クラスメイトと世界を変えようと思います

本咲

プロローグ

ある夏の陽が落ちる頃、山の頂きにある大きくも小さくもない道場ではいつもの様に木刀が重なり合い甲高い音が響いていた。

時には身体へ木刀を打ち込まれ、若い青年の悲鳴が響く。


「ほーら、どうした!腰周りがガラ空きじゃったぞ!?」


「くっそ!まだまだ……っく!?」


俺はまた立ち上がり目の前の爺さんに木刀を向けようとするが自分の手と足が木刀を持つ事と立つ事を拒否する。身体の限界ってやつが来たのだ。

外を見るともう太陽が紅くなっており、夕方くらいになっている事がわかる。朝から木刀を振り続けたら流石にもう動けないだろう。

その事に気づいた爺さんは呆れた顔で俺を見ながら


「もうバテちまったのか…まぁ仕方無い…また日を改めて挑んでくるんだな」


悔しくて何も言えない俺は俯きながら苛々を抑える。……体力馬鹿めっ……

爺さんは背を向けて楽しげに何かブツブツ言いながら(恐らく今日の夕飯の事)遠ざかっていく。

そして扉の前で一言。


「今日の飯は猪鍋じゃなっ!」


それを言い残して爺さんは道場を後にした。


…え?ちょっと、動けないんですけど…


*****************************


「くっそー!!もう少し…あともう少しだったのに…」


俺は目の前の鍋を貪りながら夕方の事を愚痴っていた。


「まぁ、この前よりは攻撃を防げたじゃろ?その成長は凄いもんじゃよ…ここに来てまだ半年も経ってないじゃろ?」


「まだっていうか…もうっていうか…」


俺が本気で悩んでいる事に気づいた爺さんはガハハと笑いながら俺を励ましてくれる。


「気にするこたぁない、ワシが見てきて1番成長が早いのはお前さんじゃ…なんならもうワシが稽古つけんでも1人でやってきけるわい」


そうじゃなぁ…と爺さんは続ける


「うむ…そこら辺の”中位魔族”なら1人で簡単に倒せるじゃろ…」


「…そんなもんか…」


「うむ…今教えている”死の線”とお前さんの風の魔力をマスターすれば怖いもの無しじゃ」


ここで言う”死の線”というのはこの爺さんが開発した技(?)である。

この”死の線”は周りの生物の殺気を感じ取ることや殺意を込めた攻撃を約1秒前に線となって可視化することができるのだ。

簡単に言うと約1秒後の攻撃が線となり分かるということである。

この”死の線”は熟練度が高ければ高いほど線がハッキリ、真っ直ぐに見えるらしい。


「まだ線はハッキリ見えないか…?」


爺さんは酒を一気に飲みながら聞いてくる。

ていうか、さっきから酒が臭い。どんな酒飲んでんの…


「うん。前よりは真っ直ぐ見えるようになったけど、やっぱりまだ見えにくいかな…もっと何かコツとかないの?」


爺さんはうーんと唸りながら答える


「コツとかは…特に意識したことはないのぉ」


センスってことか?…とにかく早くマスターしないと…

そう考えていると俺の焦りを感じ取ったのか、爺さんは俺に聞いてくる。


「行きたければもう行って良いぞ?もう教えることは教えたし…そのくらすって奴が気になってるんじゃろ?」


言葉の意味がわかっていない爺さんに笑いながら答える。


「奴って…クラスはなんて言うか団体の事だよ、俺の他に29人いる」


目が点になっている爺さんを見ながら俺は腹を抱えて笑う。


まぁ、言葉の意味が通じない時があるのは仕方がない…


…何故なら俺は…いや、俺たち3年1組のクラス全員は


――――異世界に飛ばされているのだから

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