水槽の夢シリーズ

嵩祢茅英(かさねちえ)

水槽の夢【2:2:0】60分程度

男2人、女2人

60分程度


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「水槽の夢」

作者:嵩祢茅英(@chie_kasane)

真♂:

崇史♂:

雪乃♀:

夢乃♀:

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(ペットショップにて)


真「…おぉ…(感動している)」


崇史「やったな!これでお前も『熱帯魚同好会』の一員だ!!」


雪乃「熱帯魚同好会って何よ…」


崇史「いーじゃん!俺たち、みんな熱帯魚飼ってるんだし!!」


夢乃「念願のベタちゃん!可愛いねぇ〜!」


真「俺、ずっとベタが好きでさぁ、この泳いでる時に揺れるヒレが綺麗で…

今、本当に感動してる…!!」


崇史「あははっ!んじゃ、お祝いでもするかぁ?」


夢乃「でも、ベタちゃん、お家に連れてってあげないとじゃない?」


雪乃「そうねぇ、魚持ったままフラフラするのも不安でしょ」


真「だなぁ…つー事だから、俺、一回家帰るわ。みんな付き合ってくれてありがと!」


崇史「いいのいいの!熱帯魚見てるの楽しかったし、まことが飼う魚、見たかったしさ!」


真「ん、じゃあ、夜に!」


崇史「おー!」


夢乃「またね、まこと〜」


雪乃「夜にね」


(間)


(マンションの一室、真の住む部屋)


真「うーん………やっぱ水槽、デカいよなぁ…

新しく買うと高いし、家から持ってきたけど…

ベタはグラスでも飼えるって言うし…

いや、でも広い方がいいよなぁ…水も用意してたし…

(ベタに向かって)お前もそう思うだろ?………ん、よし、水槽にしよ」


真「(ベタを水槽に入れる)よいしょっ、と…

……うん、やっぱりキレイだ…泳ぐたびに揺れるヒレ…ずっと見てられる…」


真「あっ、写真撮っとくか」


(スマホを取り出し、水槽で泳ぐベタの写真を一枚撮る)


真「(写真を見て笑みが溢れる)へへっ。キレイに撮れてる」


真「っと。そろそろ出かける準備しとくか」


(間)


(夕方の街中)


雪乃「ごめーん!待ったぁ?」


真「いや、そんなに待ってないよ」


雪乃「聞いてよー!出掛でがけにユメが『スマホがないー!』って言い出してさぁ、結局ポケットに入ってたの」


夢乃「ちょっと、ユキぃ!言わなくてもいいじゃん!」


雪乃「別にいいでしょ、本当の事なんだから」


夢乃「もぅ〜!」


崇史「じゃ、店行くか」


雪乃「あっ、ねぇねぇ、今日予約したところって、どんな感じなの?」


崇史「おお、よく聞いてくれた!すげーんだよ!

薄暗い店内の壁に水槽が埋め込まれてて、熱帯魚がたっくさん泳いでんの。

そこがライトアップされてて」


雪乃「へぇ!めっちゃオシャレじゃん」


崇史「だろぉ?」


夢乃「どこで見つけたの?そんなイイお店〜」


崇史「熱帯魚ググってたら、たまたま。

この店インスタやってて…(スマホを操作している)ホラ、これ。

店内の写真、エグくね?」


夢乃「うわぁ〜、ほんと!これはテンション上がるぅ!」


雪乃「わぁー、こんなとこあったんだぁー、いい店見つけたねぇ」


崇史「意外と値段もリーズナブルだし!」


真「へぇ、楽しみ」


崇史「裏通り入ってすぐのところだって」


真「あっ、アレかな。看板」


夢乃「裏通りって、なかなか入らないもんねぇ〜」


雪乃「これは見逃すわぁ」


(店の中に入る。崇史は店員と話をして、他は会話をしている)


崇史「どうもー、予約してた者なんすけどー………あ、そうです。六時で四人です」


真「わ…実際見ると迫力やば…」


夢乃「える〜!!」


雪乃「意外といてて、いい感じじゃん」


崇史「ホーラ、席に行くぞ〜」


夢乃「は〜い!」


(店の奥の個室に通される)


夢乃「わぁ!個室だぁ〜!」


雪乃「凝ってるねぇ」


真「個室の中も水槽あるんだ」


崇史「水族館みたいだな」


雪乃「で?何頼むー?」


夢乃「私カルーア!ある?」


雪乃「待て待て、フードから選ぼうじゃないか」


夢乃「りょうか〜い!何があるの?」


崇史「結構品数多いだろ?チェーン店じゃないのに、すごくね?」


真「どれどれ…とりあえず枝豆食べたい」


崇史「とりあえずビールみたいに言うなよ」


真「あと串物」


夢乃「お豆腐食べたぁい」


雪乃「お豆腐あるよ、あとポテサラ」


夢乃「お〜!ユキ、分かってるぅ!」


崇史「唐揚げと…あっ、チヂミ美味そー」


真「サラダも頼もうよ」


崇史「女子かよ」


雪乃「いいねいいね、どれがいい?」


崇史「え、俺ムシ?」


夢乃「一番でっかいやつ頼も!オススメって書いてあるし!」


崇史「んじゃあとは飲み物…追加は適当に」


真「皆決まった?ボタン押すよ」


夢乃「オッケ〜」


(崇史は店員に注文(段々音量を下げて)、他は注文に被せて会話をはじめる)


