第25章 開拓の日々

第206話 今日からの新天地

 リディナが操縦していたゴーレム車が停まる。


「フミノ、大体この辺でいいのかな」


 現在地はうちの土地の西端に面した道路。確かに既設の道路からあの聖堂への最短地点で、真っ直ぐ東へ進めば聖堂だ。


 リディナから地図を受け取り、周囲の地形と土地の形をもう一度確認。間違いない。


 さてここからどうしようか。道を作ってしまった方がいいだろうか。念の為、2人に聞いてみる。


「今いるのはこの図のこのあたりで、聖堂は此処。この間だけれども、道を作ってしまっていい? それともあとで畑に戻せる程度にしておく?」

 

「境界線と平行だし、いいんじゃないかな。セレスはどう思う」


「道を作ってしまったほうがいいと思います。どうせ作業道をもっと細かく作る必要がありますし、種や苗を運び込む為にも必要ですから。

 それにこの土地、全てを畑にするには広すぎます。土地の有効活用よりも便利さを優先させて問題ないと思います」


 よし、2人の許可が下りた。


「なら少し待って」


 今回は少しやり方を変える。いきなり収納を使わず、空即斬で草や木をバッサリと伐採。軽い風魔法で動物類を追い払った後、刈った草木を収納。こうすれば巻き込む生物がより少なくなる。


 邪魔そうな大きな根を収納し、火属性魔法で見える部分を熱分解。地面が見えたので突き固め魔法でガンガンに固め、見える土を土壌改良魔法で礫化。


 更に上にアイテムボックス内の土をかぶせ、これも突き固める。その後水属性魔法で乾燥させ、更に火属性魔法で高熱処理。

 これで岩盤化ほどではないけれどそれなりに舗装された状態になった。


「それじゃ聖堂の前まで移動するね。それにしても魔法って便利だよねやっぱり。こういった魔法が使えない人は大変だよね。道ひとつ作るにせよ切ったり掘ったりしなければならないし」


「ただ、ここは周囲の道が広く作られていますので、焼畑的に燃やすという方法も使えるかもしれません。勿論全区画をこのまま一気に燃やすと他に延焼する可能性が高いです。だからある程度は伐採したり間を除草したりする必要はありますけれど」


 確かに焼き畑農業なんて方法論もあるよな。なんて思っているうちにゴーレム車は進み、そして停止。

 

 ゴーレム車を降りて、すぐ横にそびえる建物を見る。


「これは少し手間がかかりそうです」


「だね。これは時間をかけてゆっくりやらないと無理かな」


 聖堂は緑に覆われている。外壁はびっしり太い蔦のようなものがからまっている。蔦は入口から中まではびこっていて排除しないと内部の状況を見ることが出来ない。


 2人の言う通り建物を使えるようにするには時間がかかるだろう。それならば、まずするべき事はこれだな。


「家を出す。ちょっと待っていて」


 家を出す場所はとりあえず仮でいいだろう。あとで全体を考えて配置し直すなんて事もあるだろうし。

 だからいつもと同じ程度、草木を刈って土地を平らにしただけで3階建てのお家を出す。


「それじゃお昼にしようか」


「そうですね。お腹も空きました」


 確かにそんな時間だな。2人に食べたい物を聞いてみよう。


「何にする?」


「テイクアウトの、出来ればおかずも生地もがっつり系がいいかな」


 アイテムボックスを探ると分厚いピザを折り曲げたようなものがあった。これは揚げ焼きフリーツァだっけかな。とりあえず3人分で5枚を出す。内訳はリディナとセレスが2枚ずつで私が1枚。


「今日はこれからどうしようか」


「出来ればある程度の畑を早いうちに作ってしまいたいです。ただその前に水利を確認しておきたいなんてのもあります。


 勿論この聖堂も気になります。ですが出来れば早いうちに縦100腕、横100腕4㏊位の畑をつくってしまいたいです。2週間以内に出来れば豆と芋は間に合いますから。特に豆を作っておけばその畑は土が良くなるので、その後に芋や小麦を作ると育ちがいいです」


「なら最優先は水で、次はその大きさの畑でいいのかな」


「ええ。そこまでやっておけば後は次の収穫期までは草取りと水管理で済みますから」


 なるほど。


「なら食べた後は水源を作って、水路も作った方がいい?」


「その方がいいです。ただ水源が井戸程度なのか自噴するのか、自噴するならどれくらい出るのかわからないので」


 偵察魔法で目星をつけた地中を調べてみる。


「小川程度には流れる水が出ると思う」


「ならため池を作りましょう。生活で使うある程度綺麗な水を流れから取れるようにして、あとはため池に流し込む形で。

 ため池があれば雨が少ない年でも何とか出来ますし、マスコビーを飼うなら池があると喜びます。ただ水中に虫が湧くのを防ぐ為、近くの川から生きた魚をとってきて中に入れておいた方がいいです」


 うーむ、アヒルがいて魚も釣れる池か。何かのどかでいい絵面だな。


「なら午後はまず開発の計画を練って、それから水源や池の作業をしようか。掘るだけならフミノは一瞬で出来るから」


 私は頷く。チートなアイテムボックススキルのおかげだけれども。


「そうですね。それじゃ食べ終わったらまずこの土地の図面を描いて、明日から開拓する分の計画を作ってですね」


 楽しいな、そんな風に感じる。この世界に来た最初の頃、洞窟拠点を改良した時と同じ感じ。あれより遙かに大がかりだけれども。


 それにしてもリディナとセレス、やっぱりよく食べるよなと思う。わかっているから揚げ焼きフリーツァを2枚出したのだけれども。私は1枚でお腹いっぱいだ。


 いつも動かないからだろうか。でもこれからはまた自分で動く日々が始まるのかな。開拓するなら自分の足で歩く機会も増える筈だから。


 それすらゴーレム経由でやる、というのは出来るだけ無しの方向で。やっぱり自分の身体で感じる事も重要な気がするから。 

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