第113話 久しぶりの停滞日

 結局その後は寝坊した事にして、いつもより遅い時間にリビングに行った。


 リディナの反応は特にいつもと変わらなかった。だからきっと話をこっそり聞いた事はばれていないと思う。

 きっと、多分。


 さて朝食後。


「天気がいいからセレスと外を回ってくるね。昼食を持っていくからお昼は適当に食べていて」


 リディナの自在袋にはお昼ご飯セットの他、釣り道具セットも入れてある。更に共用自在袋をセレスに持たせている。釣りだろうが魔獣だろうが獲物は持ち帰るぞという装備だ。


「わかった」


 私はリディナ達を見送ったら工作開始。久しぶりの停滞日だしやるべき事は山ほどある。


 まずはお家の3人用への改装だ。狭い2階建てと狭い1階建て、そして最初から使っていた物置小屋改装のお家は2人仕様。あとはゴーレム車の簡易寝台も2人仕様だ。


 このうち物置小屋改装の奴は今の大きい3階建てがあれば当分使わないだろう。だから差し当たっての優先順位は、

 ① 狭い2階建て

 ② 狭い1階建て

 ③ ゴーレム車

という感じだろうか。ゴーレム車が止まれるところなら狭い1階建ても出せるだろうから。


 それではまず狭い2階建てから。さて、ベッドを作れそうな空いている場所は何処だろうか。


 1階床下には人が入れる程の高さの余裕はない。

 その上の1階は入口、トイレ、風呂、階段でやはり目一杯。 1階と2階の間は太めの床梁だけで空間なし。その上は2階リビングの床。

 更にその上天井付近はベッド2個と移動スペースで限界。

 

 空間利用効率が良すぎて余っている場所が無い。必ずどこかに支障が出る。難しい。


 考え方を変えよう。寝ている間使わない場所は何処か。


 リビングは起きだした人や寝るのが遅い人がいるから空けておきたい。トイレは狭くて寝れるような横の空間は無い。階段も同様。入口は2人が立つ程度の広さしかない。


 残った場所は風呂だけだ。仕方ない、湿気て困らないよう構造と運用で何とかしつつ風呂を寝室に転用できるようにしよう。


 なお風呂を潰すという発想は私にはない。風呂は絶対不可欠で必要なものだから。


 この場合、必然的に風呂を寝室として使うのは私になる。概ね私が一番風呂の時間が遅い。風呂に入りながら偵察魔法を使って狩りをする習慣があるから。

 

 そして私なら魔力が大きいから排水及び除湿・乾燥は余裕。アイテムボックスがあるから大きなものでも即時取り出し可能。


 風呂は部屋そのものの広さが半腕1m×1腕2m程度。浴槽が概ね半分で残りは洗い場兼着替え場所。浴槽が少し部屋に対して斜めに作られていて幅が足元と頭付近で微妙に違うとかあるけれど、概ねそんなもの。


 浴槽の足部分は階段が上に浸食している分天井が低い。だからベッドを作る位置はほぼ自動的に決まる。

 ① 浴槽の蓋を少し頑丈なものにして、

 ② 同じ高さになるように脚付きの台を作って、

 ③ その上にマットと布団を置く


 こんな設計で何とかなりそうだ。


 勿論ベッドを設営する際は魔法で排水して壁空気その他を乾燥除湿してから。でもそのくらい私なら余裕。それに私専用ならベッド資材もアイテムボックスに入れておけば済む。


 よし、それでは蓋と台を作ろう。蓋はズレておちないよう浴槽側に引っかかるように出っ張りをつけて。もうこの辺の木工作業は慣れたものだ。アイテムボックススキルのおかげではあるけれど。


 あっさり完成。出来てみると思った以上に居心地が良さそうな寝室だ。


 難点は展開する時に部屋の隅っこに行かなければならない事くらい。あとは今までのロフトっぽい場所より広くてしっかり部屋っぽくて窓もあってむしろいい感じ。


 うん、これはリディナ達に見せて感想を聞きたい。だが2人とも帰りはきっと遅いだろう。リディナは釣りキチだ。それにセレスに魔物相手の要領とかも教えたりするのだろうし。