崇史「えっと、冷奴、枝豆、唐揚げと、カワタレが四本、つくね二本、モモ塩二本と、チヂミ、サラダはこれで、あっ、あとポテトサラダ…んでドリンクが………」


(崇史の注文に被せて話し出す)

夢乃「ねぇねぇ、今日お迎えしたベタちゃん、水槽に入れてあげたの?」


雪乃「用意してあるって言ってたもんね」


真「入れた入れた、写真撮ったよ。

んっと…(スマホを操作して写真を映す)これこれ」


夢乃「え、水槽大きくない?」


雪乃「こんなでっかい水槽の中に、一匹って」


真「実家にこれしか無かったんだよ」


夢乃「ベタちゃん、寂しそう」


雪乃「優雅に泳げて、いいんじゃない?」


真「寂しいかも、とも思うけど、ベタは他のオス入れるとケンカしちゃうからなぁ…」


夢乃「さすが『闘魚とうぎょ』!」


雪乃「この美しいヒレは守らないとだよねぇ」


崇史「おっ、写真?俺にも見せて」


真「ん」


崇史「うわ、ほんとだ。水槽めちゃデケーじゃん!他の熱帯魚も飼えば?」


真「んー…でもなぁ…ベタにしか興味がないっていうか…」


崇史「そういや、一目惚れって前に言ってたよな」


真「そうそう、昔テレビで見たのが忘れられなくて」


夢乃「え〜!それでベタちゃんをお迎えしたんだぁ?!」


雪乃「一途だねぇ」


崇史「きゃー、ロマンチックぅ!」


真「うるせ(崇史を小突く)」


崇史「いてっ」


真「なんていうか、他の熱帯魚もキレイだけど、

飼うならベタしか選択肢がないっていうか…」


夢乃「いいじゃん〜!素敵だよ〜!」


雪乃「うちはネオンテトラいっぱい飼ってるよー。

小学生の時、学校の職員室の前に水槽があってさぁ、あの光るラインが可愛くて」


夢乃「それで、いつか飼おうって言ってたんだよねぇ!」


崇史「うちエンゼルフィッシュ。形がカッコいいんだよなー」


雪乃「(ちょっとバカにする感じで)えー!なんか意外ーー!!かわいいじゃーん!!!」


崇史「はぁ?!カッケーじゃん!!」


夢乃「ふふっ、形はかっこいいかもねぇ〜。サイズが小さいから、かわいいけどぉ」


雪乃「ねー!」


夢乃「ねー!」


崇史「全身真っ黒のがいて、それがイッチバン、カッケーの!!!」


雪乃「はいはい」


崇史「ベタも、全身真っ黒なのいるよなぁ」


夢乃「真っ白な子もいるよねぇ」


雪乃「そういえば、なんで赤にしたの?まことは青かなって思ってたんだけど」


真「赤のイメージが強かったんだよ。んで実際見て、やっぱり赤だ!ってなった」


夢乃「そうだったんだぁ!いいじゃん、赤!」


崇史「それにしても、ここの水槽は色んな魚が泳いでるなぁ。店長が熱帯魚好きなのかなぁ?」


真「いい眺めだよなぁ」


夢乃「見てて癒されるし、この魚とこの魚、一緒の水槽で飼育できるんだ〜!って、勉強にもなるよねぇ」


雪乃「だねぇ」


崇史「おーい、ドリンクと料理来たぞー」


夢乃「私、カルーア!」


雪乃「はいはい」


崇史「お前それ好きな」


夢乃「美味しいじゃ〜ん」


崇史「甘ったるくね?」


夢乃「それがいいの!」


雪乃「ユメはカルーア大好きだからね」


夢乃「えへへ〜」


崇史「案外度数高いんだぞー」


夢乃「知ってる〜」


崇史「で、雪乃ゆきのはノンアル?」


雪乃「そ。ユメを見ないといけないし、元々そんなにお酒が好きって訳じゃないから」


真「いい姉妹だな」


崇史「ほんと、お前ら仲良すぎじゃね?」


雪乃「うちはずっと仲いいの。崇史たかしんとこはドライだよね」


崇史「そうそう、話しかけてもムシすんの、腹立つ」


夢乃「まことは一人っ子だっけ?」


真「そう」


夢乃「ここに双子が二組いるのが、すごいことだよねぇ」


真「双子って、クラスに一人いるかどうかくらいじゃない?」


雪乃「そうねぇ。でも、一人っ子って寂しくない?

