第2話 間宮さんは入居する

 「ええええ、えええとこれはどういう?」


 正直に言うと昨日と同じく今すぐ全力で逃げ出して状況を整理したい所だが、玄関が閉まっているし、何より間宮さんのエプロン姿の破壊力が凄まじくその場を動くなと本能が訴えている。


 「取り敢えずお部屋に入ってはどうですか?」


 「そ、そうだね」


 一応、家の主である俺が招き入れられる状況に狼狽えてしまうが靴を脱いでリビングに入って再び身体が止まる。


 「…な、なんだこれ」


 今まで自分でもゴミ屋敷だと認識して友達も入って一秒で帰ってしまう部屋がピカピカに光り輝き整理整頓されている。


 「お部屋に入った際に余りに汚く…すみません。少し散らかっていたので掃除を」


 「その気遣いは逆効果だよ。自覚してたから気にしないで」


 「そうですか。食器類は洗浄中で、薬味は甲賀さんが分かるように名札を付けました。次に自室について説明しますね」


 成る程。

 間宮さんが家にいることの説明より部屋の説明か。

 俺としては部屋が綺麗になっているのも驚いたが、間宮さんが家にいるのが一番驚いているのだが今は気にしないでおこう。


 「自室の本ですけど本棚が用意されていたので読書家の為にきちんと番号順に置いておきました。場所が分かるように本棚の所に本の題名も書いてありますから何処にあるかは一目で分かると思います」


 完璧すぎて文句の付けようが無いんだが、口には出さないがテレビも少し埃が付いていたのに新品同様に変わっているし、タンスを見れば今まで雑に仕舞っていた服が綺麗に折り畳んで仕舞ってある。


 「あ、服に関しては下着類、服、ズボンに分けて入れてあるので分かりやすいと思いますよ」


 「…至れ尽くせりで本当に申し訳ないんだけど…これはどういう」


 「それと、あの…これなんですけど」


 間宮さんがどうしてここにいるのかと尋ねる前にモジモジとした表情で間宮さんが手に持っているのはRー18の本だ。

 先程までの幸せが嘘の様に血の気が引く。


 「本棚に仕舞うのも…駄目だと思ったので…どうしたら良いのかと」


 「こ、これは違うからね!?友達が俺の家が一人暮らしだから置いて!本当だから信じて!!」


 「あ、はい。分かってますよ。男の子ですもんね」


 「全く分かってないよね!?」


 優しげな瞳で見られるが余計に傷ついてしまう。

 違うんだ。


 その場しのぎの話ではなくエロ本は間違いなく友達の物だ。

 俺の家に来た時にゴミ屋敷で直ぐに帰ったが帰る前にエロ本だけ置いて帰ったのだ。


 「わ、私は良いと思いますよ」


 しかも、そのエロ本は二次元の女の子の写真とかどえらい勘違いをされている気がする。


 「本当に違うんだって!友達のだから信じて…信じて下さい!」


 もうやけくそ気味に頭を下げて懇願するが自分でも何故頭を下げているのか分からない。

 ……俺は何をしているのか。


 「フフフフ。分かってますよ。新品同様ですし見ていないのも確かみたいですからね」


 「……からかいましたね?」


 「甲賀君が家に入ってから緊張気味に見えたので少しでも緊張を和らげようと思ったんです」


 可愛らしく人差し指を唇に添えてウインクをする小悪魔的な間宮さんだが、可愛すぎますね。

 ごちそうさまです。


 「ど、どうも。それで、そろそろ間宮さんが俺の家にいる理由を教えて欲しいな」


 「そうですね。まずは、椅子に座ってゆっくりお話ししましょうか」


 間宮さんの言う通りにリビングに置かれた椅子に座って二人で対面するがいざお互いにゆっくりと話すとなると少し緊張する。


 「まずは、これをお返ししますね」


 「え!?俺の家の鍵!?」


 テーブルの上に置かれているのは落としたり盗まれたりされたら分かるように鈴を付けているので間違いようがない。


 「昨日、甲賀さんが走った後に落としたんです」


 あ!思い出してみると昨日はポケットから手を出して全速力で走ったので鍵を落としたのも頷けてしまう。

 …それに、朝は昨日の件で黒歴史が増えてしまって鍵を閉め忘れてた。


 「…もしかして鍵を届けに来てくれたんですか?」


 「それもあります」


 まあ、普通に考えて幾ら美少女でも鍵を届けるために不法侵入はしないよな…?


