第215話 お仕事終わり?
食べた後はエルマくんと遊ぶつもりだった。
何せエルマくん、無茶苦茶可愛い。身体の割に大きな顔も、ぽっこり出たピンク色のお腹も、ぶっとい脚も、とことこ歩く様子も。
しかしやらなければならない事を思い出してしまったのだ。
なお、それはお家の横にある聖堂の清掃ではない。確かに蔦や雑木を払って中に入れるようにしたいのは確かだ。ついでに木製だったと思われる扉もつけかえたい。
しかしその前に大至急、最優先でやらなければならない作業があったのだ。ゴーレム用農機具部品の開発及び作製作業。
◇◇◇
「もう少ししたら畑に雑草が生えてくるから、草刈りをしなければならないですね」
エルマくん達の名前が決まってほっとしたのもつかの間。
恐ろしい台詞がセレスの口から出てきてしまった。
「雑草って、1本1本手で取っていくの?」
リディナがおそるおそるといった感じで尋ねる。
「もちろんです。ただフミノさんの土属性魔法のおかげで畑の土がふかふかなので、引っ張ればすぐに取れる筈です」
ああ、やっぱり……。つまりは畑4面を中腰で歩いて、草を取っていくという事か……
リディナが私の方を見る。何とかならない? そんな訴えるような目で。
私としてもそんな腰がやられそうな作業は断固として避けたい。ならばやるべき事はひとつだ。
「ゴーレムを使って草刈りや種まき、収穫が出来るようにする」
「どうやるんですか?」
方法論はあの辛い種まき、種芋植え付け作業の時に考えた。だから紙に描いてセレスとリディナに説明開始。
まずは草取り用だ。
「畑はこんな感じで畝部分が高くなっている。だからそれにあわせた形のこんな農機具を使って、ヒイロ君達に引っ張らせる。そうすれば畝と畝の間の草はこの部分に引っかかって刈り取られる」
なお刈り刃部分は2枚平行に設置した。男性用髭剃り式2枚刃殺法だ。
「でもこれですと畝の高い部分、作物と同じような場所にある草は刈れませんよね」
「そういう位置に生える草は少ないと思う。だからそれはゴーレムの目で見つけて、個別に火属性魔法で処理」
「確かにそうすればゴーレムで出来ますし、速く作業が出来ますね」
よし、農場統括? のセレスからOKが出た。
それでは次の案だ。
「あと収穫用は、まず芋用。こんな感じで大きな鋤のような農機具で土の中深くまでかきとる。土ごとかきとったものをこの後ろの回転籠に入れて回す。そうすると籠の目より小さい土は外へ出て行き、芋だけがこの部分からこの中へ入る。これは力が必要だからライ君に引っ張らせる」
北海道だのアメリカだのの大きな牧場でトラクターに円筒形の装置をつけて収穫する様子を思い出して描いた。
「確かに芋を掘るのは重労働です。これがあると楽ですね」
よしよし。それでは次、豆の収穫。これは稲用のコンバインを改良した形で、こんな風に……
◇◇◇
私は作業場代わりの平屋を出して籠もり、ゴーレム用農機具の作製作業に入る。
まずはWシリーズ用草刈り農機具から。
Wシリーズは5頭いる。私が3頭、リディナとセレスが1頭ずつ操れば、5箇所で同時作業が出来る。
だから農機具は出力が必要なもの以外は、Wシリーズ用で作るつもりだ。
それにしてもあってよかった日本の知識。これで大変な農作業が少しだけ楽になる。
あとは病害虫対策に木酢液を吹き付ける装置なんてのも作ってもいいかも。
木酢液はあとで炭焼き場所を作って、取れるようにすればいい。現在何にも使っていない東側の岩が多い急斜面に作ろうかな。
あの斜面なら登り窯なんてのも小規模なものなら作れそう。陶器を作るなんてのも楽しそうだ。
それにしても鉄という素材は便利だ。曲がるし伸びるし焼き入れすると固くなる。固くした後鋭く研げば切れ味もいい。
強いて言えば錆びるのが欠点。しかし毎日手入れをしてアイテムボックスに仕舞えば問題ない。
アコチェーノで大量に購入してきて正解だった。そんな事を思いつつさくさくと農機具を作製。
まずは試作品を一つ作って、畑を模した場所で試してみよう。
畑の近くに、畑の形や土質を正確に模倣した場所を土属性魔法で作る。その辺の雑草をそれっぽく植える。
それではリディナとセレスを呼ぼう。お家のリビングに顔を出して、草刈り農機具が出来た事を告げる。
「もう出来たの?」
「どんな感じでしょうか」
2人とエルマ君が出てきた。危険なのでエルマ君はセレスに抱いて貰う。
それではヒイロ君と試作草刈り農機具を接続して、試運転開始だ。先程作った畑を模した場所へとヒイロ君を動かす。
農機具の重さはそれほどでもない。ヒイロ君でも軽々動く。そして草は……大丈夫だ。スパッと刈り取られ、刃部分の後ろに設けられたゴミ袋へ入った。
「こんな感じ。どう?」
誰よりもセレスに聞いてみる。何せセレスの判断に私とリディナの腰の存亡? がかかっているのだ。
セレスは大きく頷いて口を開いた。
「これなら草刈り作業も速く楽に出来ます。それにしてももう作ってしまうなんて、本当にフミノさんって作るのが早いですよね。何でも作ってしまいますし」
よし、これで腰痛の危機から免れた。
リディナも安心したような表情で頷く。
「本当、助かるよね。それにしても農家の人って本当に大変なんだね。フミノがいなかったら全部手作業だものね」
「そうなんですよ。ただこの広さを3人でやるって、よく考えたら無理ですよね。実家なんかではこの畑1面分だけなのに家族総出でやりますから」
確かにセレスが言う通りの作業を一家族で全てこなせるとしたら、この国の農家は超人ばかりだろう。
私も納得だ。
「さて、それではおやつにしましょうか」
おっと、もうそんな時間だったか。草刈り農機具作製に集中していたので気づかなかった。
私としてはおやつも楽しみだが、今日はその後も楽しみだ。
食べたらエルマくんと遊ぶぞ! そう決意している。
何せ歩いても可愛い、立ち止まっても可愛い。ピンクのおなかが可愛い、真っ黒な顔も可愛い。
本当は聖堂の作業もしなければならない。しかし今日はもう十分お仕事をした。
朝、エルマくんやノクトくん、アレアちゃんを引き取って、マスコビーも買ってきて放して。山羊小屋も作ったし名前もつけた。草刈り農機具まで作ってしまった。
だから今日はもういいだろう。エルマくんと遊んでも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます