第256話 答えはわからない
いかにもRPGに出てきそうな姿形のイラストとともに、解説文が載っていた。
『
王国歴185年、ウェネティ近郊に飛来した時には体長
口から炎を吐く他、タイダルウェーブ、ハリケーン、アースクェイク等高レベルの攻撃魔法を使用可能。翼があるが一度に飛行可能な時間は
地上での動きは素早く
ただし
王国歴185年に出現した
剣や槍を跳ね返し、攻撃魔法は効かないか。確かにこれを倒すのは無理そうだ。書いてある事が本当ならばだけれども。
混ざり
「確かに倒すのは無理そう。それで今はどう対処している?」
「騎士団が
近郊住民の避難も始まっているが進みは遅い。地上出現までに2割避難出来るかどうか」
状況はかなり絶望的、了解だ。
ただ……
私なら倒せる可能性はあるような気がする。
思いついたあやふやな考えを説明できるように頭の中で整理。
以前の経験で
しかし周囲の土を収納する事によって、
そうすれば
縮地が使えれば
ある程度以上弱体化すれば
もし
この作戦には不確定要素が多い。
しかしうまくいけば倒せる、もしくは活動停止するまでの時間を稼ぐ事が出来る。そうすれば最悪の事態、地上を荒らされて大勢の被害者が出るなんて事態は避けられる訳だ。
ただ私は指名依頼を受けたくない。もし受けてしまった場合、今後も何かあった際に呼び出される可能性が高くなる。
まあ今回呼び出された以上、指名依頼を受けなくても同じかもしれない。
しかし指名依頼を受け、万が一被害を出さない事に成功してしまったら。今の暮らしを続けられなくなる可能性がある。名誉だの地位だのなんだのが邪魔になって。
私は今の生活に満足している。有名になるつもりは全く無いしなりたくない。それなら……
でもその前に、ひとつ確認しておこう。
「もし私が逃げて指名依頼が受理されなかったとして、そのせいでミメイさんやカレンさん、他の人に迷惑がかかる事はない?」
「これはあくまで仮定の話で、今回の話ではない。でももし同じような事が起きても、一領民の行動まで領主や領主夫人が把握する義務は無い。領主は受領した命令を誠実に実行する義務があるだけ。冒険者ギルドも受けた依頼を誠実に伝達する義務があるだけ」
あくまで仮定と言っている。しかしきっとこれは今回の件に関してだ。
つまりミメイさんが此処へ来た事はカレンさんも承知しているのだろう。むしろカレンさんが指名依頼の件の情報元という可能性が高い。カレンさんなら王室にも冒険者ギルドにも知り合いが多いだろうから。
ならば。
「わかった。今夜中に此処を出る。指名依頼は受けない」
ミメイさんは明らかにほっとした表情を見せる。ただしリディナの表情は固い。
気付かれたかな、そう思ってすぐに思い直す。昔から私の考えはリディナにバレバレだった。今回に限ってバレないという事はないだろう。
「フミノ1人で行くつもり?」
勿論だ。
「リディナとセレスはこの場所を守っていて欲しい。ここが私の一番大事な場所だから」
「ならフミノ。危ない事はしない、そう約束してくれる?」
やっぱり完全に気付かれている。おまけにミメイさんの表情まで変わった。リディナの言葉の意味に気付いてしまったようだ。
「出来るだけ危険な目にはあわないようにする」
バレバレな言い方だとは自分でもわかっている。でもリディナに嘘は言いたくない。だからどうしてもこれ以上は言えない。
リディナは目を瞑ってゆっくり深呼吸。
そして口を開く。
「これは私の我儘。我儘というよりもっと
でもね、フミノ。私は私の知らない何万人という人よりフミノ1人の方が大事なの。
それでも私はフミノが無事な方がいい。だから……」
私はリディナにどう返答すればいいだろう。わからない。気休めの嘘は言えない。リディナにだけは言いたくない。
でも行かないという選択は多分出来ない。どうしても足がシンプローンに向いてしまう気がする。
英雄になりたい訳じゃない。むしろなりたくない。有名になんて絶対なりたくない。
ただ自分が何とかできるかもしれないのに見過ごす、それが嫌なだけなのだ。何とか出来るかもしれない、そう思う事が
それが自分の使命だとか世界平和の為とか、正義とかそういうのじゃない。むしろそんな美辞麗句は大嫌いだ。
そんな美辞麗句を言う人は何も助けてくれなかった。むしろ傍観者より有害だった。カウンセリングだの何だのと言って金を搾り取ったり、私に変な罪悪感を押しつけようとしたりして。
偏見だとはわかっている。でも日本にいた頃の私の経験であり事実。だから私にとってはそんな美辞麗句は憎むべき、
だから私をシンプローンへ行かせようとするのは、もっとマイナスな何かだ。呪いというのが多分一番近い。
どう考えても不幸だった私の、不幸時代の呪い。自分も自分以外もそういった不幸になるのを見たくないし、そうなると感じたくも無い。そんな呪い。
だからきっと私は行く。シンプローンへと行ってしまう。
でもそれなら私はリディナにどう答えればいいのだろう。私にとって一番大切で、大事にしたいリディナに。
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