第23章 リハビリの海辺

第195話 リハビリ失敗?

 ゲームなら待ったは3回まで。しかし今回は5回も使ってしまった。


 もちろんゲームではない。廃道終点からこの入り江に来るまでの間、リディナ達について行けなくなってだ。


 身体強化も使ったし回復魔法も使った。縮地は人が歩くペースにあわせて動く場合には役に立たなかった。


「……やっぱり鍛えた方がいいかもしれない」


 出した3階建てのお家の1階リビング。私は人駄目ソファーに埋もれた状態で足に回復魔法をかけている。

 回復魔法は自然治癒力を超強化する魔法。だから効いている最中に筋肉痛なんかも出てくるので動けない。


「まあ3ヶ月ずっと作る仕事をしていたしね。そのうち少しずつ戻ると思うよ」


 リディナはそう慰めてくれる。

 しかし原因はそれだけじゃない。何せ最近の私、歩いていない。基本的にゴーレム車だ。大きな街だと街の中すらゴーレム車。


 そういえばこの前の迷宮ダンジョンもゴーレム車に乗ったまま討伐したのだった。ラクーラ側の洞窟に入る部分以外、ほとんど歩いていない。


 今の私の体力、どれくらいなのだろう。そう思ってふと気づく。

 そうだ、ステータス表示という便利なものがあるのだった。早速確認だ。


『生命力:180 魔力:582 腕力:55 持久力:55 器用さ:98 素早さ:58 知力:93』


 まずい気がする。以前は80以下の能力は無かった筈なのだ。何かメモは無かったかな……

 アイテムボックスを探る。ステータスをメモしたものが見つかった。これはミメイさんにステータスについて説明した時のものだな。


『生命力:155 魔力:320 腕力:85 持久力:91 器用さ:95 素早さ:88 知力:93』


 やばい。腕力と持久力と素早さ、大幅に下がっている。これって下から数えて何パーセントかという値だったよな。


 更に公にできないプライベートな数値も変化している。身長も少し伸びたがそれ以上に体●が……

 成長期だからと誤魔化しきれない値だ。


 よし、決めた。特訓、いやリハビリ開始だ。

 さしあたっては腕力の為に筋トレ、素早さは反復横跳びでもやって鍛えればいいだろうか。両方まとめてバービートレーニングでもいいか。


 でも持久力はどうしよう。ただ歩くだけでは面白くない。楽しく足腰を鍛える事が出来るもの、何かないだろうか……


 そうだ、スワンボートだ。

 優雅に泳ぐ白鳥も水面下では必死に足をもがいている。実はこれ、嘘知識らしいけれど、それを具現化したのがスワンボートだ。


 あれ、頑張って漕いでもなかなか進まないらしい。普通のボートの方がよっぽど速くて楽だと聞いた。

 なお私はどちらも乗った事が無い。だから本当のところはよくわからないけれど。


 そのスワンボート、まあ形まで白鳥にする事はないから足漕ぎ式のボートを作れば、さぞかし楽しいに違いない。だからきっと足も鍛えられる。


 よし決めた。作ろう、足漕ぎ式のボートを。

 アコチェーノエンジュは木としては重め。だから安定して浮くにはそれなりの内容積が必要。だから船体は少し大きめに。


 動力伝達部分は外装式にしよう。水漏れを防ぐいい素材が思い浮かばないから。動力伝達はチェーンとシャフトどちらにしようか。やはりシャフトかな。伸びないしチェーンよりは水に強そうだから。


 よし、そうと決まれば筋肉痛なんかに構っていられない。リハビリの為に作ろう、足漕ぎ式ボートを。

 私は人駄目ソファーから起き上がる。


「あ、フミノ、もう大丈夫?」


「やる事が出来た。足腰のリハビリ用道具を作る」


 船を作るにはこのリビング、少し狭い。だから外で作ろう。天気はいいし外は気持ち良さそうだし。

 力をかけるとまだ足が微妙な反応。動かすと微妙に痛い。だから少しばかり妙な歩き方になってしまう。


「大丈夫? フミノ」


「すぐそこ、外に出るだけ。だから大丈夫」


 さあ作るぞ! 足漕ぎボート!


 ◇◇◇


 ここは湾状になっているし、面している海も内海みたいな広さ。だから波はそれほどではない。


 それでも一応海なので、船はそこそこ問題無いように作る。全長3腕6m、幅1腕2m。形そのものは沿岸用の和船イメージ。流石にスワン形状にはしなかった。


 動力伝達部分はシャフト&継ぎ手式。このシャフトや継ぎ手は革や木で作ったパイプ状のものでカバー。


 カバー内は鹿の脂を精製した常温では固形の脂で満たしている。最初に動かす時は少し固いけれど、ある程度動かせば問題無くなる筈だ。


 そして足漕ぎ部分は自転車と同じようなペダル式。漕ぐ姿勢はリカンベントをイメージ。普通の自転車方式だと重心が高くなるから。

 漕ぎながら操舵も出来るようになっている。


 うん、なかなかいい出来だ。もうすぐ夕暮れだから今日はテストできない。しかし明日からはこれでリハビリ出来るだろう。

 私はリハビリ風景を思い浮かべる。うん、なかなか楽しそうだ。


「船まで作ったの!」


「これなら沖でも釣りが出来ますね」


 リディナ達が帰ってきて船を見ている。


「足腰リハビリ用。ここを漕いで進む」


「オールで漕いだり帆を張ったりじゃないんだ」


「リハビリ用だから」


 完璧な出来という訳では無い。特にスクリューの形、最適化を極めていないから推進効率はきっと今ひとつ。前世の記憶で覚えていた形状にして、実際に水を出して少し改良した程度。