今のマンション、一人で住んでるんでしょ?」


真「うーん…ずっと一人だからなぁ、特に寂しくはないよ」


崇史「俺もいるしな!」


真「こいつ毎日LINEしてくんの」


夢乃「ウザぁ」


雪乃「毎日はないわぁ、恋人かよ」


崇史「はぁ?!」


真「ははっ。…まぁ、だから、寂しいって事はないよ。たまにめんどくさいけど」


崇史「んんん…!!!もうLINEしねーぞ?!」


真「助かるー」


雪乃「ふふっ」


夢乃「あははっ!」


崇史「酷くないデスカ?」


雪乃「崇史たかしんとこって一卵性だっけ?」


崇史「そう。んで学校違うから、街歩いてると知らない奴によく話しかけられるんだよ!話が噛み合わなくって!浩史ひろしと間違ってんの!!」


真「あぁ、よく話かけられてるな」


崇史「マジめんどくせぇ!」


夢乃「うちはいつも一緒だからねぇ〜」


雪乃「そうねぇ、二卵性だし、そういう事はないわね」


崇史「昔はよく一緒に遊んだんだけどなぁ…」


夢乃「あ〜、寂しいんだぁ〜?」


崇史「そういうんじゃねぇよ」


雪乃「ほんとにぃ?」


崇史「しつこい!!」


夢乃・雪乃「あははははははっ!」


真「こういう話聞くと、兄弟がいるのもいいなぁって思うよ」


崇史「ウチのと替わる?」


真「いやいや」


雪乃「双子はしょっちゅう比べられるから、それで仲悪くなるってのも良く聞くよ?双子じゃなくても、兄弟の仲の良い悪いは環境によると思うし」


真「あー、そっかぁ…」


崇史「ん?どした?」


真「んー…そういえば小さい頃に、同い年くらいの子とよく遊んでたような、って思い出してさ」


崇史「あー、俺も、小さい頃はよく近所のガキらと遊んでたなぁ」


夢乃「でも、まことの実家って超お金持ちだったよねぇ?」


雪乃「使用人もいるんでしょ?」


真「まぁ……で、よく庭で遊んでたんだよなぁ」


崇史「使用人の子供と、か?」


真「いや、同じくらいの歳の子供はいなかったと思うんだけど…」


雪乃「ふぅん、まぁ、小さい頃の記憶だからねぇ」


夢乃「思い出せない事って、よくあるよ!」


真「あー………」


崇史「何?思い出そうとしてんの?」


真「いや、思い出せないって聞いて、今朝けさ見た夢を思い出して」


夢乃「どんな夢?」


真「それが、昔から何度も見る夢なんだけど、よく思い出せないんだよ」


雪乃「何回も見る夢ってあるよねぇ。私も小さい頃ずっと見てたなぁ」


夢乃「私、起きたらすぐ忘れちゃう〜」


雪乃「起きてすぐにメモすればいいんじゃない?」


崇史「うわっ、それダメ!絶対にダメ!」


真「なんで?」


崇史「それ、夢日記って言うんだよ。で、良くない事が起こるらしい」


真「良くない事って?」


崇史「知らん!とにかく、良くない事!!」


夢乃「え〜、崇史たかし、そんなの信じてるのぉ?」


真「迷信めいしんだろ?」


崇史「いやいや、有名な話よ?」


雪乃「初めて聞いたわ」


真「メモか…とりあえず、また夢見たら、スマホにメモすることにするよ」


崇史「おい!俺の話、聞ーけーよー!!!」


夢乃「うふふっ、崇史たかし、子供みたーい!」


崇史「うっせ!!!」


雪乃「私、夢を見ても、夢って気付けないのよねぇ。

どんなに非現実的な内容の夢でも」


夢乃「分かる〜!夢の中だ、って分かる人もいるみたいだよね?」


崇史「明晰夢めいせきむだっけ?自分の思い通りに夢を操れるってやつ。

夢って分かったら何する?俺、美女をナンパしまくる!」


雪乃「バカじゃないの?」


夢乃「私、ユキと一緒にケーキたっくさん食べる!」


崇史「夢でも一緒かよ!」


雪乃「妬くな妬くな」


崇史「妬いてねーよ!で、まことは?」


真「…夢かぁ………空を、飛びたい、かな」


崇史「ガキかよ!!」


真「はぁ?!空飛ぶの、気持ちいいんだぞ!」


崇史「なになに、もう飛んだ経験があんの?」


真「いや、たまに飛んでる夢を見るんだけど………いや、飛んでるっていうか…浮いてる?超低空飛行なの。膝くらいの高さを飛んでて。だから、もっと高い所を飛んでみたい」


夢乃「へぇ~!いいじゃん!かわいいじゃ〜ん!!」


崇史「かわいいかぁ?」


雪乃「お前よりはよっぽどかわいいよ」


崇史「あぁん?!」


真「でも夢って気付けないからなぁ。どうすれば気付けるんだろう」


夢乃「う〜ん…」


崇史「常に、『これは夢だ!』って思うようにしたら?

