鳴けない蛍

ねむみ

鳴けない蛍 前編



 夜更けに駅まで友人を迎えに行ったら、その友人がOL風の女の人から怒られているところに遭遇した。道路工事の赤いライトが、地下鉄の入り口を目に悪い感じで照らしているのが印象的だった。

 友人は歩道の脇にある花壇のブロックに腰かけて項垂れていた。片手に持った水は酔っ払いの証明で、その目の前で仁王立ちしながら女の人がなにか小言を言っている。声の感じから察するに、本気で怒っているわけじゃないだろう。どちらかというと、険悪さより距離の近さを感じさせる行為だった。

 その光景を目にして立ち尽くしていると、女の人が不意にこちらに視線を投げた。白い息を吐き出し、目を大きく見開く。少し乱れたショートカットがそれまでの手間を物語っていた。

「ちひろさん?」

 彼女が助けを乞うように僕の名前を呼んだ。それが僕と彼女の出会いだった。いきなり下の名前で呼んできたのは、友人が「千尋を呼んで」と言っていたからだそうだ。


 金曜の夜十時過ぎに送られてきたショートメッセージには『ごめんなさい。駅まで迎えに来てくれませんか』とあった。村瀬にしてはやけに殊勝な文面だ。さすがに寒い中呼び出すのは申し訳なくなったのかと思ったが、まさか別の人間が打ったものだとは予期していなかった。

「仕事帰りの電車の中で、たまたま村瀬さんが潰れているのを見かけたんです。それで、とりあえず村瀬さんの最寄りで降ろしたら、ちひろさんを呼んでって――それ以降完全にだめになっちゃったんですけど。親指を拝借してスマホを開いて、連絡先の中からちひろさんを見つけました」

「すごいがんばったんですね……」

「急に呼んでごめんなさい」

「謝ることないですよ。他の人に呼ばれたのは初めてだけど、こいつを駅まで迎えに来るのはよくあることですから」

 女の人は自分と村瀬の鞄を抱えながら、ぱっと顔を輝かせた。

「じゃあ、学生時代に村瀬さんが酔ってだめになった日も迎えに来てたりしたんですか?」

「ええ、まあ」

「そうだったんですね。ゼミの飲み会の後とかちゃんと帰れたのかなって心配してたんですけど、ちひろさんがいたから大丈夫だったんですね」

「さすがに電車乗り過ごしたときの面倒は見られないけど」

 僕の肩に右腕を回しながら、村瀬はふらふらと歩く。背は高いが痩せ型なのでそんなに重くはない。しかし酩酊した成人男性を連れて歩くのはそれなりに骨が折れる仕事で、気を抜くとバランスを崩しそうになる。今日は荷物を持って横を歩いてくれる存在がいてくれて助かった。村瀬の頭越しに声をかける。

「村瀬の大学の人ですか?」

「後輩です。法学ゼミの。去年卒業しました」

 後輩。なにやら説教らしいことをしていたから同期かと思った。その旨を伝えると、彼女はうつむいて歯切れ悪そうに弁解した。

「だって村瀬さんが頭ぐしゃぐしゃになるまで撫でくり回すから……」

「あはは、最悪」

「ですよね。頭がぼさぼさなんですけど――っていうか彼女さんがいるのにそういうことしないでください!」

 拳骨を握り、眉間にしわを寄せて村瀬を見上げる。頭を撫でられたことそのものより、髪が乱れたことと、彼女がいるのに「そういうこと」をしたという点で怒っているらしい。友人としてはどうかセクハラ案件に持ち込まないでほしいところだが、この様子なら大丈夫らしい。訴えられたらそのときだ。当の本人は目が回っていて無反応だった。今度こっそり美沙都に言いつけてやろう。気の強い同級生がじとりと村瀬を睨む姿が簡単に思い起こされた。

「大学でも村瀬と仲良かったんですか?」

 交差点の前で立ち止まり、再び質問する。ここを越えたら村瀬の家はすぐそこだ。自分の家も程近いが、その前にこの子を駅まで送っていかないといけないだろう。

「電車で潰れてたら最寄りで降ろしてあげる程度には」

 鞄を持ち直しながら彼女が答える。

「たまにラーメンとか奢ってもらいましたね」

「かわいがられてたんだ」

「多分」

 村瀬越しに見ると、彼女は口を引き結んで嬉しそうに前を見つめていた。ワンちゃんだなぁという感想が浮かぶ。扱いやすい後輩。あるいは、そういう後輩であろうと努めているタイプ。

