第19章 決断
第156話 最悪の事態
翌朝、朝食後。
本日で2人とお別れなのだが、その前に全員を乗せてライ君の試験。という訳で玄関先で早速御披露。
「何か見た事がない形」
確かにミメイさんが言うとおりだろう。ケンタウロスはこの国には伝説を含め存在していない。私の知っている限りでは、だけれども。
「フミノが元々いた国はかなり文化も違うみたいだからね」
「これなら一目見てゴーレムだとわかります。そういう意味ではいいのかもしれません」
リディナの説明は間違ってはいない。確かに文化がかなり違う国だ。
そんな訳でライ君にいつものゴーレム車をつけ、全員が乗車して試運転開始。最初の目的地は冒険者ギルドだ。
「普通の馬車と比べて揺れが少なく、柔らかいですね」
「これでもいつもよりは少し揺れているかな」
「確かに揺れが止まらない感じですね」
「それでも普通の馬車より楽」
「私もそう感じます」
今までこのゴーレム車に乗り慣れていた2人は揺れると感じるし、乗った事がない2人は揺れが少ないと感じる。
まあ予想通りだ。
バネもダンパーももう少し強めにした方が良さそうだ。ただこのままでも支障はない程度。なら手直しは今日、泊まる場所に着いてからでいいだろう。
力は予想通り余裕たっぷり。これなら早馬と互角の速度を出せそうだ。今は街中だからそこまで出さないけれども。
旧街壁の門で一度止まり、衛士さんにリディナがカードを見せる。このカードを見せればこの門は通れるそうだ。カレンさんは顔パスだけれども。
冒険者ギルドの前で停車、とりあえず全員で降りる。
「今回はお世話になりありがとうございました」
「いえ、こちらこそ様々なお話を聞けたりこのような面白い物をみせていただいたり、楽しかったです」
「それではまた」
「ええ」
2人がギルドに入るのを見送ったら再び乗車、今度は市場街だ。人駄目ソファー試作品が出来ている筈だから。
ただ市場街に近づくにつれ視線が気になりはじめた。足を止めてこっちを見る人が結構いるように感じる。ここにもあそこにも、あの人も。
ひょっとしてライ君&ゴーレム車、目立っている?
「このゴーレム車、目立つ?」
何を当然のことを。そんな表情で2人に見られた。
「特にゴーレムが見慣れない形だからだと思います」
「ゴーレムだけでも珍しいのにこの形だしね」
そう言われても仕方ない。この形が合理的だったからそうしたまでなのだ。本当は更に槍と盾も持たせたかったのだ。
流石にそれでは街中に入れなさそうだからやめたけれど。
まあゴーレム車内にいるなら人目が私まで届くことはない。だからいいとしよう。うんそうしよう。
この前と同様市場街の入口でゴーレム車を止め、3人とも降りて全部収納。お店に向かう。
◇◇◇
人駄目ソファーのカバーを受け取り、更にリディナお勧めのテイクアウト店第2弾でどう見てもピザそのものにしか見えないものを買い終わった時だった。
「えっ、何故だろう」
リディナがそんな事を言って右の方を見る。
何に対してそう言ったかはすぐわかった。ミメイさんだ。こっちに向かって走っている。どうやら目標は私達のようだ。
「やっと追いついた。街を出る前でよかった」
「どうしたんですか」
ミメイさんは深呼吸をして、更に回復魔法を自分にかけ、息を整えてから口を開く。
「問題が発生した。冒険者ギルドに来て欲しい。カレンが待っている」
何が起きたのだろう。
「わかったわ。行こう」
私とセレスも頷く。
「ここからだと歩いた方が早い。こっち」
ミメイさんとリディナの後についていって冒険者ギルドへ。中へ入って、受付をミメイさんの顔パスでスルーしてそのまま奥へ。
ローラッテの時と同じように窓を開け、中央を大テーブル状態にした状態の部屋。
私達が入ってすぐにカレンさんも来た。
「すみません、お引き留めして。単刀直入に申し上げます。クロッカリの捕縛に失敗しました」
何だって!
「どういう状況だったのでしょうか」
「時系列順に説明します。
昨晩遅く、ベレトリーの冒険者ギルドが燃え上がりました。待機していた冒険者によって直ちに火を消し止めるとともに周囲を捜索。しかし被疑者を確認出来なかったそうです。
火を消し止め、更に駆け付けた街の衛士もあわせて捜索を行いましたが被疑者の発見には至りませんでした。またその間、街門の警備も増強して警戒したそうですが、出入りした者はなかったそうです。
魔法紋を確認した結果クロッカリの犯行であると断定しました。また明るくなってからギルド内部及び焼け跡を確認した結果、金目の物数点と携帯型情報水晶が遺失している可能性が高い事が判明しました」
ボロボロじゃないか。何をやっているのだ冒険者ギルド。そう言いたいが何せカレンさんが此処のギルドの責任者だ。
それに気になる事もある。
「検索で発見できなかったという事は、協力者がいるという事でしょうか。それとも何か別の要因があるという事でしょうか」
リディナの質問にカレンさんは頷く。
「ベレトリーの冒険者ギルドの責任者は私の知っている者です。彼は魔法こそ得意ではありませんが元は熟練の冒険者で、決して無能な者ではありませんし信頼に値します。
彼の報告によると、おそらくクロッカリは火属性の攻撃魔法の他、空属性の隠蔽系魔法も使用したのではないかという事です。
これは
〇 攻撃魔法が放たれた瞬間に魔法と術者の存在を感じた
〇 その時以外は術者の気配を感じなかった
という複数の証言から考察した結果です。
またこの隠蔽系の魔法は攻撃時以外、完全に術者の存在情報を消す事が可能なもののようです。そうでなければ火災が起きていたとはいえ警戒中の冒険者ギルドから物を盗み出すのは不可能でしょう。
私も彼の報告は正しいだろうと判断します。つまり、少なくとも現在のクロッカリは火属性の攻撃魔法の他、前述したような空属性の隠蔽系魔法が使用可能であると思われます」
まずい。完全にまずい。そんなのどうやって探すのだ。
それに気になる事はまだある。
「遺失した携帯型情報水晶をもしクロッカリが持っているなら、冒険者の情報が筒抜けという事でしょうか?」
リディナがまさに私の懸念した事を質問する。
「ええ、残念ながらそうなります。冒険者ギルド内の手配犯罪者情報、冒険者情報、共有される広域依頼情報が全て閲覧可能です。
本来情報水晶は職員しか扱えません。特に携帯型は使用の際に特殊な魔法が必要となります。しかしクロッカリは元職員、残念ながらその魔法も扱い方も当然知っています」
最悪の事態だ。奴は私達が先日ラツィオの冒険者ギルドに寄った事まで知っている訳か。
「ただ、おそらくクロッカリは王都内に入る事は出来ないのでしょう。ですから王都内は安全と思料されます。ですので皆様には大変申し訳ありませんが、しばらくは私の家に滞在していただくようお願い申し上げます」
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