枷と鎖
コンクリートを
両手には
男はほとんど
時刻は夜でしたが、鏡のような満月が、背後の小さな
「まったく、つまらない。退屈な人生だ」
ふいに男はそう、ぼやいたのです。
すると後ろに何かの気配を感じたと思ったら、
「おや、これは……」
牢獄で花見とはよくいったもの。
男はそんなふうに思ったのです。
すると――
「お、おっ」
ひらひらと、一片ずつではありますが、桜の花びらが次々に、男の上に降りそそいでくるではありませんか。
「こいつは面白い」
男はなんだかうれしくなって、みるみるうちに桜色に
気がつけば
「
男はすっかり楽しくなって、もっともっとと、せがむような気持ちになっていたのです。
そのとき、遠くのほうから、冷たい足音がこちらに近づいてきました。
「おい、出ろ」
「いやだ」
牢獄の男はそう、言い返しました。
「なぜだ?」
看守の男が聞き返します。
「このきれいな桜が見えないのか?
牢獄の男はそう、言いました。
「……そう、か」
看守の男はそれだけ言うと、もと来た
「しめしめ」
男は幸福でした。
こんなにもいっぱいの桜に
いったいこの男は、何につながれていたのでしょうか。
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