 「他には何の理由が?」


 「昨日助けてもらった恩返しをしたいと思っていました。本当なら昨日きちんとお礼を伝えたかったんですけど走っていたので言えなくて、それで家の鍵を届けに来てその際に大家さんにお伝えしました」


 ふむふむ。

 今の話は想定の範囲内だし普通のお話だ。


 「すると甲賀さんのお母さんが現れて一緒に家に入りました」


 おやおや。

 突然の急展開に俺の頭はパンク寸前だぞ。


 「昨日のお話をして命を賭けてでもお礼をしたいとお伝えした所、少し汚かった部屋を掃除して恩返しをしたらどうかと甲賀さんのお母さんに伝えられて部屋を掃除させてもらいました」


 そもそも母さんは何をしに来たのかは分からないが、俺の部屋を見て恩返しをするのはまあ…普通なのか?


 「お部屋の掃除をお母さんに見てもらいながら行い、その時にお母さんが息子の生活が乱れて不安だと言っていました。この家に来たのも甲賀さんの私生活が気になってた様子でしたし」


 お母さんは本当に心配性なんだよな。

 一日に一回は電話が掛かってくるしきちんとした食事を取っているかと口酸っぱく言われてるが、大体適当にあしらって終わってた。


 「そこで私は提案しました。私は助けてもらった恩を返したい、お母さんは息子の私生活が気になる、更にこのお部屋を見て甲賀さんがまともに生活をしているとは思えませんでしたし」


 間宮さんにジト目で見られるのに俺は目を背けるしかない。

 ……ぶっちゃけて言うと一人暮らしを舐めてた。


 自分専用の漫画部屋があれば十分だと思い込んでいたのに、洗濯、料理、その他諸々の活動を行うのが最終的には面倒になりゴミ屋敷と化したのだ。


 「なので、私は住み込みでタダ働きをさせてもらいたいとお母さんに提案しました。勿論、お母さんの了承は得ているので後は甲賀さん次第です」


 はい。

 俺の頭の中はパンクしましたよ。

 急展開過ぎて話に付いていくのが大変だが、俺の家で美少女が働く?

 何だこのラブコメ展開は。


 「俺はというより間宮さんが嫌なんじゃ」


 「とんでもないです!」


 今まで落ち着いた様子で話していた間宮さんが立ち上がって拳を握りしめる。


 「私は本当に感謝しているんです!急に父が借金していると言われ二億の借金を払えと追い詰められて…その時に甲賀さんに助けてもらって返しがたいほどの恩を感じています。だけど、私に出来るのは家事全般程度で…寧ろこれで良いのかと思えるほどです」


 間宮さんは悲しみに憂いるように顔を俯かせている姿を見て後頭部を掻いてしまう。

 ……このまま野放しにするのは気が引けるし、そもそも間宮さんは家に帰っても父親は海外に逃亡して家には誰もいない状況なのだろう。

 俺の母は馬鹿が付くほどのお人好しなので間宮さんの提案を了承したのは父親がいない間宮さんの気持ちも汲み取っての行動だろうなぁ。


 「俺の本音を言うと借金を肩代わりしたことは全く後悔していないし間宮さんが気にすることはないって言いたい。だけど…俺が間宮さんの立場だと絶対に恩返しをしたいって気持ちが分かってしまう」


 「…なら」


 「うん。間宮さんが嫌にならない限りは俺の家に住んで良いよ」


 「本当ですか!?」


 「うん。こちらこそよろしくお願いします」



 結果として美少女の借金を肩代わりしたら美少女と同棲することになりました。

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