第213話 放牧開始

 ゴーレム車は私達の農場へと向かう。

 子山羊2頭とマスコビー9羽はゴーレム車の床に寝かせた状態で、子犬は箱に入れてセレスが抱えて。


 山羊の寝る場所に敷く藁も貰ってきた。これは束にしてゴーレム車の屋根に積んでいる。

 他にも山羊になめさせる鉱塩とか、子犬用の3日分の食事なんてのも。なお子犬の食事はゼアルさん手作りだそうだ。


「フミノさんごめんなさい。山羊を買ってしまったので、急で申し訳ありませんが山羊小屋を作って貰っていいですか」


「わかった。広さはどれくらい? リビング専用の平屋くらいでいい?」


「あれくらいの広さがあれば十分です。ただ頭突きをするので頑丈に御願いします。あと、床は人間のお家と同じように高床式で」


「わかった」


 それなら簡単だ。


「何なら私がライ君の操縦を代わろうか。そうすればフミノ、移動している間に作業できるよね。確かアイテムボックス内でも工作が出来るようになったって言っていたし」


 確かにそうだな。カット作業をアイテムボックス内でやっておけば……何なら組み立ても出来るな。


「ありがとう。御願い」


「すみません。急に御願いしてしまって」


「問題無い」


 道端に寄ってゴーレム車を停め、ライ君の操縦を解除。リディナと操縦を交代する。


 さて、それでは山羊小屋、作るか。あの平屋と同じ構造なら作り方は私の頭の中に入っている。

 あ、でも待てよ。


「窓はどうする?」


「そうですね。風通しを良くしたいので、高い部分に広めの窓を御願いしていいですか。山羊は湿気を嫌うので雨が入り込まないように。あと窓が山羊の身体がぎりぎり入る位より大きいと脱走する事があります。山羊は高いところへ登るのが得意ですから」


「わかった」


 よし、ならば通気と明かり取りを兼ねて幅の広い窓をつけよう。山羊さんに逃げられないよう高さはあまりなくて、幅をめいっぱいにして。

 雨が吹き込まない為には屋根のひさし部分を伸ばせばいいだろう。よしよし、簡単だそれくらいは……


 切って、組んで、切って、組んでと。私のアイテムボックススキルは木工用として有用かつ便利だ。アイテムボックス内でならほぼ意識する速さで丸太を加工したりなんて事まで出来る。


 しかもだ。木を組んだ後、木と木が合わさっていて外から見えない面にほぞ穴を掘り、そのまま動かさずに他で作ったほぞ木を中に入れるなんて事も出来る。

 アイテムボックスならではの工作方法だ。


 そんな訳で釘を1本も使わない構造の山羊小屋、アイテムボックス内で無事完成。うむ、何処から見てもタフなログハウスという感じで大変に宜しい。


「出来た」


「もう? まだ農場の入口にも着いていないのに」


「アイテムボックス内なら意識した速度で加工できる」


「……速いというか、いい意味で異常ですね。確かにフミノさんに頼めば今日中には出来るだろうと思っていましたけれど……」


「まさか家に着く前に出来るってのは、ちょっと反則だよね」


 確かにそうかもしれない。しかし便利だしリディナとセレスにならこの能力が知られても問題無い。


 ライ君は西側の道路から私達の農場の敷地へ。敷地の真ん中を貫く農道を東へゆっくり進む。


 防風を兼ねた奥行き5腕10m程の林の内側は農場地帯だ。縦横100腕200mの畑が農道の北側と南側に2面ずつ、合計4面並んでいる。


 もう畑の一部は芽が出始めていた。最初にまいた豆だな、これは。


「鳥に食べられてはいないようです」


「風魔法で散々驚かしたからね。当分は大丈夫じゃないかな」


 そして家と、まだ蔦を除去していない聖堂の前に到着。


「このまま池の方まで行ってしまいましょう。今日は天気がいいですから子山羊も草地で遊ばせたほうがいいでしょう。あそこなら水も自由に飲めます。

 マスコビーも放しましょう」


「わかった。それじゃ草地まで行くね」


 リディナ操縦のゴーレム車は家を通り過ぎ、貯水池の方へ。

  放牧用に作った牧草地を囲う壁についている門を開けて、ゴーレム車ごと中へ。


「いい感じになっていますね。水も綺麗ですし」


 確かにセレスの言う通りだなと思う。

 3人で身体強化魔法を使い、子山羊2頭とマスコビー9羽をゴーレム車から草地へ。


「それじゃ、まずはマスコビーから放しますね」


 セレスが状態異常解除の魔法を起動する。

 横倒しになっていたマスコビーが動き始めた。起き上がって不思議そうな顔で辺りを見回したり、いきなり飛んで木の上に行ったり。草を食べはじめたものや、池に入って泳ぎだしたのもいる。


「何か自由だね、バラバラで」


「家畜として飼っているものはこんな感じですね。でも敵が近づくとオスはまとまって攻撃しますよ。結構強いです。だから外飼い出来るのですけれど」


 なるほど、だからオスは成長したのを2羽購入した訳だ。


「それじゃ山羊ちゃん達も起こしましょうか」


 セレスが再び状態異常解除の魔法を起動。

 横倒しになっていた山羊2頭が起き上がった。周囲をきょろきょろと見回して、そして私達の方に顔を向ける。


「リディナさん、逃げて下さい」


 セレスの台詞とともに山羊がリディナに突進してきた。リディナが慌てて避ける。


「これって攻撃されているの?」


「違います。親愛の情でじゃれているだけです。怒っても機嫌良くても頭突きをしてくるんです、山羊は」


 何と言う迷惑な生き物なのだ。可愛いけれど。


「ところで子犬はどうするの?」


「家の中で慣れているなら、放しても怖がると思います。でも試しに箱から出してみますね」


 セレスが箱から子犬を出して抱きかかえる。草の上に置いたら子犬は辺りを見回し、不安そうな顔でセレスの方を見た。セレスが箱を横倒しに置いてやると、中へ入って出てこなくなる。


「やっぱり駄目ですね。まずは家で慣れて貰って、それから少しずつ外で歩く訓練です。

 あとマスコビーはともかく、山羊とこの子犬に名前をつけましょう」


 確かにそうだな。名前を考えないと。

 でもどんな名前がいいだろう。山羊もわんこも。

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