第119話 アイテムボックス(極4)の威力
新しい街道は思った以上に道の状態がいい。だからその分バーボン君も速度を出せる。
結果、1日でテモリの街の手前
ゴーレム車とバーボン君を収納。小雨の中獣道を小走りに走る。
街道から見えない程度まで入ったところで整地して3階建ての家を出す。ダッシュで中へ入ってほっと一息。
「これなら明日、買い物だね。買った方がいいのは何かな。お洒落用品と本以外で。
食べ物は野菜と調味料関連を少し、あとテイクアウトで簡単に食べられるものくらいかな。フミノは何かある?」
何かあったような気がする。そうだ、魔法金属だ。
「
「わかった。でも魔法金属は相当大きい街でないと無理じゃないかな。この先だと東海岸沿いならせめてバーリまで行かないと。西海岸に出ていいならネイプルなら確実かな」
「わかった。あったらでいい」
そんなに魔法金属って珍しい品なのか。その辺の常識は今ひとつ私には足りない。
「セレスは何かあるかな?」
「特に無いです。服飾店だけいくつか回れれば」
服飾店か。私の苦手そうな店だ。セレスに任せて私は極力陰に隠れていよう。
「服飾店は朝一番で回った方がいいのかな」
「できれば早い方がいいです。場合によっては注文して作って貰う事もありますから。その場合、朝一番で頼めばその日のうちに作ってくれます」
その辺のシステムは私にとって未知の領域だ。リディナにとっても同じらしい。明らかにわかっていない表情だから。
「わかった。それじゃ一番最初に回るね」
「そうして貰えると嬉しいです」
それでは夕食その他の準備になる。リディナとセレスは料理、私は鏡を作る作業だ。
「自分の部屋で作業をしてくる」
手間がかかる作業になりそうだ。集中する為にも自分の部屋でやろうと思う。
「わかった。夕食が出来たら呼ぶね」
「よろしく」
階段をのぼって2階の自分の部屋へ。
今回はアイテムボックススキルをフル活用して製作するつもりだ。
このスキル、本日移動中にとうとう極4まで進化した。極3との違いはアイテムボックス内の物に魔法を使えるか否か。この差は実用上かなり大きい。
つまり今の私はアイテムボックス内のものに魔法を使用して加工する事が出来る。討伐したゴブリンやスライムの熱分解作業ももう外でしなくていい。
当然工作も全てアイテムボックス内でする事が出来る。
まずはかつて拠点で使ったガラス窓を確認。窓枠からガラスを外し、熱でガラスをくっつけて1枚に。やや歪んだ部分はアイテムボックススキルで出し入れして完全な平面になるよう切り取った。
ここで『完全な平面』をイメージするのが重要だ。分子レベルで完全に、とイメージする。ガラスの分子構造は知らないけれど、あくまで重要なのはイメージ。
とにかく強く『完全な平面』をイメージする。
次はこのガラスに銀を均一に貼り付ける作業。理科は得意だし実験は大好きだ。保健室登校なので実際に実験はしなかったけれども。
まっとうな方法もいくつか思い浮かぶ。しかしアマルガムなんて方法は水銀がないから無理。銀鏡反応なんて出来れば楽だが硝酸なんて当然持っていない。
真っ当な化学的方法は無理。なら頼るのはやはり魔法とスキルだ。
アイテムボックス内の銀のインゴットを確認。この国では銀は銅の100倍くらいの値段。だから在庫も
勿体ないが
銀インゴットをアイテムボックスに入れたまま、突き固め魔法を使って平たく伸ばす。ガラスの大きさになるよう、そして出来るだけ均一になるように。
それでも予定よりはみ出た部分は切り取って熱を加えて貼り付け。アイテムボックス内は酸化を気にしなくていい。だから表面は銀白色できれいなまま。
ほどよく伸ばしたら表面を完全に平面にする作業。勿論これはアイテムボックススキルを使う。
手作業でこんな事出来る筈はない。この道ウン十年の職人さんなら出来るかもしれないが、私のような素人は無理。でもアイテムボックススキルならイメージさえ完全なら可能だ。
さあ、次もチート。先程完全に平面にしたガラスに、間に酸素も窒素もその他空気分子1個も入らないくらいと、強く強くイメージしつつ平らに広げた銀を密着させる。
よしよし。鏡本体完成だ。
ただこれでは銀が酸化して黒ずむと悲しい。だから裏に同じ方法で銅の薄板を作って貼り付けてしまおう。やはり間に空気の分子が1個も入らないイメージで。
最後に銅で枠を作ってガラス・銀・銅板をきっちりはめ込んでしまえば完成だ。
取り出してみると思ったより大きく重い鏡になった。お金もかかっている。何せ材料費だけで
しかしうつりは最高にいい。ならばという事で即席で木の板を加工して台をつくり自立可能にする。
うん、良いものが出来た。
重いし割れると悲しい。だから再びアイテムボックスに入れてから階下、リビングへ。
「あ、フミノ良かった。もうすぐご飯が出来るよ。ところで工作は終わった?」
ふっふっふっ。どうぞご覧あれ。
「これが出来た」
リビングの端、階段とも他の扉とも遠い位置に今作ったばかりの鏡を出す。再度自己満足。これは良いものだ。
「凄い、こんな大きな鏡なんて初めて見ました」
セレスが真っ先に反応した。キッチン代わりのテーブルから目を大きくして鏡の方を見る。
「近くで見てみましょ」
リディナとセレス、2人で鏡の近くへ。
「大きいだけじゃないよね。凄く明るくて映りがいい」
「こんなの初めて見ます。表面も金属じゃないですよね。普通の鏡とちがう感じです」
「貴族の家なんかにたまにある、ガラスを使った映りのいい鏡がこんな感じよ。でもここまで大きくて映りがいいのは初めて見たかも」
ふふふふふ、もっと褒めていいのだよなんて調子にのって思ってしまう。私の腕というよりチートなアイテムボックススキルの賜物なのだけれど。
やはりイメージ次第、望んだ形で出せるというのは便利だ。おかげで職人さんでも不可能な事が私にも出来る。
あ、でも一応リディナに報告しておこう。
「銀の
「でもこんなの買うと正金貨で4~5枚は飛ぶと思うよ」
「そんなにですか!」
リディナの評価とセレスの悲鳴。
うん、なら良かった。私は満足だ。
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