第164話 トンネル1本目

 入口付近は土砂が詰まっていたようだ。少し歩くと天井が妙に低いという印象はなくなった。


 そして中は何と言うか、2車線のトンネルとしか思えない作りだ。しっかり照明が点灯している他、道路には面発光する白線までひいてある。

 ただし舗装はアスファルトではなく石に見える不明な材質だ。


 あと表現として正しいかわからないけれど、世界の存在感が希薄な感じがする。空気や魔素が薄いというのではない。夢に近いというかそんな感覚。


 これは遺跡の性質だろうか。それともダンジョンの性質なのだろうか。

 

「遺跡ってこんな感じなんですか」


「場所によって違うみたい。私も実際に遺跡に入ったのは初めてだけれども。ただ此処は迷宮ダンジョン化しているから、普通の遺跡ともまた少し違うのかもしれない。

 ところでフミノ、どうする? 先にぽつぽつと魔物がいるようだけれど」


 その通りだ。この洞窟というかトンネルは向こうの端まで概ね長さ5離10km。そして間にぽつぽつと魔物反応、合計で100匹くらい。


 ただ距離が長い。歩いてこれらを始末するのは面倒だ。せっかく道路的な空間だし、ここはアレを出すべきだろう。


「一気に倒す。これに乗って」


 出したのは勿論ゴーレム車とライ君だ。


「この洞窟は向こう側の出口まで5離10kmくらい。だからこれで走りながら魔物を倒す。前方から来るのは私が相手するから、左右と後ろは頼む」


「でもそれじゃフミノさんが一番大変ですよね。此処へ来たのは私達が強くなる為ですから、出来るだけ私達で対処しないと」


 そう言えばそうだった。


「そうだね。それじゃ出来るだけ私とセレスでやってみようか。私がライ君を操縦して前半分の敵も対処するから、セレスは後ろ半分の敵をお願い。フミノは申し訳ないけれど回収といざという際のバックアップお願いしていい?」


「わかった」


「それじゃ私、後ろへ行きます。リディナさん、場所借りますね」


「うん、お願い」


 セレスが言う後ろとは、寝台に展開するとリディナの居場所になる部分のことだ。

 私の空即斬は任意の場所に作用可能。しかし一般的な攻撃魔法、リディナの風の刃ヴェントス・ファルルムやセレスの水の衝撃アクアエ・イパルサムは術者起点で対象に向かって飛んでいくタイプだ。だから自分と相手の間に障害物があるとまずい。


 今回、リディナはライ君を使う。だからライ君起点で魔法を使える。しかしセレスは……

 そう思ってふと気づいた。セレスもゴーレムを使えば攻撃範囲が広がるだろうと。


「セレスもゴーレム使う? シェリーちゃんかバーボン君を外に出しておけば、その分広い範囲に魔法を撃てる」


 セレスもある程度はゴーレムを使える。いざという時に備えてバーボン君やライ君を操縦できるように訓練したから。


「それじゃバーボン君、いいでしょうか。ゴーレム車の少し後ろを歩かせれば後方の全範囲に魔法を撃てますから」


 確かにそうだな。屋根の上にシェリーちゃんを載せるなんてのも考えた。でもこのゴーレム車の屋根は幌馬車のように弧を描く形状。だからゴーレムを載せるには適していない。

 この辺は改良した方がいいかな。時間が出来た時にでも。


「わかった」


「バーボン君が出るなら速度もゆっくりめの方がいいかな。もっとも操縦しながら攻撃するからあまり速くは出来ないだろうけれど」


「お願いします」

  

「助かる。魔物回収もあるから」


 実は時速10離20km/h程度までなら回収も援護も問題無い。でもまあそう言っておく。


 ライ君、ライ君に牽かれたゴーレム車、3腕6m程度後ろにバーボン君という隊列で出発だ。


 周囲を警戒するとともに観察し、そして私は考える。この道路トンネルにしか見えない遺跡、一体何なんだろう。この世界の昔にも日本のような道路があったのだろうかと。


 しかもこのトンネル、21世紀日本以上の技術で作られている。日本の技術では遺跡と呼べる時代まで照明が発光していたりなんてしないだろう。


 素材もコンクリートと違う。もっと丈夫で経年劣化に強い何かだ。


 30腕60m程度進んだところで早くも魔物が出始めた。ゴーレム車の速度が少し落ちるとともにライ君から風の刃ヴェントス・ファルルムが放たれる。


「ライ君は視界も高いし上半身が人間に近いから魔法も撃ちやすいね。セレスの方は大丈夫?」


「バーボン君は何回も訓練しているから大丈夫です」 


 何せ鉄輪式の車輪を使ったゴーレム車だ。それなりに音も振動も出す。路面が固いから余計に。

 それらが魔物を呼び寄せているのだろう。いい事だ。向こうから出てきてくれるなら探して倒していく手間が省ける。


 所々に脇道があるので側方や後方からも魔物は出る。ただセレスも落ちついて処理しているようだ。攻撃している時はどうしてもバーボン君の足が遅くなるけれど、それはリディナがライ君の速度を調節してカバーしている。


「フミノはこれやりながら回収までやっていたんだよね」


「そうですよね。私だと攻撃まででいっぱいいっぱいです。思った以上に多いですね」


「でも壁が固くて助かるかな。風の刃ヴェントス・ファルルムなら相当強めにかけても傷がつかないし」


「そう言えばそうですね。思い切りよくやっても大丈夫です」


 つまりこの壁や路面、物理的もしくは魔法的な物に対して無茶苦茶耐性があるという事か。


 ただこの迷宮ダンジョン、やはり道路に違いない。所々にある小さめの脇道、なんと『避難口』なんて書いてある。照明付きではっきり読める。

 スティヴァレ語ではないのでリディナ達は気づかないだろうけれど。


 このスティヴァレより遙かに進んだ古代文明があって、この遺跡はその時代の高規格道路のトンネル。私にはそうとしか見えない。所々に最寄りの避難口の方向と、そこまでの距離なんて物まで書いてあったりするし。

 

 倒して収納してをとにかく繰り返しているうちに左への大きな分岐が現れた。


「この脇道、他より大きいね。この洞窟の半分くらいの太さがある」


「そう」


 脇道そのものの広さは1車線分、つまりこのトンネルの半分。断面積は4分の1程度。しかし先で他の分岐から続く脇道と繋がっているようだ。

 そしてその先はかなり大きな空間がある。そして此処以上に濃い魔物の気配も。


「脇道の先に行くのは大変そうね。魔物が多そうだし」


 リディナも気づいている模様。


「この太い2本の洞窟を終わらせてからの方がいい。魔物が減る程、魔素マナや魔物の増加がにぶるらしいから」


「確かにその方が良さそうね」


 まだ1本目の洞窟の途中だ。それでも既に100匹以上の魔物を倒している。そして先程の脇道の先はこの洞窟より遙かに魔物の気配が多い。


 流石迷宮ダンジョンだと私は思う。普通とは魔物の数が違う。この洞窟を通るだけでも魔物が絶えず出てくるのに、これ以上の場所もあるとは。


 まずはこの太い洞窟を最後まで行こう。そうすれば向こう側の出口で休憩出来る。この中は魔物が多すぎて休めそうにない。

 魔物を相手にしているリディナとセレスは魔力消費が激しい筈だ。休憩しないとダウンしてしまう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る