第8話 ちみっこと校外学習 その2

 学園を出発してから約5時間後、昼過ぎにアタシ達は目的地である『プレヤデス』に到着した。



 景勝地というだけあって、裕福な貴族達の豪華な別荘が建ち並ぶ。その一角にアタシ達の泊まるホテルがある。元はさる貴族のお屋敷だった建物をホテルに改造したものらしい。白亜の大邸宅がアタシ達の目の前に聳え立っていた。


「ふわぁ、凄い豪邸ですね~ ここに泊まるんですか~!」


 アタシが興奮して叫ぶと、


「そうか? 普通じゃん?」


「そうですわね、まあまあってとこかしら」


「...ノーコメントで...」


 フンッだっ! ブルジョワ共めっ! 人が感動してるってのに少しは空気嫁っ! それからエリオット、無駄に気遣いすんなっ! 余計ミジメになるわっ! ハァハァ...


 ...気を取り直して中に進む。内装も豪華だった。普通の貴族であるアタシは気後れするくらいだが、ブルジョワ共は...以下略...


 アタシは同部屋の四人と合流した。今日は夜まで自由行動とのことなので、一旦荷物を部屋に置いてから近くを軽く見て回ることにした。


 ホテルを出て周りを見渡すと、遠くの方に森が見えた。あれが『精霊の森』だろう。明日は全員であの森を散策する予定になっているが、あれだけ遠いと徒歩では無理じゃない? って思ってたらトローリー馬車が運行しているらしい。さすが景勝地。


 アタシ達は歩いて行ける距離にある『スバル湖』に向かうことにした。


 それほど大きくない湖だ。湖というより池に近いかも知れない。エリオットが言ってた通り、中心付近に浮島がある。水は透明度が高く、湖底まで良く見える。あまり深くはないみたいだ。

 

 ボート乗り場があったので行ってみたが、ちょうど観光シーズンということもあり、残念ながら貸しボートは全て出払っていた。湖面上には沢山のボートが見える。明日また来ようとみんなで約束した。



 「...っ!」

 


 湖から引き返そうとした時だった。アタシの耳に声にならない声が届いたような気がした。その瞬間、なんとも言えない悪寒が全身を走った。思わず立ち止まったアタシに他の四人は、


「どうしたの、ミナちゃん?」


「顔色が悪いよ? ミナちゃん」


「疲れちゃった?」


「お腹空いちゃった?」


 口々に心配してくれたので、取り敢えず大丈夫と答えて湖を後にした...が、あれは一体何だったんだろう...


 その後、土産物店を冷かしながらブラブラ歩いてホテルに戻った。



◇◇◇



 夕食までまだ少し時間があるので、今の内にお風呂に入ろうという話になったんだが...このホテルは各部屋毎に内風呂が完備されている。その他、地下に大浴場が設置されているんだけど、どうやらアタシ以外の四人は大浴場を希望しているらしい。


 正直に言おう。アタシはある身体的特徴を隠したいから人に裸を見られたくない。子供みたいにチンケな体を見られたくないってことじゃないよ。それはもう諦めてる。そうじゃなくてね...


 お胸がね...どんな神様のイタズラか知らないけど、胸だけは年相応だったりするんだよね...なんだったら前世の時より大きいくらい...か、悲しくなんかないやい...


 別に隠さなくても堂々と見せればいいじゃんって普通思うよね? でもさ、考えてみ? この体型で胸だけ大きいんだよ? なんて言われると思う? 


 ロ○巨乳?...イヤ、巨乳って程デカクないけど... 合法ロ○?...あ、これは今も言われてるか... 体は子供、胸だけ大人?...どんな名探偵だよ...


 と、とにかくだ! ただでさえこんなナリで悪目立ちしてるってのにさぁ、そんな属性まで追加されんのヤダよ~!! 幸いなことに寮には大浴場なんて無いから、風呂は部屋で済ませてたし、普段は胸にサラシ巻いて隠して来たのにさぁ~


 だからアタシは内風呂でいいからって言ったんだけど...


「まあまあ、ミナちゃん。裸の付き合いもいいものよ~」


「うんうん、旅の醍醐味だよね~」


「背中流して上げるよ~」


「シャンプーハット持って来たよ~」


 クッ! お前ら離せ~! 四人係りで拘束すんな~! あとシャンプーハットってなんだ!? 子供扱いすんな~! あぁ、もう分かったから! 自分で歩くから降ろせ~!


