第230話 楽しくチートな農場開拓

 カレンさんとミメイさんが来た翌日の朝。

 私達は開拓作業を開始した。


 まずは水路工事用の作業道を作る。北東側の206番から南東側の210番まで、南北に水路が通る予定の部分から。


 今回開拓する土地は、開拓団や一般開拓者が使うことになる。だから計画通りに開拓出来るよう新兵器を導入した。市販の方位磁石を使って作った方向確認用の道具だ。


 道具そのものは簡単な構造だ。新聞くらいの大きさの板に、

  ○ 方位磁石

  ○ 水平器代わりの水が入ったガラスパイプ2本

  ○ 1腕2mごとに結び目をつけた長さ250腕500mの糸

   (片端は方位磁石中心と同じ場所に固定、板からはみ出る部分は糸巻きに巻いてある)

  ○ 長さ半腕1mの杭(黄銅製・上部に自在関節加工)

をくっつけただけの代物。


 使い方も簡単というか原始的。

  ① 基準位置に杭を立て

  ② ガラスパイプ内の水が均等になるように杭の関節部分を曲げて調節し

  ③ 偵察魔法で糸が予定通りの方向に出てくる事を確認しながら

  ④ 糸を出して長さを測定する

というだけ。


 これでも目測よりは正確な方向に正確な長さを測れる筈だ。ちなみに昨晩寝る前に、アイテムボックス内で作製。


「何と言うかフミノって何でも作るよね」


「これは簡単だから」


 難しかったのはガラスパイプだけ。他は単純にくっつけただけだ。


「でもこういう仕組み、そう簡単には思いつかないと思うよ。あと普通の人だったらこれを作るのも結構時間がかかるんじゃないかな」


「私もそう思います。磁石と糸を組み合わせるだけではなくて、この杭部分が自由に曲がって、しかも固定したら動かないというのも凄いです」


 そのあたりの構造はゴーレム製造で慣れた。


 予定通りの方向になるように測りつつ、伐採作業から開始。


「こうやって新しい場所が出来ていくのって楽しいですよね」


「そうだよね。村を作って拡げていくんだ、って感じで」


 水路予定部分の木を伐採し、残った根っこを熱分解処理する。リディナとセレスに手伝って貰いながら。

 方向を確認しつつ、また上空からの偵察魔法も使いながら。


 およそ2腕4mの伐採部分がまっすぐ通った。道としてなかなか気持ちいい感じだ。


「ほとんど傾斜はない感じに見えたけれど、こうやって通しで見ると高さの違いがあるの、わかるよね」


 一番低いのは私達の農場で、現在貯水池までの水路が通っているところ。南北端のいちばん高いところと比べるとおよそ1腕2m程度の差がある。


 1離2kmちょいで1腕2m程度の差だから、ほとんど平坦と言ってもいい。ただ水はそれなりに流れるだろう。


 水源は標高が高い南北端の区画の急斜面側に作る。東側の急斜面を帯水層まで掘れば水は出る筈。これは今の私達の農場の水源と同じ方法だ。


 確認したところ帯水層の水量は充分。でも南北の水源を掘った後、私達の場所にある水源の穴はふさぐ。これはあくまで念の為だ。


 水源から出た水は一度貯水池に貯めた後、南北及び東西に走る水路で、開拓する区域全体に行き渡らせる。高さの差は所々に段差を作って水をせき止める事で調整。


 この水路とそれに沿った通行路を整備するのが今回の第一段階。

 のんびり楽しみながら作業をするとしよう。幸い今は農閑期。山羊さん達の世話以外はほぼフリーだ。


 ゴーレム製造作業は夜やる予定。ほとんどアイテムボックス内で出来る作業だから、日中は開拓作業優先という事で。


「3人でやると速くて楽」


 私1人でも出来るがリディナとセレスがいればやはり作業は速いし楽だ。

 私がアイテムボックスで木々を収納すれば、あとはリディナとセレスで木の根を処理したり草を焼き払ったりしてくれる。


 そして私がスキルで水路部分の穴を作れば、やはりリディナとセレスで壁部分を固めたりせき止め部分を作ったりしてくれる。


 そんな訳で一番時間がかかったのが『正確に水路の位置を決める事』。それ以外はもう、下手すれば歩く速さで完成する状態だ。


「何か魔法で開拓するのも慣れてきたよね」


「確かにそう思います。魔力も前ほど消費しなくなった感じです」


 2人とも頼りになる。なり過ぎる位に。農作業とたまの討伐で魔力が以前より大きくなっているし、土属性のレベルも上がっているし。


 水源工事以外の水路作業は、なんと午前中で終わってしまった。

 こんなの魔法が使えない一般人から見たらチート以外の何物でもない。ずるいと言われても否定できない気がする。


 これで水源工事さえすれば、カレンさん達から渡された土地のほぼ全ての場所に水が行き届く。なお傾斜その他に問題ない事は時々セレスに水を出して貰って確認済み。


 街の方から鐘の音が聞こえた。12回、ちょうどお昼だ。


「そろそろご飯にしようか」


「そうですね。それじゃ山羊ちゃん達のところからエルマくんを連れてきます」


「みんなで行こうよ。その方がエルマくんも喜ぶしね」


 私達が作業中、晴れている日はエルマくんは山羊ちゃん達と一緒に草地に放している。その時に休む為の犬小屋も草地に作ってある。


 しかしエルマくんは人と一緒にいるのが好きだ。それに私達もお家に居るときはエルマくんと一緒の方がいい。

 だから昼食前には必ず草地へ連れ戻しに行く。


 エルマくんもわかっていて、誰かが迎えに行くとさっと寄ってくる。そしてそのまま一緒に歩いて帰ってくる。つなぐ必要もない。


 今回も私達が近づいたらさっと入口の扉付近へと走って来た。扉を少し開けただけでさっと出てきて、そのまま私達より家側まで行って立ち止まる。早く帰ろうと言っているように。


 うん、ここの生活はやっぱり楽しい。そして大きくなってもエルマくんは可愛い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る