それで、夢の中でそう思えれば、明晰夢めいせきむになるんじゃね?」


真「なるほど」


雪乃「いいじゃーん、私もそれやろっかなぁ」


夢乃「え〜、じゃあ、私もやるぅ!」


崇史「んじゃ、誰が一番早く明晰夢めいせきむを見れるか、勝負だなっ!」


夢乃「気付けるかなぁ」


雪乃「夢乃ゆめのはすぐ忘れちゃいそう」


夢乃「ユキちゃんひどい〜!でも、私もそんな気がするぅ…」


崇史「もう脱落かよ、早すぎんだろ」


真「あははっ」


夢乃「あ、夢で思い出したんだけど、悪夢を見せて自分の養分にする、ナニカがいるんだって~!知ってる?」


崇史「ん?それってばくじゃなくて?」


雪乃「今流行ってる都市伝説みたいな、話」


崇史「ふぅん?にしても、ナニカって何だよ~って感じだけど」


夢乃「それが、気付かないうちに近くにいるんだってぇ!」


真「近くに?」


夢乃「そう!だから、ナニカが何なのか、良く分からないみたい。

分からないから、養分を吸われてる人間はどんどん体調悪くなって、死んじゃうんだって~!」


崇史「なんだそれ…うさんくさ~」


雪乃「都市伝説なんて、みんなうさんくさいわよ。

あっ、そういえばさぁ、明日レポート提出じゃなかった?」


崇史「げっ。……やな事思い出させんなよ…」


夢乃「レポートちゃんと出さないとぉ、落第しちゃうぞぉ?」


真「崇史たかしは毎回遅れるからなぁ」


崇史「なんだよ、お前らがいい子ちゃんすぎんだよ!」


雪乃「いいレポート書くくせにさぁ。提出日は守るようにしろよー?」


崇史「いつまでに〜、とか、俺、そういうの苦手なんだよ…」


夢乃「苦手でも、やらなきゃ怒られるよ?」


崇史「遅れるの、俺一人だけじゃないからヘーキ」


真「何人か遅れるからって、許されてる訳じゃないぞ?」


崇史「もういいよ、この話はぁ」


雪乃「バツが悪くなったな?」


崇史「飲みに来てるんだし、楽しい話しよーぜ?」


夢乃「楽しい話、ねぇ」


雪乃「なんだろ」


真「…熱帯魚?」


崇史「振り出しかよ!」


崇史以外「あははははははっ!」


(間)


崇史「…じゃー、そろそろいい時間だし、帰るかー」


夢乃「え〜!もう帰っちゃうのぉ〜?」


雪乃「時間はあるけど、我ら大学生には金がない!」


真「ほんとそれな」


崇史「まことんちは?こっから近いよな?」


夢乃「えっ!まことの家!?(勢いよく立ち上がり、ふらつく)うわっ、わっ、」


雪乃「ちょっと、ユメ!危ない!(倒れそうになる夢乃を支える)

もぉ〜!急に立ち上がらないの!」


夢乃「うぅ、ありがと、ユキぃ」


真「俺はいいけど、今日は飲み過ぎだ。また今度な(夢乃の頭を撫でる)」


夢乃「…う〜、じゃ、また今度……絶対だよ?約束ね?!」


真「(笑いながら)はいはい」


崇史「おーい!仲間外れにすんなよぉー!!!」


雪乃「大丈夫だよ。みんなで、またね」


真「気を付けて帰れよ?」


夢乃「うんっ!じゃ〜ねぇ!まことぉ!崇史たかしぃ〜!」


雪乃「また明日ー!」


崇史「おー!」


真「じゃあまた」


(間)


(帰り道、真と崇史)


崇史「はぁ…夢乃ゆめのさぁ、絶対お前の事好きだってぇ」


真「またその話かよ…好きなら好きって言えばいいのに」


崇史「今の関係が壊れんの、やだからさ…」


真「崇史たかしって、意外と繊細だよな」


崇史「うっせ」


真「でも、崇史たかしには雪乃ゆきのの方がお似合いだと思うよ。

雪乃ゆきの、しっかりしてるし」


崇史「やだよあんな口うるさい女。俺は守りたくなるような、可愛い子がいいの!」


真「雪乃ゆきの、美人じゃん」


崇史「やめやめ、雪乃ゆきのはない」


真「ま、向こうもそう思ってるって」


崇史「はぁ?!ムカつく奴だなぁー、そういう事言うなよぉ!!

(歩きながら真にもたれ掛かる)」


真「おいー、歩きづらいから離れろ?」


崇史「ちぇ、冷てぇー」


(間)


(帰り道、雪乃と夢乃)


夢乃「(雪乃にもたれ掛かりながら)ん〜、ユキちゃ〜ん」


雪乃「(夢乃を支えながら)なーにー?」


夢乃「…まこと、どんな子が好きなんだろぉ…」


雪乃「それは知らないけど、全く脈なしって感じではないんじゃない?」


夢乃「えっ!えっ!?なんで?!なんでそう思うのぉ?!」


雪乃「ちょっ、うるさい!(顔を軽く叩く)」


夢乃「いたっ!」


雪乃「もー!ユメ、酒臭い!」


夢乃「やだやだぁ、そんな事言わないでよユキちゃ〜ん!」


雪乃「……さっきさ、帰り際に、ユメの頭撫でてたじゃん?」


夢乃「うん」


雪乃「ああいうの、ユメにしかしないんだよね、まことは」


夢乃「…そおなの?」


雪乃「そ。」


夢乃「…そっかぁ…へへっ(思い出して照れる)」


雪乃「てか、崇史たかしのアピールがウザすぎて」


夢乃「アピールぅ?」


雪乃「気付いてんでしょ?…って、ユメはまことしか見えてないか…」


夢乃「うん………大学卒業したらさぁ、離れ離れになっちゃうし…それまでにはどうにかしたいんだけどさぁ〜…」


雪乃「…だね。会う機会も減っちゃうし…(小声で)私も頑張らないとかなぁ」


夢乃「ん〜?何か言ったぁ?」


雪乃「何にも言ってないよ〜」


夢乃「ほんとにぃ〜?」


雪乃「ほんとに。ユメにウソいたことある?」


夢乃「な〜い!ユキちゃん、だ〜いすき!」


雪乃「わっ、急に抱きつくなぁ!危ないでしょ!」


夢乃「えへへ〜」


雪乃「まったく…ほら、ちゃんと歩いて」


夢乃「はぁ〜い」


(間)


(朝、真のマンション)