「こんな感じになっちゃいましたけど、久々に村瀬さんと会えて嬉しかったです。卒業しちゃうと、特に理由がなければ会ったりしませんから」

 信号が青に変わり、黒と白のアスファルトの上に歩を進める。左折しようとしていた車がせっかちそうにこちらを向き、彼女の化粧っけのない顔が光の下にさらされた。きっと大学時代からこんな感じだったのだろう。明るいところでみると、幼さがより際立つようだった。

 まっすぐな視線が村瀬を経由して、僕に向く。にこりと微笑まれる。曖昧に微笑み返したところで交差点を渡り終え、村瀬の家に到着した。


「村瀬とは幼なじみで」

 村瀬ん家のお母さんに村瀬を任せてから(玄関を閉じた瞬間からめちゃくちゃ怒られているのが聞こえてきた)彼女を駅まで送っていく道すがら、特に話すこともなかったのでそう切り出した。共通の話題と言えば村瀬のことしかないので、当然の選択だ。十時半過ぎの都会はまだまだ明るく、三年前に村瀬と歩いた午前四時の新宿の方がよほど暗かったことを思い出した。

「家が近いからよくお互いの家でゲームしたりしてたんですよ」

「小学校も中学校も同じだったんですか?」

「高校からは別だったけど……村瀬の彼女は中学の同級生だから、僕も知ってますよ」

「すごくかわいいって他の先輩に聞いたんですけど」

「贔屓目抜きでもね」

「ゼミの同期のあいだでも噂になってました。何人か本気で残念がってましたよ。村瀬さん、もてるから」

 思い出したように彼女がそう言った。なんとなくその場面が想像できるような気がする。村瀬は誰にでも優しいし、顔も悪くない。すごくフレンドリーな性格だし、友達も多い。

「村瀬のこと、好きでした?」

 今日会ったばかりの女の子に訊くことではなかったかもしれないが、なんとなくそんな質問が口からこぼれ出た。若干の「しまったなぁ」感。こういう距離感でこういう質問をされるのは、僕自身そんなに得意ではないはずなのに。後悔し始める僕とは裏腹に、彼女は苦笑しながら軽やかに言ってみせた。

「彼女がいる人ですよ」

「そっか」

 交差点に差し掛かる。右折しようとした車が一瞬だけ照らした彼女の横顔は、先ほどとは違ってやけに大人びて見えた。とっさに「すみません」という言葉が口をつきそうになって、唇の裏側を噛む。なんで今、謝ろうとしたんだろう。

 信号が変わり、無言で歩き出す。村瀬を運んでいるときは遠く感じた道のりも、手ぶらで歩けばあっという間に過ぎる。

「夜遅くにありがとうございました」

「こちらこそ」

 地下鉄の入り口で振り返る彼女にそう返すと、彼女は口の前で人差し指を立てた。

「今日のこと、村瀬さんが覚えていなかったらそっとしておいてあげてください」

「どうして?」

「だって、変に申し訳なく思っちゃうかもしれないから」

「君がそんな気を遣うことはないと思うけど――」

 そして村瀬ならば、そう簡単に記憶をなくすことはないと思うけど。彼女は「お願いしますね、ちひろさん」と言い残すと、何度か振り返って会釈をしながら、地下鉄への階段を駆け下りていった。

 見送ってから気がつく。

 僕は彼女の名前すら聞いていなかった。




「あの子はね、灰谷」

「はいたにさん」

 翌朝八時に掛かってきた電話で、二日酔いの村瀬がため息交じりにそう言った。いつもどおり僕に詫びたあと「夢であってほしいんだけど、誰か女の子が一緒にいなかった?」と恐る恐る尋ねてきた。よかった。どうにか彼女との約束を破らずに、彼女の存在について言及することができる。村瀬は酒に強いわけではないが、酔っているあいだに起こったことを忘れるタイプではない。

