王様になった道化師
もらったばかりのわずかなお金が入った
少ないとはいえ、給料日となれば胸も
中年男は
「今月もがんばったなあ」
そんなことをぶつぶつとつぶやいていたとき、ふと、いまは
「ああ、そういえば……この
遊園地とはいっても、かつてデパートだったそこにあったのは、簡単な遊具やゴーカートを置いてある程度の、いたって簡素なものでした。
しかし中年男は、その遊園地に行ってみたいと思ったのです。
「確か、ここだったはずだ……」
中年男はビルの
そこから中へと、忍び込んだのでございます。
*
屋上へ上がると、長い間使われていない遊具や、パンダだのライオンだののゴーカートが、置きっぱなしになっていました。
「こいつはいい」
中年男はその中の、ヘンテコな顔のパンダのカートにどっこいしょとまたがって、ちびちびと酒を飲みはじめました。
「お月さまもきれいだし、うん、最高だ」
「王様になったぞ!」
そんなふうにふざけてみたあと、中年男はふと、悲しい気持ちになりました。
「いままで生きてきて、いいことなんて何もなかった。遊園地なんて、行ったこともなかったなあ」
すると、不思議なことが起こりました。
座っていたパンダのゴーカートが、ゆっくりと動きはじめたのです。
「お、なんだ、なんだ……?」
ほかのゴーカートや、小さな列車の遊具、小型の観覧車までもが、まるで中年男を
「お、おお、お前たち、俺を王様だと、言ってくれているのかあ?」
こんなにうれしいことは、はじめてでした。
こんな手厚いあつかいを受けたのは。
中年男は遊園地の
「ふぁあ、うーん、むにゃむにゃ……」
気がついたとき、男は遊園地の冷たいコンクリートの上に、大の字になっていました。
「やっぱり、夢だったのか……」
とてもさびしい気持ちになって、中年男は寝転がったまま、夜空に浮かんだ満月を、ずっとながめておりました。
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