第15章 予想外の視点?

第117話 移動再開

 魚が多く牡蠣も豊富な入り江で更に1週間滞留。

 この場所は魚だけではなく狩りも好調だった。魔物は少ないけれど山羊や角兎等がそれなりに豊富。川があるし森もそれなりに茂っているからだろうか。


 雨期だから毎日狩りという訳には行かない。それでも2日目にリディナとセレスで山羊の大きいのを2頭狩る事に成功した。


 川で血抜きをしながら肉を冷やした後、リビング専用の小屋の中でレッツ解体。リディナと私で教えながらセレスを含む3人で作業だ。


 2頭経験してセレスも獣の解体要領をほぼおぼえた。お肉も美味しいし山羊は皮も使える。今回は売らずに素材としてキープさせて貰った。


 私もバーボン君の可変長脚を完成させた。足の長さが今までと同じ長さから最大8割増まで変えられる。


 伸縮機構を内蔵したので脚は少し太めになった。しかし見た目のバランスは悪くないと思う。


 あとは実際にゴーレム車を牽かせて確かめるだけだ。


 此処から出る事を決めたのは、リディナのこんな台詞だった。


「そろそろ新しい本を読みたいかな。セレスも本を読めるようになったし、また南へ進まない?」


 この場所の欠点は他と行き来がしにくい事。道は無いし後背の森は急斜面で歩きにくい。

 海沿いに岩伝いで進み、後ろの台地へ上れる場所まで行かないと街道に出る事すら出来ない。


「此処は楽しかったです」


 そう言うセレスの表情は前と違う。以前、何の感情も感じなかった頃とは全く。

 確かに以前リディナが言った通りだったな。そう私は思った。


「大丈夫大丈夫、南の方が開発されていないし、此処以上に楽しい場所があるよきっと。セレスに会う前もやっぱり海沿いで一時滞在した場所があったしね」


 そして私達は入り江を出発する。

 半時間で無事廃道入口まで辿り着き、そこからはゴーレム車で。


「この中、前と全然違いますね」


 そう言えばリディナやセレスに改装後の中を見せたのは初めてだ。


 椅子やテーブルが進行方向に対して横方向になっただけではない。結果的には筐体にも少し手を加えた。


 テーブルや椅子の配置変更にあわせて、出入りしやすいように出入口を横に追加。それに伴って窓の位置を変更。その他ベッドに合わせて柱を2本増やしていたりもする。


 まあ目的や結果を端的に言うと、

「3人でもそれぞれのベッドで眠れるようにした」

で全てなのだけれども。


 今は私が前側の後ろ向き席、リディナとセレスがテーブルをはさんで後ろ側の前向きの席に座っている。


 これがこのゴーレム車の基本状態。しかし基本という事は当然応用状態もある。


「料理を作る際、その椅子を後ろに下げれば少しだけ広くなる。背もたれの後ろにある棒を引き抜けば固定が解除できる」


 私の説明を聞いてリディナが腰を浮かせる。


「セレス、ちょっと試してみていい?」


「勿論です」

 

 早速後ろを広げた状態に変更だ。この状態でもバネ付き押さえ棒のおかげで座席位置はしっかり固定される。


「これならかなり広いよね。2人で動いてもある程度は大丈夫かな」


「ただ今までより少し揺れるかもしれない。バーボン君も少し改造したから」


「そう言えば少し強そうになっていたよね」


 足が太くなったのがリディナにはそう見えたようだ。


「まだ道が悪いから速度は出せない。でも平坦で道がいい状態なら今までより少し速くなる筈。その分揺れる可能性が高い」


「今までが普通の馬車と比べて信じられないくらい揺れなくて乗り心地が良かったからね。多分大丈夫だと思うけれどどうなんだろう」


 更なるサスペンション改良もしている。改造に際して少し重くなった分バネレートを強くした。ダンパーも精製した油を入れたオイルダンパーに進化。


 ただまだ試してはいない。速度が速く重い分がどうなるか。


「それにしても乗り物で移動なんて優雅ですよね。ゴーレムで牽く車なんて他では見た事が無いですけれど。このゴーレムもフミノさんが作ったんですか?」


「このゴーレムは前の仕事で貰ったものだよ。依頼された訳じゃないから正確には仕事ではないけれどね……」


 そんな話をしているうちにバーボン君は街道に出る。

 此処に来るまでは主に旧街道を走って来た。しかしこの部分はおそらくさっきの廃道が旧街道で新しい街道しかない。


 新しい街道は広いし路面の整備状態もいい。そしてこの先かなり向こうまで坂がなく平坦だ。

 試運転にちょうどいい。そう私は判断した。


「道が良くなった。速度を上げるテストをしてみる」


 ゆっくり歩く体勢を意識しつつ足を伸ばす。

 具体的にはバーボン君の前脚後ろ脚、上と下合計8カ所に仕込んだネジ式長さ調整機構をゆっくり回す事を意識。

 まずは最大長まで伸ばして確認だ。


 明らかに力がかかっているのがわかる。魔力をほぼ全て力に費やして余裕がほとんどない。

 この長さ最大状態ではちょっとした坂も辛いだろう。しかし平坦でこの路面なら問題ない。


「揺れや景色はあまり変わらない感じだよね」

 

 窓の外を普通に見ている分にはあまり変わらないように見えるようだ。


「前の倍近くは出ている。普通の馬車と同じかやや遅い位」


「本当です。すぐ下の路面を見ると速く動いているのがわかります」


 セレスが窓から顔を半ば出して確認。リディナもどれどれと自分側の窓から下を見てみる。


「本当だ。小走り位の速さにはなっているのかな」


「その通り。これが最大。ただ余力がほとんどないから、今は少し速度を抑える」


 また調整機構を回して足の長さを変える。今度は最初の4割増し程度。


 これで早足で歩く程度の速さだ。一般の馬車よりは遅いが、歩き旅の人に追い越される事はないだろう。


 これなら街道の坂程度は何とか上り下り出来る筈。その程度の余力は感じられる。


「この程度でどう?」


「うん、これでも今までと比べると充分以上に速いよね。馬車よりは遅いけれど」


「あとは材料を仕入れないと無理」


 出来れば魔法銀ミスリル、最低でも魔法銅オリハルコンは必要だ。


 ゴーレム車を牽くという前提なら、受容体をゴーレム車の屋根全面にでも広げればいい。ただの銅で試作した際は出力不足だったから、最低でも魔法銅オリハルコンが必要だけれども。


 魔法金属は通常の金属と比べると段違いに高価らしい。

 フェルマ伯爵領で稼いだから今は結構お金持ち。しかしこの先どこでお金が必要になるかわからない。


 稼げるだけ稼いでおこう。私は今まで通り、偵察魔法とアイテムボックススキルによる魔物狩りを再開。


 少しゴーレム車は速くなった。しかしこの程度なら狩りとの両立は難しくない。

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