「お前の大学の後輩だっていう女の子がいた」

「やっぱり……あの子はね、灰谷」

「はいたにさん」

 割とめずらしい苗字だが、頭の中ですぐに漢字変換できた。灰色の谷。灰谷さん。

「電車から降りながら怒られた記憶あるわ。ばっちり覚えてるよ、しっかり歩いて! って言われてたの」

「僕が着いたときにも怒られてたよ、お前が頭を撫でくり回したからって」

「セクハラで訴えられなきゃいいんだけどな」

 見たところそんな感じはしなかったが、なんとなく口には出さずにおいた。代わりに、

「とりあえず謝っておいたら? 連絡先知ってるんでしょ」

と言ってやると、「そうする」と言って村瀬の声が遠くなった。電話しながらメッセージを打ち込んでいるのだろう。なるべく邪魔しないように黙っていると、ふと村瀬から、

「灰谷となにか話した?」

となにげなく問われた。話しながらメッセージを打つとは器用な男だ。「別に大したことは」と返し、再びの沈黙を守る。

「まあいいや、今度なにかお礼させてよ」

 特段興味もなかったのか、村瀬はそう言って電話を切った。灰谷さんが村瀬からのメッセージになんて返すのかは気になったが、僕がそれを知ることはない。


 と思っていたのが四日前のことなのだが、会社の帰りに近所のラーメン屋にふらっと立ち寄ったらふたりに遭遇した。びっくりした。人違いかと思ってまじまじと見つめていたら、村瀬のほうが気付いて先に声をかけてきた。

「千尋」

「ちひろさん?」 

 村瀬の声に反応した灰谷さんがぱっと顔を上げた。

「こんにちは!」

「こ、こんにちは……」

 思いの外はきはきした声で挨拶されて戸惑っていると、村瀬が財布片手に立ち上がって食券機の前に来た。ふたりのラーメンはまだ来ていないようだった。

「ちょうどこないだのお礼してたところなんだ。お前の分も払わせてよ」

「そういうことだったの……」

 村瀬が千円札を挿入すると、機械のボタンが赤く光って僕の選択を促した。とりあえず一番左上にあるボタンを押し、ついでに人の奢りだからと大盛りのボタンも押しておく。

発券された小さな紙きれを店主に渡し、席に着くためにきょろきょろと辺りを見渡す。なんとなくふたりから離れたほうがいいのかと思っていたが、意外にも灰谷さんが「あの」と声をかけてきた。

「よかったらお隣、いかがですか」

 彼女はそう言って自分の席の隣をぱしぱしと叩いた。村瀬の反対側は別の客で埋まっている。僕はお言葉に甘えて、灰谷さんの隣の席に腰かけた。

「まさかまた会えるとは思いませんでした」

 席に着くと、灰谷さんが僕の顔を覗き込んできた。この前会ったときよりもきちんと化粧している。それでも仕草のせいか、あまり大人びた印象は受けなかった。復路の交差点で一瞬だけ見えた横顔のほうが、よほど僕には冴え冴えとして映った。

「灰谷ほたるといいます。灰色の谷にひらがなでほたる。この前は名乗りもせずにごめんなさい」

「あ、永井千尋です。永遠の井戸、千回尋ねる。村瀬からお名前伺ってます」

 名字だけ。向こうも僕の下の名前だけは知っていたから、ようやく足りなかったパーツを交換できた感じだった。

灰谷ほたる。印象的な名前だと思う。そして彼女にとても似合っていた。

「ふたりとも、こないだは迷惑かけて悪かったよ。これで許してくれると嬉しいな。……千尋には多分また世話になるけど」

「いやふざけんな」

 わざと大真面目な顔で言う村瀬に突っ込むと、あいだの灰谷さんが声を上げて笑った。目が三日月形に細められ、口元から特徴的な八重歯が覗く。

 ちょうどそこへ村瀬と灰谷さんの分のラーメンがカウンターの奥から出てきた。ふたりは待ってましたとばかりに割りばしを取ると、黙って麺を啜り始めた。いつもは躊躇なくにんにくを入れる村瀬が、今日は入れていない。女子と食べるときは一応気を遣うらしい。村瀬っぽいなと思う。

