第255話 極秘情報

 最近の日課は、午前中のおやつ時間までが農作業で、その後はお昼まで勉強時間。午後は概ね自由時間だ。


 ただ子供達は自由時間でも大人達はやる事がある。

 今日はセレスがイリアちゃんをお供に街へ買い物。リディナは偵察魔法で子供達や山羊さん達を確認しながらキッチンで保存食等の作業。


 そして私はリビングで勉強会用の教材作り。足りない分を複写魔法で追加して、更に要望があるレベル5以上の魔法の教材を新たに作って。


 今では教材作成は私とリディナが主にやっている。元々はセレスやサリアちゃん、レウス君の仕事だったけれど、教材のレベルが大事典より更に高度になったから。


 リディナの担当は風属性魔法と、この国の歴史や地理、理科的な知識に関する事。私は算数と風属性以外の魔法を担当。足りなくなりそうな教材の補充も私のお仕事だ。


 まずは補充作業。偵察魔法で聖堂の専用の棚に整理されている教材の減り具合を見て、足りない分を複写機魔法で追加。作ったものはアイテムボックス経由で聖堂の棚へと補充。


 補充が終わったところで一休み。次は方程式の教材を作ろうか、それとも土質改良魔法にしようか。そんな事を考えている時だった。


 偵察魔法がこの村へ近づいてくる魔力反応を捉えた。この魔力の反応は特徴的なのですぐに誰かわかる。ミメイさんだ。


 此処に来るのかな、それとももっと先に新たに道路を作るのかな。

 ただミメイさん、何やら急いでいるようだ。ゴーレム馬で相当飛ばしている。


 うちの家以外の何処かに急用なのだろうか。そう思っているとミメイさんは村へ入り、そしてこの農場の入口へと入ってきた。どうやらうちに来るようだ。


 ミメイさんが来る事そのものは珍しく無い。今でも月に1~2回はやって来る。

 用件はあったり無かったり。ゴーレムの発注なんて事もあるし、温泉ハウスに行ったりエルマくん達や山羊さん達と遊ぶ為に来るなんて事もある。子供達ももうお馴染みだ。


 勉強会を手伝って貰った事もある。ミメイさんは騎士団で魔法を教える事もしているらしい。その為か子供達相手に魔法を教える事も上手だ。


 ただ何か様子がおかしい。いつもと違う雰囲気だ。私は作業の手を止め、一式をアイテムボックスに仕舞う。


「何だろうね、ミメイさん」


 そんなリディナの言葉がキッチンから聞こえた。つまりミメイさんが近づいている事、様子がおかしい事に気づいているのだろう。


 リディナと2人で家の外に出る。ちょうどミメイさんが家の前へとやって来るところだった。真っ先に出迎えたエルマくんをナデナデして、私達の前へ。


「急ぎの重要案件。セレスはいる?」


「セレスは街へ買物に行っているけれど、セレスに用ですか?」


「用件があるのはフミノ。でも出来れば3人いる時に話したかった」


 何だろう。


「子供達のいない所で話したい。いい?」


 明らかにいつもと違う。でもミメイさんがそう言うからには何か理由があるのだろう。


「わかった」


「なら私の部屋で話しましょうか。少し狭いですけれど」


「助かる。急ぎたい」


 やはりいつもと違う。

 

 2階に上ってリディナの部屋へ。入ってすぐリディナは風属性の秘話魔法を起動する。


 部屋には小さいテーブルと椅子1つ。なのでアイテムボックスから椅子を2つ出した。これで3人座れる。


「ありがとう。それでは。

 おそらく明日朝、B級冒険者フミノに指名依頼が出る。依頼者はスティヴァレ国王、内容はシンプローン迷宮ダンジョンで確認された大型魔物の討伐」


 何だって?


「どういう事?」


「情報元は言えない。でもまだ依頼は発されていないしフミノも受理していない。だから朝までにフミノが何処かへ旅に出れば、依頼が受理される事はなくなる」


 国王からの指名依頼か。確かに断る事は出来なそうだ。依頼を受けないつもりなら逃げてしまうしかないだろう。


「どんな魔物が相手なのか、聞いていい?」


竜種ドラゴン。シンプローン迷宮ダンジョン内で確認された」


竜種ドラゴン?」


 ゲームでは聞いた事がある。この世界に実在するとは思わなかったけれども。

 しかしどういう魔物なのかを私は知らない。国王が指名依頼を出すくらいだから、よほどの大物ではあるのだろう。ただその程度が、知識のない私にはわからない。


「昔だけれど迷宮ダンジョン外に出た記録があるよ。その時はブレーンナベス迷宮ダンジョンから出て、ウェネティ近くまで壊滅したと読んだけれど」


 リディナは知っている模様だ。

 壊滅という表現を使うからには相当に強力だったのだろう。ただカラバーラで戦ったクラーケンでも、更にその前に戦ったキメラでも、出てきたら周囲が壊滅しそうな気がする。


 それにウェネティ近くまで壊滅したという事は、そこで食い止められたという事でもあるのだろう。

 なら聞いてみよう。


「どうやって倒した?」


「倒せなかったの。ただ迷宮ダンジョン生まれの魔物は迷宮ダンジョン外では2週間くらいしか生きられない。だからウェネティの手前まで来たところで竜種ドラゴンが力尽きて消えて、それでやっと終わった形」

 

 つまり時間切れという事か。そして人の手では倒せなかったと。

 相変わらずリディナ、よく知っている。それともこれは常識なのだろうか。その辺はよくわからない。


「シンプローン迷宮ダンジョンはロンバルドから近い。だから国としても放っておけない。

 でも人の手で倒せる代物だとは思えない。ここは依頼を受けず逃げた方がいい」


 ロンバルドはスティヴァレ内では王都ラツィオと並ぶ大都市。確かにそんな怪物に襲われたらスティヴァレの国そのものが大ダメージだ。

 

 しかし人の手で倒せない化け物とはどんな感じなのだろう。この前のクラーケンだってまともな手段では倒せそうに無い代物に見えたのだけれども。


 そういえば魔物図鑑があった筈だなと思い出す。サリアちゃんとレウス君が2回目に街へ行った時、図書館で読みたそうにしていたので買ったものだ。


 その後に来たリード君やトマス君にも好評で、おかげでボロボロになってしまった。でも一応ページは全部揃っている筈。


 偵察魔法とアイテムボックスを使用し、隣の屋内運動場の建物の端にある図書室の棚から魔物図鑑を取り寄せ、目の前、テーブル上に出す。


「載っている?」


 私はこの魔物図鑑を読んだ事は無い。本の形を保っていた頃は男の子に大人気だったし、今はもう背が半ば分解状態で読みにくいから。


「載っていると思うよ。有名な魔物だから」


 なるほど。ならば……監視魔法を使用して開かないままざっと中身を見てみる。

 それらしいページを発見。これだな。

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