第133話 ゴーレムの素体完成
うん、よく出来た。
私は出来上がったゴーレム素体を見て頷く。
形は人間型。大きさは私と同じくらい。見かけは何と言うか、木製マネキン人形やデッサン用の人形。
強いて言えば関節部分が黄銅でベアリング入りになっているのが違いだろうか。これは耐久性を考えた結果だ。
なお顔は木彫りで容貌はあの神像を参考にした。他にいいモデルがいなかったというのがその理由だ。
取り敢えずどの関節も人間以上に自由度がある。実際に私が自分の関節を動かして確認しながら作ったから間違いない。手足の指だって人間以上に動かせる筈。
私はこの人形をゴーレムとして起動できない。だから自分の手で触って動かして動作確認をする。
問題ない。腕も脚も腰だって自由に動かすことが出来る。首もだ。
メンテナンスは動きが渋い関節に油を塗り、逆に緩くなったら調整ネジを締め付けるだけ。木材部分もただでさえ頑丈で耐久性のあるアコチェーノエンジュを魔法で乾燥&圧縮した特殊素材。そう簡単に傷む事はないだろうし。
外の太陽の位置を確認する。まだ夕方まで1時間くらいはありそうだ。時間的には問題ない。
私は出来上がったばかりのゴーレム素体をアイテムボックスに仕舞って家を出る。
行先は勿論聖堂だ。
聖堂の扉はやはり鍵がかかっていない。
開けて中へ入るとひんやりした空気が私を包んだ。
前の神像が並ぶ方へ向かって歩いていく。あの神像を目で確認。やはりあの時の神様だなと感じる。心なしか視線を感じるのは気のせいだろうか。
なおその視線とはやってきた埴輪のものではない。そして此処には私と埴輪の他に人間はいない。
そして埴輪、ヴィラル司祭は昨日と同じような口調で問いかける。
「礼拝か御見学でしょうか?」
「いえ、今回は司祭に見て頂きたい物がありまして」
やはり此処では何故か私も自然に言葉を出せる。不思議だけれど事実だ。
「何でしょうか」
「このような物を作ってみたのですけれど、司祭は使えますでしょうか。私は起動できないので確かめる事が出来ないのですけれど」
床に寝せた状態でゴーレムを出す。
「おっと、これはゴーレムですか。少し確かめさせて頂いてよろしいでしょうか」
「ええ」
埴輪はゴーレムの周囲をゆっくり回る。
2分程度使って1周した後、私の方を向いた。
「おそらく起動できると思います。これ以上は直接私の手で調べないと残念ながらわかりません。
このゴーレムをフミノさんが起動できるようにすればよろしいのでしょうか」
いや違う。
「いえ。もし使えるのなら司祭に使って頂こうと思ったのです。この程度なら半日あれば作れますから」
「それでは申し訳ありません。私自身は代価として支払うものがありませんですし」
「いえ、単に私が使って頂きたいと思って作っただけです。だから代価はいりません」
そこまで言ってからふと思いついた事を付け加える。
「ただ、もしよろしければゴーレムをゴーレムとして起動させるのを見てみたいと思います。
私は出来上がったゴーレムを操作する事は出来ます。しかしこうやって作った物をゴーレムとして起動させる事は出来ませんから」
そこまで言った後、ある可能性を思いついてさらに付け加える。
「その方法が他に見せてはいけないものなら無理にとは言いません。司祭にもう少し動けるゴーレムを使って貰いたいというのが第一義です」
何故私なのにこれだけ言葉がすらすら出てくるのだろう。そう思いつつもほぼ伝えたい事を言うことが出来た。
「いえ、その魔法をお見せする事は問題はないのです。ただ私自身の姿がお見せできるような状態ではないものでして。ですから普段はこうしてゴーレムに代わりをさせております」
それなら大丈夫だ。
正確には大丈夫ではない。一度倒れた位だ。
しかしそのせいで既に司祭に何が起きて現状がどうなっているかについてわかっている。だから今度は多分大丈夫な筈だ。恐怖耐性も3まであるし。
「申し訳ありません。司祭にどのような事が起こってどのような状態なのかは知っています。最初にお会いした時に見えてしまったもので」
「なるほど。それであのような質問をされたのですか」
あのような……ああ、昨日の質問か。
「失礼な質問をして申し訳ありませんでした」
「いえ、かまいません。きっと貴方にとって必要な質問だったのでしょうから。
それでは参ります。ただお見苦しい姿ですのでその辺はご容赦を」
祭壇の右側、奥から気配を感じる。
すこしごつい印象の灰色の作業服を着た背の高い細身の男性だ。白髪で顔は白い仮面で隠している。
雰囲気的に50代近くに見える。ステータスで見た実年齢は40そこそこだからかなり老けた感じだ。
服で手や足の拷問の痕跡は隠している。仮面で顔に残る痕跡も隠してはいる。喉、そして耳に残る傷跡は見える。治療はしてあるがはっきりわかる。
それでも前は見えているようでゆっくりと歩いてくる。
私の苦手な男性。しかも年長。しかもそんな様態だ。それでも恐怖を感じない。
何故だろう。ゴーレム姿でかなり話したからだろうか。よくわからない。
歩き方が不自然だな。そう思って気づいた。司祭が歩ける筈はないのだ。拷問で手足の腱を切られているから。
しかし動いている。前に進んでいる。
魔力の流れで理解した。自分の身体をゴーレムとして操っている。厳密には身体だけではなく今着用している服や仮面を含めてゴーレムとしているようだ。
よく見ると服がごついと感じた理由もわかる。おそらくこれは服としてではなくギプスというか、支持具を兼ねたものだ。
骨組みが入っていて、手や足をある程度固定している。腱を切られた脚では体重が支えきれない。だからそんな仕組みで支えている。腕も同様だ。
仮面が必要な理由もわかる。壊された目や耳、喉は用をなさないからだ。仮面がゴーレムとして機能し、それらの知覚で感じさせている。
ふと思った。私なら治療できるかもしれないと。少なくとも今の状態よりはかなりましな状態に出来る筈だ。焼かれた目や耳も。
私の魔力はまだ結構余裕がある。ゴーレム起動が終わったら挑戦してみよう。
さて、司祭は私が作ったゴーレム素体の前にしゃがむ。
「このゴーレムなら動かせますね。受容体もあるし魔力導線も通っている。どちらかで学ばれましたか?」
ゴーレムと同じ、顔の前の空気を振動させて作った声だ。
「独学です。本を読んだり、いただいたゴーレムを分解整備したりで」
「よく出来ています。これなら人が出来ることはほぼ全て出来るでしょう。
それではこの素体をゴーレムとして起動させます」
よし、今までわからなかった、『ゴーレムの素体をゴーレムにする』方法を実際に見る事が出来る。
説明が無くてもじっくり見れば何かわかるかもしれない。そう思って期待しながら司祭とゴーレムに注目する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます