魔法少女母
なんだ? どうしたんだ? ここは地獄かな?
「って……あら? 烈人じゃないの! なーんか家族の気配がすると思ってはいたんだけど、あんただったのね」
「僕……余は、ひひひ瞳の魔王であるぞ。貴様のような年甲斐もなく破廉恥な恰好をするアラフォーを親に持った覚えなど――」
「なーに言ってんの、高二のくせに中二病こじらせたの? 自分のお腹掻っ捌いて産んだ子を、そう簡単に間違えるわけないでしょうが。ほら、これが帝王切開の痕よ」
「ええい! や、やめろ! そんなものを見せるな!」
ヒヨリに助けを求めようとしたけど、母さんを見た衝撃で口を開けたまま硬直している。
このまま魔王を演じても無駄なようだったので、僕はあきらめて普通に接することにした。
「ってか、なんで母さんまでこの世界にいるのさ……」
「こっちが聞きたいわよ。中野から総武線に乗ってうたた寝してて、起きたらミナギスだったんだもの。こんな尻尾まで生えてるし。もう、やんなっちゃうわ」
「やめろ、スカートをめくるな」
やんなっちゃうといいつつも母はどこか嬉しそうである。
息子からすれば母さんが目を覆いたくなるような服装をしているのは間違いないのだが、こう見えて元アイドルである。今はアイドル時代に培ったダンススキルを生かして、週に何度かダンススタジオでクラスを受け持っている。
常に背筋が伸びていて首が長く見えるし、かつては人前でこういった服装を着慣れているせいか(ここまで酷くはなかっただろうが)、全く違和感がない。
ちなみに「魔法少女じゅりりん」はアイドル時代に「そういう設定」で出した曲名だと(無理やり)聞かされたことがある。
『女の子はいつだって少女に戻れるの』的な歌詞だった気がするが、今の母が少女に戻れているのは精神年齢だけのようだ。
けれど実年齢よりはずっと若く見えるし、見た目だけならそこそこ綺麗な自慢の母だったりするのだが。
「なに……その尻尾。本当に生えてんの?」
「そうなのよ。ネコ耳も本物よ。キャラ付けが大変だわ……じゃなくて、大変だにゃん」
「やめろ! 色々とやめ――だからスカートをめくるな! で、何で魔王を倒しに来たんだよ」
「だって異世界に飛ばされて、自分が特別な力を手にして、同じ世界に魔王がいるっていうなら、倒さないわけにいかないでしょう? 他にやることもないし」
主人公適正が高すぎる。
「もしかして母さん……本当に魔法使えんの?」
「当たり前じゃない。魔法美少女フレキシブルじゅりりん! 加齢に登場!」
想像してごらん。
自分の母親が呪われた招き猫みたいなポーズをして、地滑りのようなウインクをキメる姿を。
新手の拷問だよ?
「やめろ! そんなものを何度も見せるな!」
「加齢ってのは華麗とかけてあるの。おもしろいでしょ?」
「いちいち説明せんでいい! ドヤ顔やめろ!」
「そういえば烈人……まさかあんた、本当に魔王なの?」
事情を説明しようか迷ったが、ちらりとヒヨリを見やるとまだ困惑気味だったので、僕は魔王を続けることにした。
「まあ……一応そういうことになってるけど……」
「なんてこと! どこで育て方を間違えたのかしら!」
「母親がそんなんだったら、息子も大魔王になるわ!」
「これは……躾が必要ね……」
母さんは両脚を広げ、杖らしき物をこちらに向けて構えた。
やはり歳をとっても元アイドル。一つ一つの所作が様になっている。
杖の先端にハートがついている……かと思ったが、ただの布団叩きだった。
「いくわよ……
聞いている分にはそれっぽい言葉のようだけど、魔法少女とは程遠い内容なのはなんとなくわかった。
けど内容はさておき、母さんが杖をかざすのと同時に火球が出現し、こちらに向かって飛んでくる。
「マジで魔法使ってきたああ!?」
「はっ!? 烈人っ!」
僕が情けなくも反射的に腕で顔をかばってしまったが、火球に焼かれることはなかった。
直前でヒヨリがメガネをきらめかせ、瞳力でシールドを展開してくれたようだった。
火球は僕に届くことなく、爆散して消えた。
「す、すごい……ビーム出すだけじゃないんだ……」
「収束とは逆、瞳力を拡散、保持することで盾にもなります」
そう説明してくれたヒヨリは、額に汗を浮かべていた。
「ね、ねえ……今の攻撃って、そんなに強力だったの?」
「はい。勇者オズリクと同等かそれ以上。ここまでの強者が神殿に侵入してくるのは初めてです」
「ちょっと烈人、なによその子。彼女なの? ちゃんと避妊するのよ?」
「ち、違う! その……魔王の手下……的な?」
「へえ……そうなの。彼女じゃないし、手下ってことなら先にこっちを倒さないといけないわね!
母さんが杖を薙ぎ払うと、今度は炎の矢が無数に出現し、こちらに向かって飛んでくる。
「はあっ!」
ヒヨリも負けじと拡散ビームを炎の矢にぶつけて相殺させる。
「へえ……魔王の手下のわりにはやるじゃない!」
「あなたも……ただものではありませんね!」
迎撃の間を縦横無尽に跳ねまわり、ヒヨリと母さんがバトルを展開する。
「こ、これは……」
バトル漫画でよくある、「強者同士の戦いが、弱者には見えない」というやつだ。
二人の動きを目で追うのがやっとなんだけど、それに夢中になっているとビームやら炎の矢を直撃を受けてしまう。
僕はとりあえず玉座の裏に隠れて戦況を窺うことにした。
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