第62話 カレンさんのお願い(1)
カレンさんは比較的すぐ戻ってきた。
「それでは計算書と褒賞金の方を確認お願いいたします」
今回はトンネルへの案内とインゴット運搬、あとはゴブリン討伐だけ。
だから確認は簡単だ。
「問題ありません」
リディナの台詞にあわせて私も頷く。
向こう側ではミメイさんも頷いている。彼女も運搬その他の依頼を受領したようだ。
おそらく先程カレンさんに預けた自在袋にそれらが入っていたのだろう。私達と同様に魔物や魔獣を狩ったりもしたのかもしれない。
「それでは9月7日の朝、出来ればこの冒険者ギルドが少し空く朝9の鐘頃に再びこちらにお願いいたします。
さて、ここで一つお伺いです。リディナさん達はこの後、以前にアコチェーノに来た時と同様に、先の河原で家を出して泊まる予定と思って宜しいでしょうか」
おっと。その辺は冒険者ギルドの人に聞いたのだろうか。でも
「そのつもりですが、どちらから聞かれたのでしょうか」
リディナもその辺不安に思ったようだ。
「アコチェーノの冒険者ギルドに森林組合から話があったそうです。ただ問題はありません。それだけ大きな自在袋を持っている冒険者がいるのだという事で話題になっただけです。
そうなると森林組合に家を発注されたのもリディナさん達ですね」
そこまで把握されていたか。これは用心しなければならないだろうか。そう思ったところでまたカレンさんが口を開く。
「個々の冒険者がどれだけの能力を持っているかについては、冒険者ギルドは完全には把握していません。そしてもちろん国や領主にも情報を開示していません。
領主や国に対して冒険者ギルドが開示するのは冒険者の級ごとの人数だけです。個々の人名等は開示しません。冒険者ギルドと国とはあくまで別組織ですから。
また各冒険者ギルド支部が相互にやりとりするのも、級と名前、性別と職業、年齢だけです。個々にどれだけの特別な能力を持っているかまではギルドとしては把握していません」
カレンさんが急にそんな説明をする。
どういう事だろう。
「だから個々の冒険者の能力を詳細に把握しておきたい、そういう事でしょうか」
そうか、そういう事か。なら注意しておく必要がある。リディナの台詞でそう私が思った時だ。
カレンさんは首を横に振った。
「いえ。ギルドとしてはいざという時どれくらいの戦力を集められるか。それだけ把握できれば十分です。ですから先程言った通り級と名前、性別と職業しか把握していません。性別はいざという際の処遇に必要だからでそれ以上の意味はありません。
そしてこれだけしか把握しない事を私は正しいと思っています。何時の時代何処の場所でも人の能力を悪用しようとする輩はいるものです。それが個人ならともかく、国や貴族、大きな商会なんて場合も往々にしてあります。
ですから冒険者が自分の能力を隠すのは自衛として当然です。しかしそれではいざ何かが起こった際に街やギルドが対処できない。ですので魔獣や魔物に対する戦闘力として級を設け、最低限の把握をしている訳です。
それらの事を踏まえて、リディナさん達に御願いがあります。冒険者ギルドとしてのお願いが1件、個人的なお願いが1件です」
うん、言っている事は正しい。それに私達に対して危険な話でもなさそうだ。
ただこれだけ慎重に前置きして説明してきたのだ。少し用心した方がいいかもしれない。そう思って私は一言も漏らさないよう、注意して聞く態勢をとる。
「そのお願いとは何でしょうか」
「まずは冒険者ギルドとしてのお願いです。リディナさんは既にあの攻撃魔法でC級以上の戦闘力を持っていると判断しました。
戦力としての冒険者を把握するのは冒険者ギルドとしての責務でもあります。ですのでリディナさんをC級冒険者として認定したい。それが第一のお願いです
リディナさんをC級冒険者として認定すれば、いざという際にフミノさんと同じ配置にする事も出来ます。それ以外の利点や欠点はフミノさんが既にC級ですからもうお判りでしょう。
さて、どうでしょうか」
似たような事を最初の冒険者ギルドでも聞かれたなと思い出す。ここまできちんとした説明では無かったけれど。
「どうかな、フミノ」
リディナが私の方を向いて小声で尋ねる。
私が既にC級である以上問題はないだろう。それにカレンさんは信用していい気がする。
ちなみに私の信用できるとは、裏切られてもかまわないと思える程度には好感が持てるという意味だ。裏切られないと確信できるという意味ではない。その辺は私が私である以上そうそう変わらないのだ。
「多分問題ないと思う」
「だよね」
リディナは前、カレンさんの方を向く。
「それではC級昇格を受けさせていただきます」
「わかりました。どうもありがとうございます。それでは冒険者証をお預かりします。下で書きかえさせますので」
カレンさんはリディナが出した冒険者証を受け取り、部屋を出て行った。
そして例によってすぐに戻ってくる。
「新しい冒険者証は後程お渡しいたします。それでは次、冒険者ギルド職員としてではない、私としてのお願いになります」
冒険者ギルド職員としてでない、個人的なお願いか。何だろう。
「何でしょうか」
リディナも見当がついていないようだ。雰囲気でわかる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます