第211話 家畜のお買い物

 4面ある畑のうち3面に豆、1面の半分に芋を植え終えた。

 あと、近くの川から水草とメダカくらいの魚50匹ほどを取ってきて池に入れた。


 今度はいよいよペット、いや家畜の導入だ。


「まずはマスコビーですね。最低でもオス2羽、メス4羽は欲しいです。なかなかいい環境が出来たので、池の近くに放せばすぐ居着いて増えると思います。ある程度増えたら卵を採ることが出来ます。


 あとは山羊、良いのがいたらオスメス1頭ずつ。池の近くの草原に放せたらなと思います。適当に雑草を食べて草地を維持してくれますし、子供を産んだら乳を搾ったりも出来ますから。

 ただこれは良いのがいたらでいいです」


 そんなセレスの方針に従って、市場に案内が出ていた農場へ向かう。


 農場は街の南側、比較的街に近い台地の上にあった。


 地面に生えている草がそこそこ若い。つまりその程度の草が生える程度には古く、それ以上の草が生えていない程には新しいという事だろう。


 建っている畜舎も最近出来たような雰囲気だ。私の予測では切り拓いて半月という感じかな。


 馬車用らしい道路脇の空きスペースところにゴーレム車を止める。


 人通りがあまり無さそうだし出しっぱなしでいいだろう。ライ君を起動しっぱなしなら盗まれる可能性も低い。

 最悪の場合でも偵察魔法で見る事が出来れば収納は出来るし。


 まずは受付と書いてある建物へ。


「いらっしゃい。どんな家畜をお望みだい?」


 受付してくれたのは若い男の人だけれど、今の私は大丈夫。それにリディナもセレスもいるし。


「まずはマスコビーです。あとは他に山羊も一応見ておきたいです」


「わかった。それじゃついてきてくれ」


 男の人について畜舎の中へ。

 中は木製の檻みたいなもので通路と家畜スペースが仕切られている。家畜側は部屋がいくつかあってそれぞれ別の種類の家畜がいるようだ。


 最初の部屋はアヒルだった。白色の、日本でも小さな動物園とかにいそうなタイプ。しかし案内の男の人もセレスもそこは素通りする。どうやらマスコビーとはこのアヒルではないようだ。


 2番目の部屋、ガチョウっぽい鳥の場所も通り過ぎて3番目の部屋へ。その檻の前で男の人とセレスは立ち止まる。


 どうやらこの鳥がマスコビーらしい。胴体と羽が白と黒のまだらで頭にとさかのような赤い部分がある。大きさはアヒルとガチョウの中間くらい。可愛いと言うより強そうな感じだ。