「おいしいですね」

 れんげから口を離しながら、灰谷さんが嬉しそうに言う。

「ここらでは少し名の知れたラーメン屋で、僕と村瀬も中学時代から通っているんですよ」

 チャーシューを咀嚼していた村瀬の代わりに答えると、灰谷さんは口元をカウンターのナプキンで拭ってこちらを向いた。ピンクオレンジっぽい口紅が根こそぎ取れているのが見える。

「村瀬さんの中学時代ってどんな感じだったんですか?」

「やめて」

 向こうから村瀬の苦々しい声が飛んできたが、ふたりして聞こえないふりを決め込む。

「昔からこんな感じですよ。調子がよくっていい加減で。こんなでも生徒会に入ってたから、朝礼で生徒会長の代わりにみんなの前で喋ったりとかしてたかな」

「それ生徒会長が風邪で休んだ一回だけだろ」

「なんでもない風を装ってたけどやっぱり若干緊張しててね、それを感じ取った僕たちのクラスだけ大爆笑みたいな」

「ねえぇぇ」

 いろんなことを思い出してきたのか、箸を置いて顔を覆う村瀬。灰谷さんも村瀬のほうを見てにやにやしている。

「もっとほかに話すことあるだろうが。あ、やめて、やっぱ話さないで」

「えーなんでですか」

 灰谷さんが残念そうにぶうたれながら、僕のほうを振り返った。期待に満ちた目で見つめられると、記憶を探って笑いを提供してあげたいような気もしてくる。しかし向こうで村瀬がゆっくりと首を横に振っているので、曖昧に微笑むにとどめる。

 程なくして僕のラーメンも目の前に置かれたので、手を合わせて食べ始める。すると、すでにほとんど食べ終えていた村瀬のスマホが通知を告げて震えた。まだ食べ続けている灰谷さんの向こうで村瀬がさりげなく開いたのは恐らくショートメッセージアプリで、相手が誰かは村瀬のゆるんだ口元を見ていれば大体わかった。灰谷さんは気付いているのかいないのか、黙々と麺を片付けている。

村瀬がスマホを閉じ、腕時計に目を落とす。どことなく落ち着かない様子が見受けられるのは気のせいじゃないだろう。ずうずうしく大盛りを頼んでしまったこともあり、僕が食べ終えるまでまだ時間がかかりそうだった。

「急ぎ?」

 スープをひとくち飲み込み、村瀬に声をかける。灰谷さんも無言で村瀬に視線を送った。

「いや」

「行ってきなよ。灰谷さんは僕が送っていくから」

「それは……」

 村瀬はバツが悪そうに灰谷さんを見やった。灰谷さんはそんな村瀬と目が合うと、食べ物を口に含んだままにこっと愛想よく笑って、是を示した。できた後輩だと思う。村瀬に見習わせてやりたい。

「じゃあその……悪いね」

 村瀬はいそいそと荷物をまとめてコートを着込むと、小さく片手を上げてはにかんだ。

「よろしく頼んだぞ、千尋」

「二回目も立派に遂行してみせるよ」

「だから悪かったって」

 最後まで軽口を叩き合いながら見送ると、ちょうど灰谷さんの器が空いた。僕も早く食べよう。大きなひとくちを口に含む。

「彼女さんですかね」

 麺を啜り上げる。咀嚼。飲み込む。わずかな間が空いたが、何事もなかったかのように答えた。

「彼女さんですね」

「へー……」

 灰谷さんは今しがた村瀬が消えていった入り口を見つめると、興味深げにそう呟いた。

「あれが……」

 別に「あれ」が彼女さんなわけではないが。「あれ」がなんなのだろう。彼女のところにいそいそと向かう二十四男ではある。

「いいですねぇ、愛されてるって」

「まぁ、確かに」

 無難に返しながら、彼女の恋人の有無を察する。あるいはそんなことを嘯きつつも実は大事なステディがいる、なんていうトリッキーな性格なのかもしれないが。どんぶりの端に寄っていためんまをポリポリやりつつそんなことを考えた。