真「(欠伸あくびをして)…ん…またこの夢か…」


真「………スマホ、スマホ……メモ、メモ…」


真「つっても、ほとんど思い出せないんだけど…メモ続ければ、もっと思い出せるのかなぁ…」


真「…っと。入力終わり…そろそろ起きるかぁ…」


真「おはようベタちゃん、今日もキレイだね………

ってか、ほんとキレイになってる?…気の、せい?だよな…

うーん…やっぱり、この水槽だと寂しいかな…

石とか植物入れれば、それなりに見えるのかなぁ…?」


(間)


崇史「よーっす!」


真「…はよ」


崇史「眠そうだなぁ」


真「朝は弱いんだよ…」


崇史「一日の始まりは大切よ?」


真「帰りにまた行こうと思うんだけど。ベタ買った店」


崇史「おっ、魚増やすの?」


真「いや、水草みずくさとか砂とか見たくて」


崇史「あー、なるほど。あの水槽、殺風景だもんな」


真「そ、だからさ」


崇史「じゃ、夢乃ゆめの雪乃ゆきのも誘おうぜ!

(ポケットからスマホを取り出し弄る)」


真「またみんなで行くの?」


崇史「いーじゃん!」


真「予定が無いようなら、誘うか」


崇史「どうせ何もないだろ」


真「決めつけるなよ…」


崇史「おっ、きたきた」


真「ん?」


崇史「二人とも行くってさ、ホレ(LINEの画面を見せる)」


真「…はや。つか、いつの間にLINEしてたんだよ」


崇史「俺の行動力を見習いたまえ?」


真「はいはい、すごいよ」


崇史「それ、本当に思ってる?」


真「思ってる思ってる……あ、そういえば、今朝、また見たよ。いつもの夢」


崇史「あー、いつも見る、ってやつ?んで?メモしたの?」


真「した。…けど、『メモした』って言っていいのか分かんないくらいの情報量の少なさでさ(苦笑い)」


崇史「何回も見てんのに、そんなに思い出せないモンなの?」


真「うーん、『同じ夢』ってのは分かるんだけど…」


崇史「ふーん」


真「崇史たかしはないの?同じ夢を見る事」


崇史「同じ夢ねぇ…俺はないかなぁ」


真「続き物は?」


崇史「何、続き物って」


真「夢がさ、続くんだよ。同じ世界観で」


崇史「連載物みたいな?」


真「そうそう」


崇史「そんなのもあるの?器用すぎん?」


真「器用かどうかは分からんけど、そういう夢も見るよ」


崇史「見過ぎだろ、夢」


真「みんな見てるはずなんだよ。忘れてるだけで」


崇史「そうですかー。まぁ、俺には関係ない話だなぁ」


真「『これは夢だ』ってやつは?」


崇史「………あー…(笑って)忘れてたわ!」


真「発案者が忘れるなよ」


崇史「仕方ねーじゃん、興味がないんだよ」


真「じゃあ仕方ないな」


(間)


夢乃「え〜!崇史たかし、『これは夢だ!』ってやつ、もう忘れてたのぉ?」


雪乃「コイツ、興味ない事にはトンと無関心だからなぁ」


崇史「へーへー、仰る通りですよー」


夢乃「私ですら覚えてたのに〜」


真「崇史たかしが脱落者、一人目だな」


雪乃「まぁ、そんな気はしてた」


崇史「脱落でいいよ、もう…」


夢乃「あっ、ねぇねぇまことぉ、水草みずくさ買ったらさぁ、みんなでまことの家に行っちゃダメ?」


真「別に構わないけど…俺んち何もないよ?」


崇史「コンビニでなんか買ってけばいいだろ」


雪乃「私、コンビニでアイス買おー」


夢乃「あっ、私も!今さぁ、話題になってるアイス、売ってるかなぁ?」


雪乃「売り切れてなければあるよ」


夢乃「まだ食べてないから、食べたぁい!」


崇史「夢乃ゆめの、そんなにアイス好きだったっけ?」


雪乃「ユメは『流行り物』が好きなの」


崇史「あぁ、なるほどね」


夢乃「だって流行ってるって事は、美味しいってことじゃん?」


雪乃「そうとは限らないでしょ?変な味のやつとかも話題になったりするじゃん」


夢乃「そういうやつは食べないも〜ん」


真「あー、話切ってごめんだけど、みんなの家の水槽って、魚の他に何か入れてる?」


雪乃「うちは砂利じゃり敷いてるよ」


夢乃「ゴロゴロした、カラフルなやつ!可愛いよぉ!」


崇史「うちも砂利じゃりだな、白の小粒のやつ」


真「やっぱ砂利じゃりかー」


夢乃「ベタちゃんの水槽なら、白い砂利じゃりがいいかもね!

ベタちゃんの色が引き立つし!」


真「だな、あとは水草みずくさを買おうか悩み中…」


夢乃「水草みずくさも可愛いのあるからねぇ〜」


雪乃「でもベタはヒレが絡まったりしちゃうんじゃない?」


真「ん〜…店員に聞いてみるかぁ」


(間)


