第198話 謎理論の結末
疲れた。本当に疲れた。
大した事はしていない。岩場に行って戻った後、今度は河口に行き、再びシェリーちゃんを使って採取しまくって帰ってきただけ。
疲れた原因はこれら海産物を持ち運んだせい。生かしたままにしておきたい物はアイテムボックスに入れずに持ち運ぶしかない。
河口部に牡蠣礁なんてあったのがまずかった。ついシェリーちゃんを使って目一杯持ち帰ってしまった。海と陸とを何往復もさせ、生きた状態のいいものを厳選しつつも採取して運びまくった。
結果、牡蠣だけでシェリーちゃんだけでは運べない量。
バーボン君やWシリーズは手が無いからこういった物を運べない。そしてライ君は座高が高すぎて低い場所のものを取るのが苦手。
つまり私自身がシェリーちゃんと分担し、大量の収穫物を抱えて運搬する事になる。
しかもシェリーちゃんは小柄。大量の物を持つには適していない。袋類を大量に出して獲物を入れたがやはり全部は無理。
結果、私自身も
そして牡蠣礁の最寄り場所まで、このお家から直線距離で
途中は砂浜。岩場方面と違って歩きやすい場所はない。草地や森を焼き払いながら進めば別だけれども。
だから12kgの袋をかついでよいしょよいしょと砂浜を歩いて帰る。これがまた足腰に大変いい運動。これだけでも体力をかなり消耗した。
しかしお家についても作業は残っている。
午前中の獲物を入れた瓶ではこの量は無理。新たに牡蠣やウニが死なないよう、それなりの容器を作る必要がある。
私の技術では木材で水が漏れない水槽を製作できない。使用するのは砂と土。土属性魔法で捏ねて固めて水属性魔法で乾燥処理。最後に火属性魔法で高熱で焼けば固まって水槽が無事完成。
生け簀というか風呂桶みたいなものだが使えれば問題無い。材料は縄文式土器だけれど焼成温度が高いので割と頑丈。
魔法で温度を下げ、中にアイテムボックス経由で海水を入れ、獲物を入れて、そしてようやく休憩時間。
本当はアイテムボックス内加工専用のゴーレムを作るつもりだった。しかしもう、そんな気力は残っていない。
それでもシェリーちゃんが錆びるとまずい。アイテムボックス内で水洗いした後、シェリーちゃん自身を操縦して注油その他の作業をやった。勿論リビングで、人駄目ソファーに倒れ込んだ状態で。
とりあえず本日の運動はこれで十分。ただ歩くより遙かに重労働をした。
牡蠣やウニ、あとアイテムボックスに入れてあるタコ、カニ、エビ、魚類の処理は後で、回復してからやろう。
何なら今日の夕食で牡蠣を出してもいい。牡蠣小屋方式で、自分で熱して食べるなんてのをやってみたい。熱源は自分の魔法で十分だ。
調味料も揃っている。レモン汁は調味料として買ってあるし、ケチャップもどきもリディナが作ってくれている。醤油は魚醤で作ったリディナ特製刺身タレで代用すればいい。
うん、完璧だ……
こうして私の2日目のトレーニングは終了。
夕食はリディナ達が捕ってきた魚の他、私が捕ってきた殻付き牡蠣を焼く。
魚は勿論美味しいが焼き牡蠣も旨い。レモン汁でもいいがリディナ特製ケチャップもどきでも美味しい。苦労して持って帰った甲斐があった。
さて、これで少しは私の体力、戻っただろうか。2日程度では効果は出ないかな。
寝る前にステータスを確認してみる。
『生命力:181 魔力:583 腕力:58 持久力:58 器用さ:98 素早さ:60 知力:93』
少しだけ増えている気がする。此処へ来た日の値を書いたメモを見て比較。
『生命力:180 魔力:582 腕力:55 持久力:55 器用さ:98 素早さ:58 知力:93』
うん、少しだけ良くなっている。もちろんこのまま簡単に数値が上がるかどうかは不明だ。でもそんな希望は持てる。
待てよ、ちょっと面白い事を思いついた。
この世界の治療魔法は自然治癒を強化したものだ。自然治癒力を最大最強かつ時間短縮して怪我等を治すという原理だ。
それなら鍛えまくった後、治療魔法をかけまくって回復させ、また鍛えまくれば体力もつきまくるのではないか。少なくとも筋力はあがりそうだ。
名付けて『孫悟空&仙豆理論』。ならば試してみよう。今日はもう寝る前だから、明日から。
◇◇◇
翌日の朝食後。
「続けて海に出たから、今日は討伐兼狩りに行くけれど、フミノはどうする?」
本来なら歩く事を兼ねて参加するのが正しい。しかし私は昨晩、思いついてしまったのだ。一気に体力を取り戻すことが出来る(かもしれない)驚異の理論を。
「ちょっと試したい事がある」
「わかった。それじゃ行ってくるね」
リディナ達を見送った後、私はリビングだけの平屋を出す。この小屋は私が建てたもの。無理な運動をして壊しても直すのが簡単。
平屋の中へ入ってまずは準備運動から。ストレッチ、ラジオ体操第一をやってと。
それではまずバービーから。10回1セット、1セット終わったら途中で休憩を挟んで、動けなくなるまでやってみよう。
それでは1、2、3、はい!
◇◇◇
夕方。
「ただいま。フミノ、どうしたの?」
「トレー、ニング、やりすぎ、た」
私は人駄目ソファーに埋まったまま答える。それ以上動けない。少しでも動くと全身の筋肉が悲鳴をあげるから。
治療魔法は仙豆ほど万能ではなかった。つまりはまあ、そういう事だ。
なまじ魔法で回復したようなつもりになったのがまずかった。身体が重く感じるのも効果が出ているからだと思ってしまった。
筋肉が痛むのを麻痺魔法の応用、麻酔魔法でごまかしたのはもっとまずかった。
痛みを誤魔化していたのと、動きすぎてハイになっていたせいで気づくのが遅れた。魔法が切れたら一気に動けなくなった。
治療魔法でもすぐには回復できない。仕方なく麻酔魔法を追加かけ。
魔法のおかげで痛みを感じない間にシェリーちゃんを起動。私を3階建てのお家リビングまで運ばせる。
そして運び込まれた人駄目ソファー上で休憩中、麻酔魔法が切れた。以降動けずに今に至る、という訳だ。
「大丈夫ですか」
「多分。明日か明後日、には多分、問題、無い。きっと」
あれから治療魔法を連続してかけている。だから回復力は通常の数十倍以上の筈。ならばそのうち治る筈だ。
それに効果がなかった訳でもない。体●が少し減っている。つまり意味はあった。代償がきついけれども。
「それで一体、どんなトレーニングをしたの?」
リディナに話すと怒られるかな。しかし秘密にするというのは無理だ。どうせいつかリディナに話してしまうだろう。私の性格なら。
それに必要以上に心配させるのも嫌だ。ここは諦めて自白しておくとしよう。
「実は……」
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