第72話 ステータス閲覧

「つまりフミノはこの、個人の能力一覧を見る事が出来る能力を持っている訳ね」


 リディナはそう言うけれど少し違う。訂正しておこう。


「私は能力一覧を見る事が出来る。しかしこれは魔法でもなければスキルでもない。ステータスシートに魔法としてもスキルとしても載っていないから。だから誰でも出来ることの可能性がある」


「つまりこういう事が出来る、それを知れば私達も出来る。その可能性があるから教えた。そういう事?」


 私は大きく頷く。ミメイさんが今言った事、まさに私の思った通りだから。


「その通り。だからこんな形で自分の能力を把握できる。そう信じてみて欲しい。出来る可能性は高い」


「そっか。フミノはこういう形で能力を見る事が出来たの」


 おっと、リディナにはもう少しだけ説明しておこう。別に隠しておいたわけではないという説明いいわけを。


「実はそう。でも他の人も出来る可能性があると思いついたのはついさっき。その辺を考えながら説明したから少し手間取った」


「なるほどね。ところでフミノ、それじゃ私の事ってどこまでわかるのかな。過去に何かがあったとかもわかるのかな」


「私がわかるのは現在の能力だけ。過去や未来に関してはいまのところわからない」


 これは本当だ。けっしてリディナの今の質問に闇というか何かを感じたからそう答えた訳ではない。


「そっか。なら取り敢えず、この項目に沿って自分の能力がわかるか試してみるね」


 2人にメモ用に紙と鉛筆を渡しておく。紙は以前アレティウムで大量に購入したのでまだまだ余裕がある。鉛筆も同じく購入したものだ。

 どちらも日本製に比べると品質が劣る。書く時に少しひっかかりを感じるのだ。メモ程度の使用には問題ないけれど。


「見えた」


 ミメイさんがそう言って筆記し始める。


「あ、私も。でも何これ、フミノの保護者って」


 リディナ、それって……確かにある、リディナのステータスシートの称号欄にそんな単語の列が。

 

「それは称号。記載条件は私も知らない。ただ犯罪を犯すとそこにその関係の記述が加わるらしい。その場合は職業も変わる」


 どうやら2人とも見えたようだ。それにしてもリディナに出た称号が『フミノの保護者』か。確かにその通りだから納得はできる。


 しかしこの辺は誰が観察して付け加えているのだろう。神様だろうか、それとも何か自動処理のシステムがこの世界にあるのだろうか。


「なるほど、出るのはあくまで今の状態なのね。その代わり知りたい部分を突き詰めればかなり細かい部分まで見る事が出来る。そんな感じかな」


「理解。必要なのは何をどんな形で知るかという知識とイメージ」


 うーむ、予想以上にあっさり出来てしまった。これでまた私が特別というものがひとつ減った。

 いい事だ。私は目立ちたいわけではない。ひっそり静かに生きていきたいだけだから。


「でもこれ、とんでもない知識。このステータスを見る方法と魔法をおぼえる方法。両方がわかれば誰でも魔法を身につける事が出来る」

「確かにそうよね。すごく便利になるかも」

「それだけではない。貴族と教会にとっては一大問題」


 そうか。そう言えばミメイさん、言っていたな。魔法を使えるという事が貴族の権威のひとつだって。


「私だけでは判断不能。カレンもいる。相談したい」

「そうね。皆で少し考えようか。食事の後ゆっくりと。カレンさんが出来るかも確かめた方がいいしね」


 リディナがそう言って座卓の上に料理を出し始めた。監視魔法でカレンさんが風呂からあがったのを確認したのだろう、きっと。

 私もカトラリーを食器棚等から出したりして手伝う。 


 今日のメニューのメインは鹿ステーキ。さらに生魚と茹でタコの薄切りが入ったカルパッチョみたいなもの、ポテト&チーズのサラダ、トマトとレンズ豆のスープ。


 主食はパンだけれどもご飯も用意済み。薄切りラルドや醤油風ドレッシングも用意してある。うん、完璧だ。少なくとも私的には。作ったのは勿論リディナだけれども。


 勿論飲み物も用意してある。今回は冷たい麦芽茶だ。ただカレンさん用に果実酒も用意してある。


 扉をノックする音。


「どうぞ」 

「お風呂ありがとうございました。久しぶりで気持ち良かったです」


 カレンさんが入ってくる。


「こちらへどうぞ」

「ありがとうございます。それにしても豪華ですね」

「此処は食料品が安いですし、お肉は狩ったもので無料ですから」


 なんて話した後、夕食会開始だ。

 鹿肉のステーキは普通の生肉ではなく、リディナが何か調味液に漬けておいたもの。臭みはないのに旨味がやたら濃厚で美味しい。


 あとはやっぱりご飯&刺身&ラルド&醤油もどきドレッシング。これは最高だ!


「フミノが食べているの、何?」

「お米よ。この国でも南の方では結構食べている人が多いみたい。フミノがやっているようにラルドとこのドレッシングとを一緒にして食べると美味しいよ」


「これは魚でしょうか?」

「タコという海の生き物を茹でて薄切りにしたものです。フミノが美味しいというので買ったのですが、食感も味もちょっと面白いので、今では良く使っています」


「初めて食べました。確かに美味しいです。フミノさんは南方の海沿いの出身なのでしょうか」

「フミノの出身はこの国ではない別の国です。東の方にある、海鮮をよく食べる魔法の国だと聞いています」


 まずは会話しながらも食べまくりモードだ。それにしても日本が『東の方にある海鮮を良く食べる国』か。

 なまじ間違っていないのが笑える。私の説明のせいでもあるけれど。

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