屋根裏部屋の秘密基地

相内充希

屋根裏部屋の秘密基地

「よし、今日も探検に行くぞ!」

「おお!」

 八ちゃんの掛け声に幸也は右手を高くつきあげた。

 八ちゃんの名前は平八というのだけれど、「はちでいいよ」と言うので八ちゃんと呼んでいる。年中さんの雪也より少し大きいお兄ちゃんだ。


 ここはひいじいちゃんのうちの屋根裏部屋。

 リフォームしてきれいになっているけれど、百年くらい前に建てられたとパパが言っていた。

 母屋にはひいじいちゃんとおばあちゃんが住んでいて、雪也たちは離れに住んでいる。でもパパとママにご用があるときは、今日みたいに母屋に預けられるのだ。

 雪也はこの屋根裏部屋が大好きなので、パパとおばあちゃんが遊び場に改造してくれた。そこで絵本を読んだり、こうして八ちゃんと遊んだりするのだ。


「八ちゃん、今日はどこに行くの? ぼくね、ピヤミッドっていうところに行きたい!」

 昨日テレビで見た、砂漠の中の大きな三角。砂漠の中にドーンとあってカッコよかったのだ。

「ピヤ? ああ、ピラミッドか。いいね、行こう!」

 八ちゃんも賛成してくれたから、さっそく乗り物作りをする。


 いつも敷くラグを広げて、箱とかおもちゃを並べていくと、どんなところにだって行ける乗り物の完成だ!

「うわぁ、今日の乗り物もカッコいいね」

「ピラミッドに行くから、今日は飛行機だよ」

 目をキラキラさせた雪也に隣に座るよう促すと、八ちゃんはブロックで作ったレバーを動かしながら、丸い操縦桿を上に上げた。

「さあ、出発だ!」


 雪也たちの乗った飛行機は、あっという間に空に浮かび、海を超えて砂漠につく。

 途中で海の上をぴょんぴょん跳ねるイルカに手を振った雪也は、次は海の中もいいなと思った。

 八ちゃんと一緒なら、海だって山だって、宇宙にだって行けるんだ。


「おーい、ゆき。ラクダがいるぞ」

「ほんと? どこどこ?」

「ほら、左。お茶碗を持つ方。下の方にラクダを引いてるおじさんがいる」

 八ちゃんの指差すほうを覗いてみれば、たしかに三頭のラクダを引いたおじさんが砂漠を歩いていた。

「やっほー」

 呼びかけて手をふれば、おじさんも笑って手を振り返してくれる。

「もうすぐ砂嵐が来るから気をつけるんだよー」

「はーい!」


 砂嵐がなんだかはわからないけれど、雪也は元気よく手を振って元気に返事をした。


「八ちゃん、砂嵐ってなにかな?」

「砂嵐は強い風で砂が巻き上げられるやつだな。前も見えなくなるから、ピラミッドを見たら早めに帰ろう」

「わかった」


 八ちゃんは物知りだ。

 屋根裏部屋の図鑑が、ぜーんぶ頭に入ってるんじゃないかな?

 ぼくも年長さんとか、一年生になったら、物知りになれるのかもしれない。そう思うとわくわくする。

 物知りになったら、八ちゃんともっとたくさん色々なことができるからだ。


「ほら、ピラミッドの上に来たよ」

「えっ? これ?」

 ねえ、知ってた?

 空から見たピラミッドは、なんと四角だったよ。

「なんで四角なの? テレビで見たときは三角だったよ? ピヤミッド太ったの?」

「ピラミッドね。横とか下から見ればちゃんと三角だよ」


 そう言うと、八ちゃんは飛行機を砂漠に着地させた。

「うわー、大きい。うん、三角だね」

 不思議ふしぎフシギ〜。

「なんで三角なのに四角なんだろうねぇ?」

 よく見るとつみきやブロックを重ねているみたいだ。


「ねえ八ちゃん。おうちに帰ったら、ブロックか積み木でピラミッドを作ってみようよ」

「いいよ。この前ゆきがパパに買ってもらったブロックにしようぜ」

「うん!」


 砂漠で棒倒しをして遊んでると砂嵐が来るのが見えたから、また飛行機で屋根裏部屋に帰った。


 約束どおり、今度はブロックでピラミッドを作って遊んてるうちにママが帰ってくる。

「八ちゃん、ママが呼んでるからぼく行くね」

「うん、またな」


 手をふると、八ちゃんはいつも通りスーッと消えてしまった。八ちゃんは恥ずかしがり屋さんだから、パパやママの前には出てこないんだ。



 下に降りるとママがおやつを出してくれた。今日は母屋で夕食なんだって。

 おやつを食べたあとは、ひいじいちゃんの部屋に行く。


 ひいじいちゃんは寝たきりだ。

 いっつも寝てる。

 でもひいじいちゃんのベッドのそばで図鑑を読むのが、雪也のお気に入りだ。

 図鑑はパパが子供の頃に読んでた古いやつもあるし、雪也用の新しいものもある。今日は古い方の図鑑を広げてピラミッドを見た。


「ひいじいちゃん。ぼくね、きょうはピラミッドを見てきたんだよ」

 ぼくが話しかけると、ひいじいちゃんは起きてたのか、小さく返事をした。

 ひいじいちゃんは何でも聞いてくれるから、今日の出来事も全部話す。

 ひいじいちゃんは楽しそうに目を細めるから、雪也も楽しくなってしまうのだ。


「でね、今度は海の中がいいなと思うの」

 イルカに手を振ったことを言えば、ニコニコしながら頷いてくれる。

「じゃあ、潜水艦を作らないとなぁ」

 かすれた声でひいじいちゃんがそう言うから、次は潜水艦の載ってる図鑑を見ようと心に決めた。

 ひいじいちゃんは、八ちゃんと同じ平八という名前なんだけど、とっても物知りだ。

 ナイス・ガイは平八という名前をつけられるんだって、八ちゃんが言ってたと教えれば、ひいじいちゃんは「雪也もナイス・ガイだ」と言ってくれた。

 へへ、うれしいな。

 でも、ナイス・ガイってなんだろう?


 ひいじいちゃんがウトウトし始めたから、ママがもうこっちに来なさいと手招きした。幸也は一瞬つまらないと思ったけど、もう大きなお兄ちゃんだからと思って立ち上がる。

「はーい。ひいじいちゃん、またね」

「うん……、またな……」


 かすれた声で、ひいじいちゃんは八ちゃんと同じことを言ったので、幸也はニッコリと笑った。

 ナイス・ガイは同じことを言うみたい。ぼくも今度言ってみようかな?

「またな!」

 ってね。

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