 そんな訳で私は次、狭い1階建ての作業に入る。

 これはもう場所の選択の余地がない。2段ベッドを3段ベッドに改装するだけ。


 起き上がった際に頭がぶつからないぎりぎりの高さに調節して棚を増やす。支柱は今までの2段ベッドのものをそのまま流用。


 ここで疲れたので一時休憩。

 ツナマヨおにぎり、それも海苔を巻いた完全版を1個いただく。美味しい。ご飯しっとりツナマヨたっぷり海苔パリパリ。


 出来たて状態で保存できるアイテムボックスのおかげもある。しかしやっぱり美味しいのはリディナの腕のおかげ。


 どう考えてもコンビニおにぎりより美味しいし贅沢だ。海苔も美味しいしご飯もいい感じだし中身が質・量ともに違うし。


 中に入っているリディナ作のツナ、シー●キンもどきそのものもかなり美味しい。材料が新鮮でいいのかリディナの腕なのかは……両方だな、きっと。


 私の小さい胃袋では1個食べるとお腹いっぱいになってしまうのが残念。まあ種類多く食べたいときは細巻きとか握りずしとか軍艦巻きとかもあるのだけれど。


 なお握り寿司や細巻き太巻き軍艦あたり、つまり寿司系はこの前から酢飯仕様になっている。甘い系のおかず何回か食べた後、この甘みが寿司飯に使えそうだと思いついたからだ。


 2~3回試作品を作った後仕様が決定。今では海鮮丼を含め安定した美味しさの寿司飯が出来ている。


 さて麦芽茶を飲んで休憩は終了。あとはゴーレム車とバーボン君改造だ。

 どちらも結構複雑な工作になる予定。工数が今までの家2軒と比べて圧倒的に多くなりそうだから。

 

 ゴーレム車は内部のレイアウトをがらりと変えるつもりだ。

 今までは椅子もベッドも前後方向に長く伸びる形だった。しかしベッドを3つ配置するほどの車幅がない。


 だからテーブルも椅子もベッドも左右方向に作り直すことにした。中でリディナとセレスが調理をしやすいよう、作業スペースも少し広めにとる方向で。


 今まで使っていた椅子兼ベッドは一度取り外した後長さを短く改造。

 テーブルも長さを短くし、横方向で入るよう改造。これで向かい合わせ4人分の横向き座席が完成だ。

 

 なおリディナ用の座席兼ベッドは前後方向に移動可能にする。これは料理をする際作業スペースを広げて、セレスと2人でもある程度動けるように。


 あとはセレス用のベッドの新規作成。これは最後部に折り畳み式で設置。折り畳み式でも寝心地は他と同等にする。ガタつかないようきっちり作ってマットも他と同じにして。


 3人それぞれが出入りできるよう出入口も工夫しよう。前方向、後ろ方向、側面方向と。


 ゴーレム車はこんな感じでかなり手を加える予定。だから時間も結構かかるだろう。


 バーボン君の改造部品は設計図まで既に作図済。しかし鉄や黄銅、銅部品ばかりで精度もそこそこ必要。更にバーボン君のかなりの部分を分解して組み立て直さなければならない。


 つまりゴーレム車の改造には時間がかかる。バーボン君は明日以降の作業になるかな。じっくり時間をかけた方が良さそうだし。


 ◇◇◇


 結局この日はゴーレム車改装の途中までで終わり。やはりゴーレム車、改造範囲が大きいので時間がかかったのだ。筐体も明日には少し改造予定。


 それでも明日の午前中には何とかゴーレム車も完成するだろう。それ以降の時間をじっくりバーボン君の改造にあてればいい。


 リディナとセレスは暗くなりかけた頃になってやっと帰って来た。


「どうだった?」


「陸上はゴブリン3匹だけ。でも釣りは結構調子よかったよ」


「私も釣れました。あれ面白いですね」


 どうやら釣りキチがもう1人増えそうな雰囲気だ。悪くない。今思えば私は読書欲と旅行、狩りで今の状態になれたような気がするから。


 セレスなりの楽しい事をみつけて、それで徐々に興味を持てる範囲を広げて欲しい。

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