将来の夢は魔法使いです

中村 天人

小学2年生の時に、私の人生は決まっていた

「私の将来の夢は、魔法使いになることです」


 そう発言して馬鹿にされたのは私が小学2年生のころ。


 クラス全員の目が自分に集中する。

 魔法使いという突拍子もない夢に、すぐにまわりの男の子たちが集団でからかいはじめ、騒然となった。


 その時の担任の先生は、「魔法使いなんて可愛いべや~笑」と半分笑いながらフォローしてくれたのだが、先生にも笑われたことで逆にショックを倍増させた。


 その時まで、私は魔法使いになりたいと思うことが変なことだとは一切思ってなかったので、周りの反応にとても驚いたのを覚えている。


 しかし、この時の経験で「将来の夢が魔法使い」というのは人と違って変なことなんだと分かり、とてつもない恥ずかしさと共に私の心の奥底へ夢を封印した。


 将来の夢は、お花屋さん。ケーキ屋さん。看護師さん。

 魔法なんて非現実的なことは二度と言うことはなかった。



 それから数十年。



 2020年1月、中国で謎の肺炎が相次いだ。

 当時、「人人感染は起きない」なんて言われていたが、1月29日、渡航歴のない日本人も肺炎を発症。2月13日には国内で初の死者が出て、翌日14日には屋形船でクラスターが発生した。


 その後、あれよあれよという間に世界中で感染が拡大していき、3月12日にはWHOがパンデミックを宣言、アルコールやトイレットペーパーの買い占めが起き、店頭からマスクが消えた。


 今から約一年前の出来事である。


 まだ感染が終息する気配もなく、昨年4月にハーバード大学が発表していた「2022年まで社会的距離を保つ必要がある」と言う説が真実味を帯びてきた。


 私が住む田舎は、人口密度が低いので比較的社会的距離は保ちやすいが、それでもあちこちでクラスターが発生している。自分と家族の身を守るためには外出を控えざるを得ない。


 私は比較的ポジティブな人間であまり落ち込むことは無い。そんな私でも、初めのころは誰にも会えず家で過ごす時間に不安を募らせ、「人に会わないだけで精神的に落ち込んだりするんだ」と驚いた。


 しかし、落ち込んだのはわずかな間だけ。

 今ではすっかり家での時間に慣れ、外出自粛で増えた自宅時間を小説の執筆に当てている。


 それまで、小説なんて書いたことはなかったし、始めはなぜ書いているのかも分からなかった。

 でも、ただすごく面白くて、誰にも読まれないまま自分のためだけに書き続けた。


 なぜ面白かったのか。

 それが分かったのは小説を書き始めて2カ月後。


「これが小さい頃からの私の夢だったからだ」


 突如、青天の霹靂と共に私の脳が理解した。



 ————将来の夢は、魔法使いになることです



 あの時、羞恥心と共に心の奥底に封印した夢。

 忘れようとしていたけど、私がなりたいのはやっぱり魔法使いで、それは大人になった今でも変わっていなかった。


 そう気が付いた時は自分でも驚いた。


 私が書いている小説は、魔法が出てくる現代ファンタジー。

 小説を書いている間、私はファンタジーの世界に住み、魔法使いになることができた。キャラクターを通して魔法を使い、困難を乗り越え、成長して世界を広げて行く。


 私が一番なりたかったのは小説家だったんだ。

 そう気が付いてから、私は恥ずかしげもなく周りにこう言っている。


「私の小さい頃の夢は魔法使いだった。そしてそれを今実現している」


 今でも笑われることはあるけど、年と共に図々しくなったので、全く恥ずかしいと思っていない。

 これが、おうち時間が増えた私に訪れた大きな変化。


 私はこれからも自分の夢を叶えていく。

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