 幸い、お金や貴金属などの貴重品は手元にある。しばらくは不自由しない。あのクズ夫は気付かなかったようだが、一ヶ月以上旅をして来て、身一つということは有り得ない。魔法が得意なエリスは、大事な品は全て無限収納ストレージに収納してあるのだ。


 だから嫁入道具を売り飛ばされても別に困らない。あれは嫁入りの体裁を整えるために実家が用意したもので、特に思い入れがある訳でもない。とはいえ、せっかく用意してくれたモノを勝手に売られたのは腹が立つが、手切れ金だと思うことにする。


 取り敢えずエリスは街に出て情報収集することにした。今日はホテルに泊まることにする。街は屋敷から歩いてもそれ程の距離がある訳でもない。エリスはクズ夫の住む屋敷を後にした。



 街はなんというか、一言で言えば暗い雰囲気だった。街行く人は皆冴えない顔で俯きがちに歩いている。まだ昼間だというのに街中は閑散としていて人々の活気を感じられない。


「お腹減ったな...どこかでなんか食べよう」


 食堂を見つけたので早速入ることにした。


「いらっしゃい、おや、キレイな娘だねぇ。見ない顔だけど旅行にでも来たのかい?」


 出迎えてくれたのは、恰幅の良い女主人だった。おかみさんといったところか。


「うん、今日着いたとこ。ねぇ、なんだかこの街、雰囲気が暗いんだけどなんかあった?」


 おかみさんは途端に渋い顔になった。曰く、先代が儚くなって跡を継いだあのクズ夫がろくでなしで迷惑しているそうな。贅沢三昧して金が足りなくなったら税金を上げる。店で散々飲み食いしても金を払わない。女好きで街に気に入った娘が居れば誘拐同然に屋敷へ連れ去る。などなど...


 聞いていて胸が悪くなる内容ばかりだった。思った以上のクズだったらしい。これは早急になんとかしないと。この人達が苦労するばかりだ。エリスは店を出てホテルに向かった。チェックインして部屋に入ったエリスは、実家に連絡しようとペンを取った。


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