夢乃「はぁ~、ベタちゃんには、入れちゃいけない水草みずくさと、入れてもいい水草みずくさがあったんだねぇ」


雪乃「やっぱりヒレが絡まっちゃうんだね、勉強になったわ」


真「調べておけばよかったな…店員が詳しくて、よかった」


夢乃「せっかくのヒレがボロボロになっちゃうのはねぇ、可哀想だもん!」


真「うん。さてと、水草みずくさ砂利じゃり買ったし、あとはコンビニか」


夢乃「水槽が賑やかになるの、楽しみだね!」


真「うん」


雪乃「ユメー、アイスの他に何買うのー?」


夢乃「んっとぉ、スイーツと、おつまみ!」


雪乃「ご飯は?」


夢乃「あー、どうしよっかなぁ…」


崇史「俺弁当と酒適当に買ってくわ」


雪乃「パスタ半分こする?」


夢乃「あ、うん!」


崇史「そんなんで腹減らねーの?」


雪乃「これでもウチら、女子だから。っていうか、ツマミも買うし」


真「んじゃ俺はおにぎりとサンドイッチを…」


崇史「米とパン、一緒に食うのかよ!」


真「食べたいもの迷うから、結構この組み合わせやるけど」


崇史「俺は無理だな!」


夢乃「あっ、ポテサラ買お〜っと!」


崇史「これで全部ー?会計しちゃうよー」


夢乃「あ~!待って待って!アイス見てくる!」


崇史「んじゃ並んでるー」


雪乃「崇史たかしの奢り?」


崇史「んな訳ねーだろ!ここは俺が払うけど、後で徴収するから」


雪乃「けち」


崇史「あ?」


夢乃「アイスあったよ〜!」


崇史「…二個?」


夢乃「え、崇史たかしも食べたかった?」


崇史「いや、要らないけど」


夢乃「じゃあいいじ〜ん!私とユキの分!

あっ、まことは?まこともアイス食べたかった?」


真「大丈夫」


夢乃「じゃあ、美味しかったら、一口あげるね!」


真「ん、ありがと」


崇史「おい、イチャイチャするなぁ!」


夢乃「イ!イチャイチャなんて!してないよぉ!」


崇史「………はぁ…泣きてぇ…」


雪乃「自分から言ったくせに。ほんとバカなんだから」


崇史「るせ、ほっとけよ」


雪乃「仕方ないから一緒に居てやるよ」


崇史「うっ…!雪乃ゆきのの優しさが沁みた…」


雪乃「今更気付いたの?」


(間)


夢乃「わぁ!おっじゃまっしまぁ〜す!」


雪乃「お家、広いねぇ」


夢乃「生活感ないねぇ」


崇史「家賃高そう…」


崇史「(リビングまで歩いて行って)まことー冷蔵庫開けるぞー」


真「おー、適当に使ってー」


夢乃「あっ、ベタちゃん!」


雪乃「うーん、やっぱり水槽デカいねぇ」


真「これから砂と水草みずくさ入れるから、そっちのソファで始めてて」


夢乃「あれ、このベタちゃん、なんか尾ヒレが大きくなってない?」


雪乃「えー?気のせいじゃない?尾ヒレって成長しないでしょ?」


夢乃「ん~…ふふっ。でも、ベタちゃん、やっぱりキレイ」


真「この子は特に、ね」


雪乃「そういうのは、女の子に言ってあげなよー?」


崇史「おーい、アイス溶けるぞー」


雪乃「ユメ、アイス食べよ」


夢乃「うん!」


真「タオル持ってこよ」


夢乃「よいしょ、っと!写真~写真~」


雪乃「あってよかったね」


夢乃「ほんと~!なかったらテンション下がってたよ~」


崇史「そんなに?」


夢乃「そんなに!だってみんな食べてるのに、私だけ食べられなかったら悲しいもん!」


(間)


真「ふぅー…入れるモンは入れたし、砂が落ち着けばキレイに見えるだろ…

これで寂しくなくなるといいな、ベタちゃんよ」


夢乃「まこと~、終わったの?」


真「終わったよ」


崇史「じゃー早くこっち来て混ざれよー!」


真「タオル置いてきてからな」


崇史「まこと、戻るときビール持ってきてー」


真「(廊下の方から)はいはーい」


真「(戻って来て)ん、ビール」


崇史「サンキュー!」


真「夢乃ゆめの雪乃ゆきのは?」


雪乃「まだあるから大丈夫」


夢乃「私も大丈夫だよ!まことも一緒に飲も~!」


崇史「ほら、こっち座れよ」


夢乃「え〜!崇史たかしの横に座るのぉ?」


崇史「なんでよ、いいじゃん!」


雪乃「ほら、ユメもこっちおいで」


夢乃「(不満げに)は〜い」


崇史「しっかし部屋綺麗すぎかよ、まことって潔癖だったっけぇ?」


真「いや、物がないのもそうだけど、ウチにはコイツがいるから」


夢乃「ルンバ!」


雪乃「えっ、ペットみたいに言うの、可愛い」


真「え、ルンバかわいいじゃん」


崇史「その感性は分かんねぇわー」


雪乃「ふふっ、意外な一面ねぇ」


夢乃「まこと、かわいい〜!ふふふっ!」


崇史「えっ、俺もルンバになろうかな?」


雪乃「バカか」


(間)


雪乃「ユメ、眠い?」


夢乃「…ん〜…」


雪乃「そろそろ帰る?歩ける?」


真「泊まってけば?夢乃ゆめの雪乃ゆきのはベッド使って。

俺らソファで寝るし」


雪乃「ほんと?助かるー」


崇史「(ニヤニヤしながら)夢乃ゆめのは寝顔も可愛いなぁ〜」


真「ベッドまで運ぼうか?」


雪乃「ありがとう、頼むわ」


真「おっけー。じゃ、ちょっと行ってくる」


雪乃「うん、よろしく」


真「はいよ。よいしょっ、と…」


(間)


