旅路2

 鬱蒼とした草木が不気味に揺れている。どこからか、獣の鳴き声が聞こえてきた。先程から何度か聞こえて来ている。その度に、シナノが肩を震わせ、俺の腕を掴む。町での出来事があったせいか、通常の年齢よりも大人びて見える。しかし、こういう姿を見ると、年相応だと思える。俺はどこか得をした気分になっていた。


「王都ってどれくらい」


 堪らずシナノが聞いてきた。元々、無口な二人だ。俺は極端に沈黙が怖いから話さないと気が済まない。しかし、二人は話すことが苦手みたいだ。半ば、俺の独り言が続いている状態だったから少し安心した。


「んー、ここからだと後二三日はかかるかな」


「この森は」


 どうやら、その質問が本命だったらしい。


「もう少しで抜けると思うよ。今日中にはこの森の先にある町に行きたいな」


 俺は確認するようにホウショウの方へ目線を向ける。


 ホウショウは何かを考え込んでいた。今までにないほど、真剣な表情だ。俺は不思議に思いつつ、ホウショウの顔を見続ける。


 あの町を出てから、どうにも様子が可笑しい。普段も口数が多い方ではないが、さらに口数が減った気がする。顔の皺も増え、凶悪な顔になっていることが多い。俺の杞憂で済めば良い。だが、杞憂ではなかったら。思考がどんどん嫌な方向へと向いていく。俺の悪い癖だとは思いながらも、どこか胸に引っ掛かりを覚えていた。


「あ」


 シナノの呟きに、急いで前を向く。


 いつの間にか森を抜けていたらしい。日向が照らし、俺の目を刺激した。目が慣れると、その全貌が明らかになる。


 小さな古びた建物が一軒。外観は年季が入っているが、様々な装飾が施されている。それは繊細で、並大抵の技術では完成しない。


 どこかで似たような建物を見た気がする。既視感を覚え、記憶を手繰り寄せる。記憶の欠片の一つ一つが繋がっていくような感覚。そうだ。本で見たのだ。確か、一昔の流行の建物として、紹介されていた。ハーフティンバー様式で、今はどの国でも見なくなった。そう考えると、古びていることにも納得する。一体、誰が建てたものだろうか。もうこの世にはいないであろう名も知らぬ人物に思いをはせる。


 よく見ると、扉の周りには色とりどりの光が漂っている。その光があるから建物の時が進んでいるのだと思う。何かの術のようだ。俺は術師ではないから詳しいことは分からない。だが、人の目を引き付ける魅力がその建物にはあった。術を疑うのも仕方がないことだ。


 何を思ったのか、ホウショウが建物の方へと歩いていく。その瞳にはそれしか映っていないようだった。俺とシナノもホウショウについていく。ここで制止するのは不躾だと思った。加えて、今のホウショウが制止を素直に聞くとも思えなかった。シナノも何も言わない。どうやらこの行動は正解みたいだ。


 近くに来ると、建物の美しさがよく分かる。本当は真っ白だった部分が土の色になっている。まるで、何かを覆い隠しているようだ。それさえも、建物の美しさを演出しているものだと思えてしまう。本当に、奇妙な建物だ。


「見世物、小屋?」


 建物の近くの看板には拙い字でそう書かれていた。噂には聞いたことがあるが、何をしている場所かは分からない。興味もなかった。未知の領域に、背中が寒くなる。唾を一飲みする。


 横目で二人の様子を確認しようとすると、ホウショウが扉に手をかけているところだった。俺は焦ってホウショウの手首を掴む。しかし、その効果はなく、もうすでに扉が開かれていた。


 中は暗く、一瞬で呑み込まれてしまいそうだ。うっすらと風も吹いてきている。俺が一歩を踏み出すのを躊躇っていると、すぐ隣で前に進む影があった。誰かなんてすぐ検討がつく。ホウショウは変なところで怖いもの知らずだ。俺は急いでホウショウの背を追った。


 突然、辺りが明るくなる。目に手をやり、ダメージを軽減する。そこには一人の老婆が立っていた。腰を曲げ、杖をついている。


「おや、いらっしゃい。初めてのお客さん」


 老婆は気味悪い笑顔でそう言った。外からは雨が降り始めた音がする。それは段々と強くなり、窓を壊す勢いだった。


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