第53話 見積もりの金額
ゆっくり歩いていくと森林
例によってリディナ先頭で事務所の中へ入る。
「見積はできております。どうぞこちらへ」
先程のお姉さんに案内されカウンターへ。
見積書を広げて説明がはじまる。
「まず最初に。原案は板材と角材をメインに使用するように作られていました。ですがこちらでは間伐材の丸太をメインとして使用する方が安く頑丈に出来上がります。多少重くなりますが宜しいでしょうか。一応従来の設計と見積もりも作ってありますけれど」
なるほど。つまりは細身のログハウスという訳か。なかなかいいな。
「この程度なら重さは気にしない。頑丈で安い方がいい」
「わかりました。それではお勧めの方で、大きい方から説明いたします……」
お姉さんは説明を始めた。簡単な見積書と言っていたがかなり丁寧かつ詳細に出来ているな。そう思いながら私は説明を聞く。
大きい方の2階建てが窓、階段、扉、間仕切りありで
小さい方の2階建てが窓、階段、扉、間仕切りありで
小さい方の1階建ては窓なし扉あり、2段ベッド作り付けで
「実際に作る場合、代金は注文時に半額をいただき、引き渡し時に残り半額をいただく形になります。
現在は比較的こちらに余裕がありますので、大は3日、2階建ての小さい方は2日、小さいものは本日中に建築可能です」
おお、工期早い。
「そんなに早く出来るんですか」
リディナも同じことを思ったようだ。
受付のお姉さんは肩をすくめて苦笑する。
「今は人が余っていますので。実はちょっと内情が苦しいんですよ。ここは大消費地からそこそこ離れていますし、最近は安価な南部の材木が流通していますから。
南部の材木よりここの木の方が硬くて耐久性も耐水性もいいのですけれどね。紙を作るのには向かないですけれど。
でもまあそんな関係で最近仕事が少ないんです。まあここは物価が安いから生活は何とかなるんですけれどね。
せめて数多く出る間伐材がもう少し使えればいいのですけれどね。細いので材木用としては使いにくいんです。角材にはできますけれど板材にはなりません。炭にすれば質的にも最高なのですけれどこの時期は需要が少ないですし。
そんな訳で今なら仕事は早いですよ」
何かが頭の中に引っかかった。何だろう。わからない。
でも今考えるべきは家をどうするかだ。だからそれだけを考えよう。
「フミノ、どうする?」
リディナも聞いてくる。ちなみに今の所持金は正銀貨換算で
正しい方法はわかっている。最小サイズを購入だ。あとはローラッテとここの間を往復してお金を稼いでから。
しかしあの下るだけでも足の筋肉がおかしくなる坂をまた上る訳か。そんな事をやるならいっそ……
いや、今ここでは余分な事を考えず、正しさを優先させよう。
「1階建て小さいの、いい?」
「わかった」
リディナは頷き、お姉さんの方を見る。
「それでは一番小さいのをお願いします」
「わかりました。それでは前金で
私はアイテムボックスから
「承りました。領収書と注文書を作って参ります。また注文いただいたので見積もり代金もお返しいたします。少々お待ちください」
私は正しい選択をした筈だ。でも何かがひっかかったまま。今の私にはよくわからない何かが。
頭の中を整理しよう。私自身が何をどうしようと思っているのかを理解する為に。
引っかかる何かを感じたのはお姉さんが早く出来る理由を半ば愚痴まじりに説明した時。でもその台詞そのものに私がひっかかるような部分は無かったような気がする。
ふと思い出す。そう言えば冒険者ギルドで依頼を見た時、やはり何かを感じたんだ。あれはトンネルの依頼だったな。トンネル調査作業の依頼。
しかし調査なんて専門知識がない私には出来ない。そう、その後だ。リディナが私なら出来るかどうか聞いてきたんだ。
そうか、トンネルの事だと考えればしっくり行く。トンネルがあればきつい山を登らないで済む。しかも上り下りの傾斜の分だけ近くもなる。
私達が此処へ来るのに通ったルートに沿ってそのまま掘るのは私でも大変だ。トンネル部分が長すぎる。でもその辺は地図を見て適切な場所を探しておけばいい。
図書館に行けば詳しい地図くらいあるだろう。無ければ偵察魔法で確認するまでだ。
ただ実際にトンネルを掘ってしまうと今後の計画に支障が出るだろう。何往復もしてお金を稼ぐという事が出来なくなる。
無論トンネルの存在を秘密にして私達だけが利用すれば稼ぎ放題だ。しかし万が一見つかってしまったらと思うと面倒くさい。
何せトンネル調査なんて事をギルドで募集している位だ。そういった地属性魔法を使える人なら隠したトンネルくらい発見できる可能性が高い。
だからトンネルを掘ってしまった後こっそり使うのはせいぜい1往復まで。実際は片道通って確認した後、洞窟を発見したとでもギルドに報告しておいた方がいいだろう。
でもその結果お金を充分に稼げず、此処で大きい家を建てられなくなる訳だ。
無論トンネルのせいでこの街等にも影響は出るだろう。ただその辺は私の考察外だ。私は他人の事まで考える気はない。
ついでに言うと私自身も最悪どうにでもなるから特に考える必要は無い。考えるべきはリディナについてだけ。リディナが私から離れたら困るから。
よし、リディナに相談しよう。リディナに考えて貰おう。他の人がいない、できればおうちか何処かで。
「リディナ、夕食の時、相談したい」
「夕食の時でいいの?」
私は頷く。できればこの件についてもう少し時間をかけて整理したいから。実行可能か調査する必要もあるし。
◇◇◇
ひととおり買い物を終了。今回はローラッテでそこそこ買い出しをしたから買うべきものはそれほど多くない。
「ここもいい街だね。物価が安いし物もこの大きさにしては揃っているし、そのくせ何処かのんびりとしていて」
確かにリディナの言う事は私も感じる。そしてごく最近、同じ事を感じた街というか村もある。
「ローラッテと同じ」
「そうね。雰囲気が似ている。同じ領内だからかな」
「多分そう」
こういう場所なら住むのも悪くないのかな。私ですらそんな事をちらっと思ってしまう。
「図書館も行く?」
「勿論」
頷いて、そして慌てて付け足す。
「本はあまり買わない。見るだけ」
「家を買わなきゃならないものね」
うんうん、私は頷く。本当は買わないと断言したいところだ。でも出来ない。
どうしても欲しい本があるかもしれない。そうなったら私とリディナの事だ。きっと買ってしまう。だからあくまで『あまり買わない』だ。
それに地図を調べたい。この領内の図書館なら領内の詳しい地図くらいあるだろう。
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