「これでいいかい」


「ええ、これです。値段はいくらですか」


「開拓者割引き後の価格で7ヶ月のオスが正銅貨4枚400円、メスが正銅貨8枚800円。3ヶ月ならオス正銅貨2枚200円、メス正銅貨6枚600円だ」


 私が予想していたより遙かに安い。しかし肉の値段を考えたらこんなものなのだろうか。私では今ひとつ相場がよくわからない。


「あと、睡眠魔法処理が出来る魔法使いを呼ぶ事は出来ますか」


「俺が使える。時間は10半時間6分、3時間、半日で指定してくれ」


 なるほど、睡眠魔法を使えば檻がなくとも運べる訳か。こういった知識もはじめて知った。セレスにとっては常識という感じだけれども。


「私が決めてもいいですか?」


 セレスが私とリディナの方を振り向いて小声で尋ねる。


「勿論。セレスが一番詳しいから、自信を持って」


 私も頷いてみせる。何せ私、何もわからないから。


「わかりました」


 セレスは頷いて案内してくれている男の人の方を向いた。


「それじゃマスコビー、7ヶ月のオス2羽、7ヶ月のメス3羽、3ヶ月のメス4羽で。睡眠魔法処理を半日で御願いします。

 あとマスコビーを頂く前に山羊の方も見ていいですか。選んで処理して受け取るのは最後にまとめてと言う事で」


「わかった。それじゃ先に山羊を見に行こう。山羊は別の建物だ」


 どうやら此処は鳥専用の建物らしい。あと2つ部屋があったが、それも違う種類の鳥が入っていた。


 そして次の建物へ入る。


「山羊の品種で何か希望はあるかい?」


「どんな品種がいますか?」


「ここではザーヌ、ヌビア、トッカン、パストラ、リゴアだな」


「ならザーヌですね。出来れば乳も取りたいので」


 うーむ、分からない。表情を見るにリディナも分かっていない模様。しかしセレスが分かっていればきっと問題はない。多分。


 男の人とセレスは畜舎に入って最初の部屋の檻で立ち止まった。中には白い、私がイメージする山羊らしい山羊。どうやらこれがザーヌという種類のようだ。


「売っているのは基本的に2ヶ月半の子山羊だ。オスが正銀貨3枚3万円、メスが正銀貨7枚7万円


 アヒルと比べて段違いに高い。肉の重さの分値段も高いのだろうか。手間がかかるからだろうか。それとも乳が使えるからだろうか。


 セレスは質問を続ける。


「親はどれくらいの大きさでした?」


「3組いるがどれも母親が12重72kg、父親が15重90kg前後だな」


「ならオスメス1頭ずつ。どちらも角なしで御願いします。繁殖させるので別の親から生まれた個体で」


「わかった」


 山羊も買った。思わず楽しいなと思ってしまう。この檻の外から見ても子山羊は可愛い。飼ったら可愛いだけでは済まないのかもしれないけれど。


「それにしても安いですね。船で運んでくるからこの5割は高いのを覚悟していたのですけれど」


「此処はスリワラ家の直営だからさ。何せ開拓して産物を増やして貰わなきゃ領主家も立ち行かない。だから運送料度外視でやっている訳だ」


「それではお兄さんもスリワラ家の家臣なんですか。あと名前を伺っていいですか? その方が話しやすいので。私はセレスと申します」


「ゼアルだ。家臣といえば家臣だな。雇われてまだ3週間だけれどさ。実家が元々アコチェーノで牧場をやっていたんだけどさ。ならという事で此処に引っ張られた。ここの領主は元々あそこの領主の次男だからさ。アコチェーノってわかるか」


「実はちょっと前に行ってきたんです。トンネルが出来て大分発展したみたいですね」


 相変わらずセレスは人と話をするのが上手い。アコチェーノの話からはじまってここスリワラ領の状況、お勧めの家畜や農作物、現在の開発状況まで聞き出している。


 ここまで上手く会話をするようになるのは無理だろうな。そんな事を思いながらセレスとゼアルさんの話を聞く。


 どうやらスリワラ家、カレンさん達の方はそこそこ順調のようだ。やはり王家から婚姻祝い金がそれなりに出たらしい。それを使って一気に開発を進める計画のようだ。そして今のところは開拓者も順調に集まっている模様。


「それにしても最近、一気に魔獣が減ったようなんだ。こっちとしては楽でいいけれどさ。


 噂では『殲滅の魔人』と呼ばれるパーティの仕業だそうだ。以前中部に出来た迷宮ダンジョンを僅か数日で攻略した後、行方不明になっていたが、ごく最近、中部から東海岸を南下して来たらしい。


 奴らが通っただけの場所ですら魔物や魔獣が壊滅するという話だ。現にバーリの街からカラバーラまで、魔物や魔獣が激減しているらしい。


 どこまで本当かはわからない。でもいるならきっと強そうな奴らなんだろうな」


 何か心当たりがあるような気がする。というかありまくる。

 きっとそれは私達だ。確かにラク―ラの迷宮ダンジョンを攻略したし、来る途中の周辺の魔物を狩り捲くってはいる。


 しかし『殲滅の魔人』か。そんな呼ばれ方をしていたとは知らなかった。何かリディナやセレスに申し訳ない。2人とも綺麗だし可愛いのに。

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