「村瀬からは、なんて連絡が来たんですか?」

「ゆうべはごめん……って朝早くに来てました。覚えてたみたいですね」

「完璧にってわけじゃないけど、灰谷さんがそばにいたことはちゃんと記憶していたみたいですよ。僕が補足説明して確信を得た感じ」

「なんか一丁前に後悔しててウケました」

「わかるなぁ」

 ふたりしてくすくすと笑うと、またしても彼女の八重歯が覗いた。

「それで、わたしが『今度またラーメンでも奢ってくださいね!』って言ったら、ここのをごちそうしてくれたんです。まさか千尋さんが来るとは思ってなかったですけど」

「僕もふたりがいるとは思いませんでしたよ」

「でも、千尋さんが来てくれたよかったです。きっとわたしとふたりで食べるより、村瀬さんは楽しかったと思うので」

 最初に席に着いたときみたいに、灰谷さんが僕の顔を覗き込んでくる。ふたりの関係性がどういったものなのか詳しくわからないが、彼女にとってはそういうものに感じられるらしい。それってなんだか寂しいような気がするが、どうなんだろう。

「村瀬は誰とでも楽しく過ごせる奴ですよ」

 慰めのつもりではなかったが、そんな言葉が口をつく。店主が灰谷さんのどんぶりを下げていった。彼女は一瞬店主の方を見て軽く会釈すると、屈託なく笑ってみせた。

「プラスアルファでって意味です。そんなに自己肯定感低くないですよ」

「そっか」

 ならよかった、と続けようとした僕に、彼女が「でも」と食い気味に被せる。

「村瀬さんは女子とふたりになると無意識に防壁を張っているような感じがするので、緊張緩和のためにも千尋さんの存在は有難かったかなと思います」

「……そっか」

 村瀬とふたりきりになった女子の話なんて聞いたことがないので、それは新たな知見だった。村瀬は人からの好意に敏感だ。もてる自覚も多分ある。その分、線引きはきっちりしようと戒めているのかもしれない。この前酔って世話をかけたことは別として。

 灰谷さんがカウンターに肘をつき、ほうと息を吐き出す。僕はなんと声をかけるべきか少し迷って、結局なにも言わずに麺を口に運んだ。


「ここまでで大丈夫です」

 帰りに駅まで送っていく途中、例の交差点に差し掛かったあたりで灰谷さんが振り返った。

「ここから先はもうわかるので」

「そっか」

 ちょうど赤信号に変わったところだったので、進み出せるまで少し時間が空くことになった。自分が話せるようなことは話し尽くしてしまったし、どことなく居心地が悪いような沈黙に包まれる。時刻は午後七時前で、向かいの歩道には駅から歩いて来た帰宅途中の人々がずらりと並んでおり、こちらの歩道には駅に向かう人々が数人ほど並んでいた。

「あんまり、わたしたちの話はしませんでしたね」

 不意に灰谷さんがそう呟いたので、一瞬考えた後に「そうですね」と同調する。

「僕たちのあいだには村瀬しかいませんからね」

「確かに」

 なにかがおかしかったのか、灰谷さんはふふっと笑って信号を見上げた。車が走り去る風圧でさらさらとショートカットが揺れた。きっともうすぐ信号が変わって、彼女は行ってしまうだろう。特に理由がなければもうこの街にも来ないだろうし、村瀬にも僕にも会ったりはしない。ふとその横顔を盗み見てみるとやっぱり妙に大人びていて、よくわからない表情の作り方をする子だなと不思議に思った。どっちが本当なのだろう。

「じゃあ、今度はお互いの話でもしますか?」

 意を決するのが遅すぎて、その言葉が出たのは信号が青に変わってからだった。人々が交差点に流れ込み、某体育大学の集団行動のような器用さですれ違っていく。きれいだな、と感心していたら、隣から小さな呟きが聞こえた。

「集団行動みたい」

 意外にも、灰谷さんは一歩も歩き出していなかった。驚いて彼女を見下ろす。彼女も交差点に流れ込む人々を見つめていたが、やがて僕の視線に気がつくと、おもむろに顔を上げて目を合わせた。

