第61話 カレンさんの質問(1)

 8の鐘が鳴る前にアコチェーノの街門に到着。そのまま冒険者ギルドへ直行する。


 ただカレンさんはギルドの入口に入らず、横の路地へ。


 路地をまっすぐ進むと裏庭のような場所に出た。軽く試合でも出来そうなくらいの広さがある。


 ふと思う。最初に行ったアレティウムの冒険者ギルドと同じような造りだなと。ここもあんな感じで冒険者の力の確認に使うのだろうか。


「この時間はまだギルドも混んでいます。申し訳ありませんが此処で少しお待ちください。すぐに適当な部屋を借りてきます」


 通り沿いや混んでいるギルドの中で待たされるよりはこの方がいい。カレンさん、よくわかっていらっしゃる。私としては楽でいい。


 私、リディナ、そして少し離れてミメイさんの3人で外で待つ。

 割とすぐにカレンさんは戻ってきた。


「部屋を確保しました。途中で討伐したゴブリンや運んだ鉄インゴットの回収もそちらで行います。どうぞこちらへ」


 案内されたのは広い会議室風の部屋。ローラッテの時と同じように窓は全開状態だ。真ん中が大机状態になっていて、他の机や椅子は端に寄せられているところも同じ。


「まずは先にインゴットの方を片づけておきましょう。こちらへ運んだインゴットと、倒したゴブリンの魔石を出して頂けますでしょうか。ギルド備品の大容量自在袋を全部借りてきましたので、遠慮せず出してください」


 ならという事で遠慮せずインゴット4002,400kgを全部出す。

 更に昨晩風呂の最中や寝る前に倒したり、ローラッテから来る途中に倒したりしたゴブリンの魔石12個もついでに。


「昨日の今日で随分倒されたのですね」

「夜にも近場にいるゴブリンは念のため狩っておくので」

「なるほど、それではお預かりします」


 自在袋4つに全て収納し、更にミメイさんから自在袋らしい鞄を預かってカレンさんは消える。


「こう配慮してくれると助かるよね、フミノとしては」


 うんうん。まさに同意。こうやって配慮してくれるところばかりだと私も非常に楽なのだけれど。

 それにしてもカレンさん、よくわかっていらっしゃる。


「誰かフミノみたいに男性が苦手な知り合いがいるのかな」

「そうかもしれない」


 その可能性はある。そうでないとこうも先回りして気付くなんて事が出来ないだろうから。


 今回もカレンさんは割とすぐ戻ってきた。


「褒賞金はそれぞれ事務所で計算して準備中です。その間にあの洞窟の件について先に話を進めておきましょう。


 あの洞窟はローラッテとアコチェーノの間の交通路として、非常に重要な価値を持つと思料されます。しかもそのままトンネルとして使用しても問題ない状態だそうです。詳細はミメイに後程レポートとして出して頂きますが、そうですよね」


 ミメイさんは頷く。


「発見及び調査の褒賞金は領主家と話し合いの必要があります。更に領主家の方でもある程度の調査をすることになるでしょう。

 ですので申し訳ありませんが、褒賞金については1週間ほどお待ちいただきたく存じます。宜しいでしょうか」


 少し面倒だなと思う。何ならトンネル発見の褒賞金は無しで、このまま他の街に旅立ってもいいかな。そんな事すら思ってしまう。


「さて、褒賞金の事で領主家と話し合う前に、リディナさん達に確認したい事があります。宜しいでしょうか」


「何でしょうか」

 例によってリディナが対応してくれる。


「このパーティはあまり名前を公にしたくない、表に能力を出したくない。そう判断して宜しいでしょうか」


 おっと、思い切りズバリとそう言われてしまった。どうしようか。リディナと目があう。

 こういう場合はどうすればいいのか、私の経験ではわからない。だから私はリディナに頷く。リディナに全て任せる。


「その通りです。私達は有名になりたくはありません。ただひっそり、静かに生きてければそれで充分です」


 リディナは正直に言う事を選択した。さて、これでどうなるか。目を合わせられないまでもカレンさんの反応に全神経を集中する。


「確認です。それですと場合によっては褒賞金が減るなど、今回の発見に対する正当な対価が得られない可能性が高くなります。また冒険者ギルド全体からの評価もあまり上がりません。それでも宜しいでしょうか」


 やっぱりカレンさん、なかなか親切かつ正直だなと思う。確かにそういったデメリットはあるだろう。


 でもかまわない。有名になって忙しくこき使われたり、自分の意図しない仕事をしなければならなくなったりするより遥かにましだ。そんなに稼がなくとも十分生きてける。


 私が頷くのを確認してリディナが答える。


「ええ、かまいません。それでお願いします」


「わかりました。それではその方針で取り扱わせていただきます。


 なお念のために言っておきます。褒賞金はいらないと言って何も言わずこの街を去るのはやめてください。


 その場合は褒賞金未受領として冒険者ギルド手配をする事になってしまいます。手配にはどんな件で何を行ったか詳細に記載されます。という事も記載しなければなりません。


 ですので目立ちたくなければ、申し訳ありませんが1週間程お待ちください。1週間後にこのギルドの受付に顔を出していただければ全てが済むようにいたしますので。

 なおお待ちいただく1週間分の宿代は今回、褒賞金とは別にギルド依頼という形で出させていただきます。1人1泊小銀貨4枚計算で、6日分です」


 おっと、まるで私の思考を読まれたような注意をされてしまった。しかもあのトンネル、私達が掘った、もしくは関わった事まで気付かれている様子だ。


 ただその事についてはあまり心配しなくてもいいような気もする。その辺は勘だ。カレンさんの今までの言動からの。

 仕方ない。1週間待つとしよう。


「あの洞窟は調査の為明日以降は通れなくなると思います。ですのでローラッテへもし行くなら山越えという事になってしまうのでご了承下さい。

 それでは、魔石やインゴット運搬の褒賞金をとって参ります。しばらくお待ちください」


 うーん。つまりはアコチェーノに1週間滞在か。どうせここに戻ってくるなら他へ歩いていくのも面倒だな。

 そんな事を思いながら、カレンさんが戻ってくるのを待つ。

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