雪乃「…ふぅ…」


崇史「あのさ…なんかあった?」


雪乃「…なんでよ」


崇史「なんつーか…最近テンション低い気がして」


雪乃「………ふー(溜息)、ほんと…なんでアンタってこういう勘は鋭いのかなぁ」


崇史「なんかあるなら話くらい聞くけど?」


雪乃「…」


崇史「…」


雪乃「誰にも言わないでね…特に、夢乃ゆめのには」


崇史「珍しいな、いつもべったりなのに」


雪乃「まぁ、夢乃ゆめのはね…極度の寂しがりだから、誰かが側にいないとダメなのよ」


崇史「で?ケンカでもしたのか?」


雪乃「ううん、ただの夢」


崇史「…は?」


雪乃「だから、夢。最近ずっと、ユメが泣いてる夢を見るの。

毎日毎日。もう二週間くらいになるかなぁ」


崇史「はぁ?!なんだよ、夢の話かよ!」


雪乃「私だって夢くらいでこんなにテンション落ちないわよ!いつもは!

でも二週間、毎日よ?!おかしいでしょ!!」


崇史「…ソレ、夢乃ゆめのには言ってねぇの?」


雪乃「言わないわよ。だからアンタも、言わないでよね」


崇史「分かってるよ」


雪乃「なんなんだろ…なんか嫌な事が起きそうで…」


崇史「ただの夢だ。気にすんな」


雪乃「…うん」


崇史「…泣いてんの?」


雪乃「泣いてねーよ、バーカ」


崇史「うっわ、心配して損した」


雪乃「心配したの?」


崇史「そりゃするだろ!」


雪乃「………そっか」


崇史「?なんかお前、変だぞ?」


雪乃「うるさい」


崇史「俺の有難いお言葉に、感動しちゃった?」


雪乃「何言ってんだか、バーカ」


崇史「バカバカ言うんじゃねぇよ!」


雪乃「…さてと、私もベッドに行こうかな」


崇史「もう寝んの?」


雪乃「夢乃ゆめのを一人にしたくないから」


真「(部屋に戻ってきて)お、雪乃ゆきのも寝るの?」


雪乃「うん。ベッドどこ?」


真「あの扉のとこ」


雪乃「ありがと。じゃあ、おやすみ。お前らも早く寝ろよー」


崇史「わーってるよ!」


真「おやすみ」


(次の日の朝)


真「…うー…やっぱソファで寝ると、体痛いな…」


真「…あっ…」


真「………昔の夢だ…庭で誰かと遊んでる夢…」


真「…でも…誰と…?」


(間)


雪乃「よしよし…」


夢乃「ふぇ…」


真「(ノックしてから扉を開ける)…おはよ、どした?」


雪乃「おはよ。夢乃ゆめのが怖い夢見たみたいで」


夢乃「うぅ…もう、大丈夫ぅ…」


真「(夢乃の横に座って)ほんとに大丈夫?」


夢乃「…なんか、すごく悲しい夢を見たの…大切な人が居なくなって、悲しくて悲しくて、たくさん涙が出てきて…でも、その『大切な人』が誰か分からなくて…」


真「ん、大丈夫。よしよーし(夢乃の頭を撫でる)」


夢乃「(鼻をすすって)…へへ、まことが頭撫でてくれたから、ちょっと元気出た」


雪乃「ゲンキンなヤツ〜!!」


崇史「(リビングから)おーい、みんな起きてんの〜?」


真「起きてるよー!さて、リビングに行く前に顔洗っておいで」


夢乃「うん、そうする」


雪乃「タオル借りていい?」


真「出しておくよ」


雪乃「ありがと」


真「使い終わったらそこら辺に置いといていいからね」


雪乃「分かった。ユメ、行こう?」


夢乃「うん」


崇史「なぁ、今日の講義、午後からだよなぁ?」


真「うん。(伸びをして)まだ時間あるし、ベッドで寝直そうかな…」


崇史「帰って風呂入って…今日って何か持ってかないといけないものってあったっけ?」


真「いや、特にないはず」


崇史「さてと。んじゃ、またまことんちで集まろうぜー」


真「溜まり場にするなよ」


崇史「いーじゃん!広いし!」


真「狭くても来そう」


崇史「あははっ!バレたかー!」


雪乃「あれ、崇史たかし帰るの?」


崇史「おう」


雪乃「もう少し待ってよ、一緒に出ればいいじゃん」


夢乃「まこと〜!タオルありがと!」


真「ん」


崇史「早く準備しろー、帰るぞー」


夢乃「えっ、待って待って!」


雪乃「十分じゅっぷん待って」


崇史「しゃーねぇなぁ」


真「と、言いつつ、満更でもない顔してんじゃん」


崇史「るせっ」


真「なんだかんだ、面倒見いいよね、崇史たかしって」


夢乃「(ベッドルームから)ユキ〜、私のスマホ、どこぉ〜!」


雪乃「(ベッドルームからリビングへ歩きながら)えー、リビングかなぁ?鳴らしてみる?」


夢乃「お願い〜」


雪乃「(夢乃のスマホに電話をかける)お、鳴ってる鳴ってる。リビングにあったよー」


夢乃「(リビングに来て)ありがと!…あれ、ベタちゃん超元気に泳いでる!」


雪乃「ほんとだ。砂と水草、気に入ったのかなぁ」


崇史「んじゃ、帰るかー!」


夢乃「忘れ物ないかな〜」


真「何か忘れてたら連絡して。学校持ってくから」


夢乃「分かった!ありがと!へへっ」


崇史「行くぞー」


雪乃「じゃあ、ありがとう!またね、まこと!」


(間)


