能力2
「全て。どういうことだ。大体、誰が話している?」
確かに、傍から見たら怪奇現象である。俺は何回かこの声を聞いたことがあるから耐性はあるが、二人は違う。どう説明すれば良いのか困ってしまう。
「まあ、そう慌てるな。俺はこいつだ。えっと、なんて言ったかな。チセ?いや、チセト?」
「チトセ」
「そう、チトセ。俺はこいつの分身みたいなものだ。お互い嫌って言っても離れることは出来ない。そういう深い関係にあるのさ」
意味深な言い方だが、俺の認識としても大体合っていた。
二人の様子を窺うと、ホウショウは腕を組みながら考えるような素振りをしていた。シナノはというと、その表情は驚愕に染まっていた。思っていた反応と違う。一体、どうしたというのだろう。
「僕、知ってる」
小声だったが、静かなこの空間にはよく響いた。
「知ってる。鬼、でしょ」
「ほう、黄の方はもう共鳴していたか。いや、違うな。この気配は一度共鳴したが、また共鳴前に戻ったってところかな」
「どういうこと」
真っ当な疑問だ。自己完結はしたみたいだが、俺たちからしたら何を言っているのか分からない。もう少し分かりやすく説明してもらいたいものだ。
「そこの少年が言った通り、俺は鬼だ。人間の欲の中に巣食う鬼。そして、さっき言ったように、俺はお前でお前は俺だ。三人とも、鬼と契約しているだろ。その証拠に、身体のどこかに一生消えない傷跡があるはずだ。記憶になくとも、確実に契約は行われている。そして、お前らが鬼の力を欲した証拠でもある」
笑みを含んだ声がする。あの時出会った炎の鬼を思い出す。輪郭しか分からないが、どういう表情で話しているか、何となく分かる気がする。これも契約しているからだろうか。
「声は、声はこの間まで聞こえなかったよ」
「それこそ、俺とお前が共鳴したんだ。力をただ持っていたって使いこなさなければ話にならない。今までは俺の力を制御出来ていなかった。だが、ここ数日、心の変化があっただろう」
鋭いと思う。それはそうだ。こいつは俺でもあるのだから。俺のことをよく知っているのは当たり前のことか。自分の中に二つの人格が存在しているようで、少し気味悪く思ってしまう。
「その心の変化で俺の欲する欲と共鳴した。だから、俺と会話できるし、今なら俺の能力だって使うことも出来る。普段は契約者としか話さないんだが、面白い奴らが揃っているし、特大サービスだ」
シナノは明らかに怯えた顔をしていた。鬼のことを知っていたということは、シナノはその鬼に会ったことがあるということだ。それほど、鬼に嫌な思い出があるのだろうか。尋常ではない怖がり方に心配してしまう。
ホウショウは額に皺を寄せて固まっている。小さな子供が見たら今にも泣きだしそうなほど、恐ろしい顔だ。それはそれで逆に心配になる。
何と言葉をかけて良いか迷う。二人も頭の整理は出来ていない状態だし、まだ分からないことばかりだ。
「因みに、鬼は段々契約者に似てくると言われている」
「「ああー、確かに」」
ホウショウとシナノの言葉が見事に重なった。なぜ、そこで一致団結してしまうのか。大体、二人は俺よりも出会ったばかりのはずだ。それなのに、なぜ距離が近くなっているのか。二人とも俺に冷たい気がする。
あの鬼と俺が似ている。絶対違う。似ているはずがない。
「ど、どこが」
「胡散臭い」
「笑顔」
二人とも即答だった。明らかにホウショウの応えは悪意があると思う。凍えそうなホウショウの視線を遮るように、俺はベッドからシナノの腰に腕を回す。シナノは驚いたようだが、徐々に身体の硬直は解け、俺の腕に手を当てていた。なぜ、シナノの体温は高いのだろうか。冷えた心まで温まりそうだ。
さらに皺が深く刻まれたホウショウの方は一切見ないことする。
「まあ、今俺から言えることはここまでかな。能力の使い方とか、本当に俺が必要になった時は手助けしてやるから。じゃあな」
「あ、ちょ、待って」
その声も虚しく、鬼からの返答はなくなってしまった。結局あまり詳しいことは聞けなかった。ホウショウもシナノも鬼と契約していたのは驚きだ。もしかしたら、この傷が二人に出会った時に赤く光ったのも関係があるのだろうか。
最近、日々が目まぐるしい気がする。
今までの空っぽな日常が嘘のようだ。自分でも、良い出会いだったと思う。二人とも何か隠し事があるようだし、ここまで知ってしまった。もうこの関係は後戻り出来ないところまで来ているのかもしれない。そんなことを思いながらも、ホウショウとシナノが傍にいてくれることに安心感を覚えてしまう。そんな俺は、結局どうしようもないのだ。
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