第207話 貯水池工事

 昼食後はこの土地全体の開拓予定図を作る作業。

 この作業はセレス中心だ。


 私達の土地は東西1離2km、南北半離1km。西側からおよそ300腕600m、南北のちょうど中心のところに聖堂があり、その西隣にこのお家を建てている。

 西側が道路に面していて、東側150300mは岩場の急斜面だから使えない。

 

 セレスが描いた開拓予定図は、

  ○ 家の南北とその西側に100腕200m×100腕200mの畑を4面

  ○ 東側、崖から少し離れた部分に220腕440m×220腕440mの草地

  ○ 草地の中心に貯水池で、貯水池直近の一部だけ森の木を残す

  ○ 残りは道路以外は開拓せず森をそのまま残す

というものだった。


 セレスからこの予定図の説明が入る。


「畑は4分割できるように作るのが理想です。それぞれの畑に芋、野菜、小麦、豆を作って、毎回作る物を変えていくと収量が落ちにくいって本にありました。


 実際ひとつの作物だけ作っていると、その作物が不作の年はかなり厳しい事になります。普通の農家ですと土地がそこまで広くなくて出来ないですけれど、これだけの土地があれば問題無いです。


 3人なら維持出来る畑の広さは普通は100腕200m四方程度です。ですが魔法やゴーレムをフルに使えばぎりぎり4倍は出来るかな。そう思ってこの広さにしました」


 なるほど。この土地の広さに対して畑がこれだけしかないのは、そういう意味か。それでも普通の4倍となると、結構苦労するかなと思う。


「この部分はどうするの?」


 リディナが図の東側、草地と書いてある部分を指して尋ねる。


「ここは基本的に牧草地です。3人ではゴーレムを使ってもこのくらいまでしか畑を維持できません。ですから残りはルーザンという牧草がメインの草地にしておきます。


 ルーザンは牛や羊だけではなくマスコビーもよく食べます。虫がつきにくい上、土を良くする作用もあります。


 更に万が一、畑の調子が悪くなった時にも役に立ちます。ルーザンの牧草地を焼いて土属性魔法で土をひっくり返せばいい畑になりますから。

 ですのでこの草地は西側に作る畑に近い広さにしました」


 なるほど。


「詳しいよね、セレス」


「この分野しか私がわかる事はなかったですから。最初はそんな動機だったんですけれど、調べていくうちにだんだん面白くなって」


 なるほど。


「作り直し出来ない部分以外は大雑把でも大丈夫かな。土属性魔法があればある程度は簡単に直せるし」


「そうですね。それではとりあえず、こんな感じでいいと思います」


 貯水池、牧草地、防風林、畑、アヒル農場と揃っていていい感じだ。またそれぞれの場所に開発すべき順番が振ってある。


「なら、まずは水源と水路、貯水池を作ってくる」


 日暮れまでまだ2時間以上ある。これくらいは出来るだろう。


「私も行きます。これからは私も土属性魔法をもっと使えるようにしたいですから」


「なら皆で行こうよ。この水路や池がどんな感じになるか見たいしね」


 外へ出る。しかし聖堂より東側はまだ未開拓で森のままだ。


「道を作る?」


「切り拓くところまでフミノに御願いしていいかな。あとは私とセレスで踏み固め魔法と熱魔法を使ってある程度使えるように仕上げるという事で。


 フミノに全部やってもらうと私達の魔力が伸びないからね。それに今後土属性の魔法を使う必要がある事態も増えるだろうから、レベル上げもしておいた方がいいかな」


「確かにそうですね」


 それではカット&回収作業をやるとしようか。

 でもその前に。


「道の幅はどれくらいにする?」


 リディナがセレスを見る。どうやらセレスに答えを求めているようだ。

 農場関係の事はセレスが一番詳しいからかな。


「除草は2腕4m幅くらいで御願いしていいでしょうか。道そのものは仮でその中央の1腕2mくらいで。そうすれば道を広げたくなった時も、横に水路が欲しくなった時も対応出来ますから」


「わかった」


 それでははじめるか。

 まずは軽い風属性魔法で伐採予定場所の動物を追い出して、それから空即斬を連射して……


 ◇◇◇


 水路と貯水池になる予定の場所の刈り払い。これは私だけではなく、セレスやリディナも一緒に実施。


 リディナの風の刃ヴェントス・ファルルムは刈り払いにはちょうどいい魔法だ。いい感じにばっさばっさと刈り拓いていく。


 一方でセレスの水の衝撃アクアエ・イパルサムはもう少し丁寧な感じ。刈る樹木を選んだり、一部だけ刈り残すなんて事をするのに適している。


 私の空即斬はそういう意味ではリディナの風の刃ヴェントス・ファルルムと似た感じかな。とりあえず広い範囲を一気にばっさばっさやる方が向いている。


 だから広範囲にばっさばっさやっていい部分を私とリディナ、少し選んで刈った方がいい部分をセレスが担当する形になる。


「貯水池の近くに何カ所か木を残すのは何故かな?」


「ある程度残しておいた方が水質が良くなるらしいです。

 あとはマスコビーが生活するためというのもあります。マスコビーは寝たり天敵から隠れたりするのに木を使いますから。4~5本まとめて残しておいた方がいいです。


 ただあまり残しておくとマスコビーが逃げてしまいますので、周囲は最低でも50腕100mは木がないようにしておく。そうすれば池の側の木を生活に使って、他には逃げません」


「なるほどね。池の環境とマスコビーの為って事なんだ」


「そうですね」


 木や草を刈って平らにしたら今度は私だけの出番、貯水池作り。


「池はどれくらいの深さにする?」


「3分の2は1腕2mくらいで、残りは半腕1mくらいで御願いします。水を入れたら浅い方が4半腕50cm位の深さになるように。


 あとマスコビーが歩いて入れるよう、残してある木の近くから水面までを緩い傾斜にします。なので木に近い部分を浅く作って下さい。傾斜の部分は私が加工します」


「わかった」


 穴を掘るのはアイテムボックススキルを使えば簡単だ。ただ池の周りの土が崩れないよう、周囲がある程度の斜面になるように3回にわけて土を収納する。

 

 池の一番深い部分に砂の層が出てきた。そこから水が少しずつ染み出しはじめる。


「どうする?」


「放っておいて水位が予定通りになればいいのですけれど、そうとも限らないですよね」


 偵察魔法で帯水層の水位を確認する。


「そこまで溜まらないと思う。せいぜい底から4半腕50cm行くかどうか」


「ならこのままでは水を入れてもちょうどいい深さまで溜まらないですね。塞がないと。私がやります」


 染み出ていた水がすっと止まった。見ると凍り付いているようだ。セレスの水属性魔法だな。


 セレスはそのままの状態で土属性の突き固め魔法を使う。他の所からの粘土質の土が砂の層の上を覆ったかたちで固められた。

 水属性魔法で突き固めた土を乾燥させ、更に火属性魔法で焼いて固めれば完成だ。


「そうか、凍らせて水を止めてから処理した訳なんだ」


「水属性は得意ですから」


 これで水が漏れない貯水池が出来た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る