夢乃「えっへっへ〜」


崇史「ゴキゲンじゃん」


雪乃「起きた時は泣いてたのにねぇ」


崇史「はぁ?なんで」


雪乃「怖い夢、見たんだって」


崇史「夢、ねぇ…みーんな夢の話ばっかじゃね?最近」


夢乃「みんな?まことと、私だけじゃないの?」


雪乃「…」


夢乃「あっ、崇史たかしも?何か夢見たの?」


崇史「なんでそーなるんだよッ!!」


夢乃「じゃあ、雪乃ゆきの…?」


雪乃「私じゃないよ。崇史たかしはバカだから日本語が苦手なの」


崇史「おいっ」


夢乃「あははっ!あ、じゃあ私たち、こっちだから!またねぇ、崇史たかし!」


崇史「おー!」


(間)


夢乃「うっふっふー」


雪乃「ほーんと、ご機嫌ねぇ」


夢乃「だってぇ、起きたらまことのベッドでさぁ〜!」


雪乃「運んでくれたのもまことだよ」


夢乃「そうなの?!」


雪乃「そう、お姫様抱っこでぇ」


夢乃「う、う、嘘ぉ!!…はっ!」


雪乃「ん?どうしたの?」


夢乃「…私、重たくなかったかなぁ!?」


雪乃「大丈夫でしょ、軽々と持ってたし」


夢乃「う〜!起きてれば良かったぁ!!!」


雪乃「(笑って)起きてたら抱っこしてないでしょ」


(間)


(真の家、ベッドルーム)


真「ふぁ〜、ちょっと横になろ…」


(ベッドに横になって目を瞑り、だんだん眠くなってくる)


真(夢日記を書き始めて、どれくらい経つだろう…)


真(最初は、同じ夢を見た自覚だけで、何も書くことが無くて…)


真(少しずつ、思い出してきて…)


真(あれは…ウチの庭で…)


真(誰かと…一緒、に…)


(寝息を立てる音)


(間)


真「(夢から覚めて起き上がる)…ッッ!!!!!」


真「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ………」


真「今の………夢、は………!!」


真(俺と同じ顔だった…!!!)


(間)


(大学、教室にて)


雪乃「あれ?崇史たかし一人?」


夢乃「まことはぁ?」


崇史「さぁ、まだ来てないみたい。LINEも返信ないし、通話も出ねーんだよ」


夢乃「え〜、どうしたんだろう」


雪乃「寝てたりして」


崇史「あー、ソファで寝て体痛いって言ってたし、あの後、ベッドで寝るって言ってたからなぁ」


夢乃「そっかぁ…なんか悪い事しちゃったなぁ…」


雪乃「まぁ、まことは真面目だし、この講義欠席したくらいじゃ差し支えないでしょ」


(間)


真「何ヶ月ぶりだろう…実家に来るの…」


真「何でずっと住んでたのに、思い出さなかったんだろう…」


真「この庭で、一緒に遊んでいた子供…」


真「…夢で見たのは、俺と、同じ顔の子供だった…」


------------------------------

以下、

雪乃→幼少期、真

夢乃→幼少期、???

------------------------------


???「ボクは、要らない子なの?」


真「そんな事ないよ」


???「だってさぁ!父さまが、『ちょうなん』に家を継がせるって。

『ちょうなん』って、まことの事でしょ?じゃあボクは、要らないじゃん!」


真「そんな事はないよ。ずっとずっと、一緒だよ」


???「………」


真「どうしたの?」


???「………れば」


真「え?なに?」


???「まことさえ、居なければ、ボクが!!!」


------------------------------


真「うっ……なんだ、これ…」


真「頭が、痛い…」


真「…でも、夢じゃなくて、」


真「現実、だったんだ…」


------------------------------


(回想)(リバーブ使える方はリバーブ推奨)


崇史「それ、夢日記って言うんだよ。で、良くない事が起こるらしい」


------------------------------


崇史「夢乃ゆめのっ!雪乃ゆきのっ!まことがっ!!!」


(間)


雪乃「なんで…」


夢乃「(号泣しながら)いやだっ!やだっ!やだっ!なんでっ!なんでぇっ!?!?」


崇史「なんで飛び降りなんか…アイツ、何か悩んでたり、してたか?」


雪乃「私よりアンタの方が、側にいたでしょ…」


崇史「……ぜんっぜん、分かんねぇ!!」


夢乃「まことぉ〜!!!やだよぉ〜!!!目ぇ、覚ましてよぉ〜!!!」


雪乃「夢乃ゆめの…」


崇史「くそッ」


(間)


真「何で忘れてたんだろう……

俺も、居たんだ…双子だったんだ…

双子の、出来のいい兄が…

まこと』が………

自分は要らない子なんだって…いつか捨てられるんだって、そう思って…

それであの日、階段から…『まこと』を…

それで、『まこと』として、生きてきたんだ………

ごめん…ごめん…まこと!!

俺も今、そっちに行くから………!」


(間)


雪乃「その日、まことの住んでいた家に家宅捜査が入り、墨汁のように真っ黒な水で満たされた水槽に、ベタが浮かんで死んでいたそうだ」

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