第275話 ささやかな助言
「試験、はじめ!」
カレンさんの合図と同時にカイル君が魔法を起動する。
リディナが得意とするウィンドカッターだ。
手前のゴブリン3体は1回目のウィンドカッターで同時に胴を切断。
続く2回の攻撃でアークゴブリンとオークをバッサリ切断している。
正確さも早さも申し分ない。
「やめ。試験終了です、お疲れ様でした。それでは次、レズンさん、開始位置へついて下さい」
どうやら年齢降順でやっていくようだ。
レズン君は水属性レベル4の
ヒューマ君とサリアちゃんは空即斬で。
アギラ君はカイル君と同じウィンドカッターで。
そしてレウス君はレズン君と同じ
それぞれあっさり魔物像を破壊した。
何というか、心配が無駄だったという感じだ。
「試験は以上です。6人とも冒険者C級に合格したと認めます。それだけの能力を充分持っている事を確認しました。
それぞれ魔法起動の早さ、威力とも問題ありません。オークや魔狼といった強力な魔物・魔獣でも遅れをとる事は無いでしょう」
皆、明らかにほっとした表情になる。見学の4人も、リディナやセレスも、そして勿論私もだ。
「という事でルチアさん、6名の冒険者証の発行をお願いします。私はここで少しだけ皆さんに話がありますから」
「わかりました」
受付嬢さんがギルド内へ戻っていくのを確認して、そしてカレンさんは再び口を開く。
「さて、皆さんの魔法があればほとんどの魔物や魔獣は倒せる事でしょう。しかし中には例外もあります。先生達から聞いた事があると思いますが、この世界には魔法が効かない存在が少数ですが確かにいるのです。
それでは少しばかりの余興を致しましょう。リディナ先生、すみませんが武器を装備の上、先程の試験開始場所に行っていただけますか?」
リディナが最近使っている武器というと、元コボルトキングの槍を私が改良したもの位しかない。
勿論アイテムボックスに入っているけれど、実戦用なので当然刃は鋭い状態だ。
なのでカレンさんに聞いてみる。
「刃を潰していないけれど、いい?」
「ええ、問題ありません」
カレンさんがそう言うので私は槍を出してリディナに渡す。
「それでは余興です。今度は魔物役を私がします。リディナ先生、私を初見の魔物だと思って、魔法とその槍で攻撃して下さい。私はこの棒を剣の代わりに使います。私の能力は分かっていますね」
カレンさんは剣士の免状持ちで、なおかつ攻撃魔法無効という特殊スキルがある。勿論リディナもその事を知っている。
「ええ」
「ですので遠慮無く。
リディナ先生が位置について、最初に魔法を起動した時点で余興開始とします。皆さんは私とリディナ先生の動きをよく見ていて下さい」
カレンさんが先程オークの像が立っていた位置に、リディナが受験者の試験開始位置につく。
「では始めます」
リディナがそう言うと同時に、風が渦を巻いて竜巻となった。リディナの持つ最強の攻撃魔法の一つ、
凄まじい風が砂を巻き上げて茶色い渦となる。普通の人なら立っていられないはずだ。しかしカレンさん、何事もないかのように黄褐色の渦の中からすっと歩いて姿を現す。
リディナは続いてウィンドカッターや
ウィンドカッターの刃と
カレンさんを素通りしたウィンドカッターが背後で土や壁に当たり砂埃をまき散らす。更に
私は偵察魔法で皆の様子を確認する。全員食い入るように2人の戦いを見ている。
リディナがどれだけの魔法を起動しているか、この場にいる皆には見えている筈だ。見学の4人だってそれが分かる位には鍛えてある。
カレンさんが更に接近したところでリディナ、更に別の魔法を起動。
リディナが風属性以外の攻撃魔法を使うのを初めて見た。
そしてリディナ、槍を構える。向き合う先は炎の壁の向こう側。
カレンさんが炎の壁を通り抜けた。リディナはウィンドカッターを連射しつつも、槍を高速で突き出す。
カレンさんは突き出された槍を最小限の動きで避けた。とっさにリディナが起動した
突き出した棒はリディナの胸先でピタッと止まった。リディナが動きを止める。演習終了、といったところだろう。
「リディナ先生、ありがとうございました」
リディナとカレンさんは武器を戻し、互いに一礼して、元の場所へと戻る。
「先程言った通り、こんな感じで攻撃魔法を無効化する魔物や魔獣、そして犯罪者等が存在する訳です。特定の属性だけ無効化する場合もあれば、魔法全般を無効化する場合もある。
勿論そういった存在は決して多くありません。ですが冒険者をしている限り絶対出会わないとは限らないのです。
ですので万が一魔法攻撃が効かない場合、どうやって対処するか。その事を事前に考えておくことをお勧めします。
参考までに、と言っても直接的には参考になりませんがフミノ先生の場合もやってみましょう。
今度は棒ではなく、私が使い慣れている実剣を使用させていただきます。フミノ先生は魔法やスキルを使って構いません。ただ私も怪我をしたくはないので、
言いたい事は理解した。本気で攻めるから本気で対応しろという事だ。ただしスキルを使う場合は
私はわかったという意味で頷いてみせる。
私は試験開始位置へ、カレンさんはオーク像のあった位置へ。
「それでは今度は私が動いた時点で開始という事にしましょう。いいでしょうか」
私は頷く。
「では行きます!」
カレンさんが一歩踏み出すとともに、私は下の地面を収納した。深さはきっちり
収納したのはカレンさんがいた位置から私がいた位置までを含む広い範囲。そうしないとカレンさんの動きには対処できないと思うから。
なお私は収納直前、縮地で範囲外に逃げている。
案の定カレンさんはつい先程私がいた場所まで到達していた。しかし剣は空を切り、カレンさんは下へと落下する。
「以上です。それでは私が上に戻ったら地面を戻していただけますか」
カレンさんが身体強化をかけて上までジャンプして戻ってきた。私は収納した土を元に戻し、突き固め魔法で整える。
「これがフミノ先生の、魔法が効かない魔物に対しての攻撃法です。実際は穴をもっと深く開けて簡単には上に戻れないようにします。また飛行可能でそのままでは穴に落ちない魔物に対しても、対策を持っているそうです。
今回見た方法はフミノ先生独自の魔法です。ですから他の人には真似は出来ません。ですがこういった感じで、魔法が効かない相手に対する対応を考えて、いざという時に備えておくこと。これが私からのささやかな助言となります。
それではそろそろ冒険者証が出来るでしょうから、事務所に戻る事に致しましょう」
なるほど、カレンさん、これを言いたかったが為に此処にやってきた訳か。何というか、ありがたいなと思う。
皆はどんな感じだろう。偵察魔法で確認。うむ、なかなか衝撃的な
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