第90話 ゴーレム車の利点?

「ねえフミノ、このゴーレム車、立てるくらい広いし移動しながら中で作業も出来るよね。ならちょっと料理をしていいかな。いざという時用のお昼ご飯をある程度作っておいた方がいいと思うから」 


 確かにさっと食べられるものの在庫がなくなっている。今日みたいにゆっくり進む場合は夕食の残り等を食べれば問題ない。しかし何かあった時の為にすぐ食べられるものを用意した方がいいのは確かだ。


「揺れるけれど大丈夫?」

「これくらいなら大丈夫だよ」

「ならむしろお願い」


 それにしてもどうやるのだろう。遠隔討伐は不調なので諦めてリディナの調理を暇つぶしにぼーっと見る。


「それじゃフミノ、鍋とお米を出して貰っていいかな。米は半重3kgくらいで鍋はそれくらい一気に炊ける大きさで蓋がしっかり閉まるもので」


 いきなり炊飯、それも米半重3kgもか。確かにリディナ、ご飯を炊く時は多めの量で一気に炊く。自在袋やアイテムボックスがあるから炊き立て状態のまま保存しておけるし。

 

 しかし揺れる車内で本当に大丈夫なのだろうか。


「大丈夫?」

「おにぎりの具、魚以外に味付けの濃いものなら大体大丈夫なんだよね。だから明日、魚を買う前におにぎりってどんな感じなのか試してみようと思って」


 それでご飯を炊こうと考えた訳か。

 少しばかり怖いもの見たさというのもあってリディナの注文通り、大鍋に米を入れた状態で出す。


「ありがとう」


 私はリディナがどうやって炊くのか注視する。


 リディナはまず鍋の蓋をとって、両手で米入りの鍋を持ち、水属性魔法を起動した。


 なるほど、鍋を持って自分で揺れを吸収しつつ、魔法で鍋の中に水流を起こして米を研ぐのか。

 鍋を手で持っているから揺れはかなり吸収できる。魔法で水を操っているのでこぼれる事もない。


 白濁した水は自在袋に入れた後、外に出して排水。この辺は私がアイテムボックススキルで掃除をする時と同じだ。

 しかし炊くのはどうするのだろう。


 リディナは高温調理用の金属と木を組み合わせて作った鍋敷きを出して、その上にさっきの鍋をのせる。更に魔法で中に米ひたひた程度にお湯を入れる。この程度なら今の揺れではこぼれない。


「それで炊くの?」

「吸水させた後ね。炊くのも最初はこの水の量ではじめるつもり。お湯が足りなくなったら随時沸騰温度のお湯を魔法で加えれば大丈夫でしょ。その辺は監視魔法で見ながらやれば問題ないと思うし」


 なるほど、魔法でそうやって炊けばこぼれるような水量を入れなくても済むのか。魔法様々な方法だ。


「試しに入れるおかずはお肉を甘辛く煮詰めたものと、お肉と菜っ葉を塩で炒めたものでいいかな。あとは塩漬け肉をそぼろ状にしてチーズとあえて中に入れてもいいかも」


 間違いなく美味しい奴だそれは。だから私はうんうんと頷く。


「美味しそう」

「なら中のおかずも作るね。小さめの片手鍋2つ、ふた付きでお願い。あと料理用の鍋敷きも」

「わかった」


 何だか楽しみになって来た。だから私はリディナに言われるまま、鍋やカトラリーや材料を出す。これだけ出しても6人掛けサイズのテーブルは余裕だ。


 移動しながら料理か。これはちょっと考えなかったな。ならこのゴーレム車の第2号として屋台仕様なんて作ってもいいかもしれない。


 リディナの料理の腕ならけっこうお客さんも来るだろう。でもなまじ繁盛したら私の居場所がなくなる。中に閉じこもる為の個室を作っておこうか……


 そんな事を考えている途中で私は気付いた。後ろから馬車がやってくる。このゴーレム車より明らかに速い。ここは譲っておくべきだろう。


「後ろから馬車が来る。向こうの方が速いから先に行かせる。道端に寄って止まるからショックがあるかもしれない」

「わかった。注意するから大丈夫よ」

「それでは端によって止まる」


 ゴーレムを操って右側ぎりぎりへ寄せる。偵察魔法がアラウンドビューモニター状態なので操縦は簡単。特に揺れもせずゴーレム車は停止する。


 背後から馬車の音が近づいてきた。こっちが道を譲ったのを理解したのだろう。御者が頭を下げて横を通り過ぎ……一瞬ぎょっとした表情をした後、すぐ何か納得したような表情にもどって、そしてそのまま馬車を走らせて行った。


「大丈夫かな」

「ゴーレムが走らせているってわかったんでしょ。私も最初は御者席がなくて驚いたんだけれどね」


 なるほど、問題はない訳か。なら良かった。


 その後お昼頃までの間に何回か馬車や人とすれちがい、また馬車2台、人3組計5名に追い抜かされた。

 そのうち歩きで抜かしていった1組2名だけこっちに質問してきた。


「あの……この馬車、御者もいないし牽いているのも馬じゃないですよね。これは何ですか」

「払い下げをうけたゴーレムで牽いているんです。遅いですけれど中でのんびりできますし楽ですよ」


 私が言えなくてもリディナが説明してくれる。


「そうですか。これは珍しいものを見ました。ありがとうございます。それではお先に」


 なるほど。周知はされているけれど珍しいものではあるんだな、ゴーレムは。

 ふと気になったのでリディナに聞いてみる。


「ゴーレムを盗まれたりしないかな」

「盗賊団でもない限り盗もうとしないと思うよ。盗んでも売れないだろうし使い道もないだろうし。それに自衛もするんだよね、確か。

 それでも気になるなら牽いている時以外は収納しておけば問題ないでしょ」


 確かにそれもそうだな。納得したので頷く。

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