 必死の抵抗虚しく、アタシは四人組にドナドナされて大浴場へ...


 そして扉を開けたら...痴女が居ました...



「まぁ、ミナさん! あなたもこれからお風呂なのね! ちょうど良かったわ~♪ フフフッ、一緒に入りましょう~♪」


「しや、シャロン様!? な、なんでこのタイミングで!?」


 ハッ! と気付けば四人組は何時の間にか姿を消していた! アイツら、アタシを売りやがったな!?


「ウフフフッ、持つべきは者は良いお友達よね~♪」


 アイツら、ホント覚えとけよ!


「さぁ、脱ぎ脱ぎしましょうね~♪」


「い、イヤ、一人で脱げますからっ!」


 だから近付いて来ないでっ! あとなんで鼻血出してんのっ!?


「ウフフフッ、ほ~ら捕まえた~♪」


 あぁ、もうっ! 力強いなアンタっ! あとなんでそんな脱がすの上手いのっ!?


「まぁまぁ、ミナさんったら、ダメよ~♪ 成長期なんだからサラシなんか巻いちゃ~♪ フフッ思った通りだったわね♪」


「へ? 思った通りってなにが?」


 既にアタシはサラシ一枚残してほぼすっ裸状態だ...


「あれだけスキンシップしてたんですもの。そりゃ気付くわよ。不自然に体を拘束してるってことくらいはね。だからいつか解き放ってあげたいってずっと思ってたの!」


 バレて~ら! いや、なんか良い話みたいに聞こえる! 自分に酔ってるみたいだけど!? 解き放つのはアンタの欲望じゃないんかいっ! アタシは望んでないんですけどっ!?


「さぁ、解放の時よ! クルクル~!」


「あ~れ~!!」


「!!! ミナさんっ! 素晴らしいわっ! まるで天使みたいっ!」


 うぅ...恥ずかしいよぅ...あんま見ないでよぅ...


「さぁ、いざ行かん桃源郷へ!...もといお風呂場へ! 体の流しっこしましょうね~♪ ハァハァ...」


 なんだよ桃源郷って! あとヨダレ垂らさないで! 鼻血そんなに流して大丈夫なの!? それとアンタ、自分の服脱ぐのも早いな! しかもなんだよ、そのけしからん双丘は! 女のアタシから見ても興奮するわ! う、羨ましくなんかないやい...


「じ、自分で洗いますからぁ~!」


「いいからいいから、お姉さんに任せなさ~い♪」


「イャァァァッーーー!!!」



◇◇◇



「うぅ...もうお嫁に行けない...」


 全身隈無く洗われてアタシは放心状態だ...


「大丈夫よ~♪ 私がお嫁に貰ってあげるわ~♪」


 なんにも大丈夫じゃねぇってのっ!


「...結構ですから...」


「フウフウ、それにしても堪能させて貰ったわ~♪ もう最高よ~♪」 


 このド変態がぁぁぁ!


「...もう出ます...」


 これ以上付き合ってられんっ!


「え? もう上がっちゃうの? 残念ね...じゃ私も...あら、変ね? クラクラするわ。逆上せたのかしら?」


「...そりゃあれだけ鼻血出してりゃそうなるでしょうよ。ではお先に」


 洗い場が血の海だったじゃねえかっ! ホラー映画かっ!


「あ~ん、待ってよ~」


 誰が待つかいっ! この痴女がぁぁぁ!


 さっさと着替えて部屋に戻ろう...って、アタシのサラシが無い...


 アイツらの仕業だなっ! マジで殺すっ!



◇◇◇



「み、ミナッ!? そ、その格好は!?」


「ブホゥゥゥッ!」


 うわっ! 今一番会いたく無い人達にバッタリ会うって!


「で、殿下、エリオット、こ、これは違うんです!」


 多分、今アタシの顔は真っ赤だと思う。なんか目の前の二人も顔赤いけど。


「あんまり見ないで~!」


 アタシは恥ずかしくて逃げ出した。後ろの方でなんか騒いでるけど知ったこっちゃない。まずはあの四人組をシメないとっ!



 部屋に戻る途中、アタシはすれ違った男子達から向けられる視線を敢えて見ないフリをしながら、面倒なことになったと頭を抱えたのだった...


 

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