 ただ実用上は問題無い筈だし多少効率が悪くても構わない。これはリハビリ用だから。


「それじゃ明日はこれで海の上に出ようか」


「楽しそうです」


 うんうんそうだろう。私は大きく頷いた。


「それじゃ御飯を作るよ。今日もそこそこいい魚が捕れたしね」


 ◇◇◇


 翌日、朝食後。

 

「これで沖にいる魚も釣れるよね」


「餌も仕掛けも多めに用意しました。沖の深いところにいる魚が釣れると面白いです」


「お弁当も持ったしたっぷり楽しもうね」


 という事で出航。なおこの船のためにアイテムボックススキルと土属性魔法で専用の桟橋を作ったりもした。

 ここを出る時にはちゃんと砂で埋め戻す予定。だからきっと問題は無い。


 あと足漕ぎ航行、確かにリハビリになりそう。大変だけれど楽しい。漕ぐと少しだけ遅れて船がぬーっという感じで進むし。


 ただ漕ぐのに集中すると魚を探すのに集中できなくなる。だから今日は魚探役をリディナにお願いした。


「あと100腕200mくらいまっすぐで、そこから少し左に向けてくれるかな。どれくらい曲げるかはその時言うから。

 海中に大きな岩があって、その周辺に魚が群れているの。上の方は小さい魚中心だけれど、底の方は大きいのも結構いるみたい」


 なるほど、それは良さそうだ。私は漕ぎ漕ぎして言われた通りの方向へ向かう。


 うん、間違いなくリハビリになる。足腰を使いまくるから。でも楽しいからいい。海の上をすいすい進むのは快感だ。


「ここでちょっと左、そう、それくらい。それで前進30腕60mくらい」


 漕ぐのが大変。しかしリハビリの為だからこれが正解。漕ぐのに集中、いち、に、いち、に……


「ありがとう、ちょうどこの辺」


「魚がいっぱいいます。これは面白そうですね」


 無事着いた。うん、いい運動になった。まさに思い描いていたスワンボートな運動だ。体勢も船の形も違うけれど。

 ただ少し疲れたな。


「フミノは釣らないの?」


「少し海を見ている」


 疲れのせいで釣りまでやる余裕が無い。でもいいんだ、リハビリだから……


 ◇◇◇


「ただいま-」


 リディナ達が帰ってきた。


「どうだった、釣り」


「面白かったです。いつもと違う魚がいっぱい釣れました。それにあの船も面白いですね。思った通りに進んでくれますし、その気になれば結構速いです」


 何故私が家にいて、リディナとセレスが船釣りをしていたのか。

 理由は簡単、私がお昼前にバテてしまったからだ。


 私の体力にはあの船は重すぎ、辛すぎた。そんな訳で2時間もしないうちに私はダウン。

 さらに船に酔いそうになったので漕ぎ役をリディナに代わってもらい、陸上へ帰還。


 その後リディナとセレスが再び船で沖に出て、今帰ってきたという状況だ。


「明日は私が漕ぎますからフミノさんも行きましょう。小さいのも大きいのもよりどりみどりで面白いですよ」


 確かに楽しそうだ。しかしそれではリハビリにならない。


「ちょっと考えておく」


 うん、あの船は私にはまだ早い。

 よし決めた。明日からは歩こう。まずはこの近辺を、潮干狩りとか磯遊びとかをしながら。


 そこから始めて少しずつ鍛えないと駄目だ。小さな事からこつこつと。


「どうしたんですかフミノさん、何か難しい顔ですけれど」


「大丈夫だよ。考え事をしているだけだから。明日からどうしようかって。多分明日は船に乗らないと思うけれど」


 やはりリディナに私の考えを読まれている気がする。いつものことだけれど何故わかるのだろう。そんなに私ってわかりやすいのだろうか。

 リディナになら読まれても問題はないけれども。


※ バーピートレーニング (バーピー、バーピ

ージャンプとも)

  フミノは『バービー』と言っているが本当はビではなくピ。割と皆さん間違えて覚えている。他ならぬ書き手自身も……

  以下の3動作を1組として繰り返すトレーニング。体育会の連中がよくやっている。真面目にやるとかなりしんどい。

➀ 直立した状態から、腕立て伏せのように床に胸をつけた姿勢に

② 両足を揃えて立ち上がり、再び直立の姿勢に戻る

③ 軽くジャンプして頭上で両手を叩く

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