「灰谷さん」

「はい」

「今」

「いま?」

「まったく同じこと考えてた」

 恐る恐る発した声は、通り過ぎていく車にかき消されてしまいそうだった。横断歩道を渡り終えた人たちが素知らぬ顔で僕たちの横を通り過ぎていく。灰谷さんがぽかんとした顔で僕を見上げる。ぱちりとした瞳が僕をしっかりと捉えた。こう言えばロマンチックに映るが、離してもらえないあいだの僕はまるで判決を待つ被告人だった。

 そのまま八秒ほど経過した頃、くふりという笑い声が灰谷さんの唇から漏れて、彼女の目が三日月形に細められた。そのままにぃっと口角が上がり、八重歯が口元で光る。

「証拠は?」

「えっ」

 予想外の返しにわかりやすく戸惑うと、今度こそ灰谷さんは声を上げて笑った。

「冗談です」

「あ、そう……」

 よほど間抜けな顔をしていたのだろう。彼女は僕の顔を見上げて、さもおかしそうな笑い声を上げた。僕は情けないような恥ずかしいような気持ちになって次の言葉が出てこない。

 ようやく彼女の笑いが落ち着いたとき、青信号はすでに点滅して歩行者を急かしていた。灰谷さんはそんな信号機を気にも留めず、鞄の中に手を突っ込んでなにかを探していた。

「灰谷さん?」

「今度はもっと千尋さんのこと教えてくださいね」

 そう言って取り出したのはオレンジ色のケースに収まったスマホだった。

「連絡先、教えてください。わたしたちきっと仲良くなれます」

 信号が切り替わり、僕たちの目の前をたくさんの車が横切っていく。いたずらっぽく微笑む灰谷さんに促されてあたふたとスマホを取り出しながら、僕は週末の予定がどうだったか思い出そうとしていた。




『迎えに来てぇ』というメッセージが来たのは、それから一か月半ほど経った三月上旬のことだった。当然村瀬からである。酔っていることは確実だが、きちんと漢字変換しているし、わざわざ小さい「ぇ」を打って酔っ払いの自分を演出できるということは、その程度の理性はあるということだ。

「あー、最近彼女ができた千尋ちゃんだ」

 案の定、駅まで迎えに行ったら恐ろしく面倒くさいテンションの村瀬が待ち受けていた。とはいえ、こうでもしないとお互いに忙しくてなかなか話す機会がないので、本気で嫌というわけではなかった。

「会社の飲み会?」

「そう」

 間延びした声で答えながらゆっくりと歩き出す。いつもこのくらいの血中アルコール濃度なら、こちらとしても楽なのだが。

「今日あたたかいなー」

やけに大きな声でそう言いながら、村瀬は羽織っていたコートを脱いで片腕に引っかけた。確かに風は強かったが、気温は昨日と比べてかなり高かった。本格的な春の気配を感じずにはいられない。

「もうすぐ歓送迎会シーズンだし、そのときにも多分迎え頼むわ」

「お前が歓送迎会シーズンなら僕も歓送迎会シーズンなんだけど」

「そうなのかー」

「そうなんだよ」

 実際にその季節が来たら、迎えに来るというより一緒に帰るということが増えそうだ。自然とそういう考えに至ってしまう自分が怖い。少し前、美沙都に「え、あんたたちそういう関係なの」と素で訊かれたことを思い出してげんなりする。君が疑ってはいけないと思うんだ、僕は。

「でも灰谷がいるし、そんなに俺に構ってる暇もなくなるかなー」

「それはそうかも」

 わざと抑揚のないように返すと、村瀬はいかにもつまんないですと言いたげな顔で僕の横顔を軽く睨んだ。勘弁してほしい。二十四の男がそんなに浮かれているのも考えものだろうと、なるべくそちらの方向を見ないようにしながら苦笑いする。生ぬるい風が後ろからびゅんと吹き抜けていった。つられるように顔を上げると、歩道に等間隔に植えられた桜の木々と目が合った。冬のあいだに肥え太ったつぼみが開くまであと半月ほどある。今年も例年どおり村瀬や美沙都と花見をして――あと、ほたるさんとも見に行けるだろう。見たこともないのに、彼女と桜は相性がいいということが容易に想像できた。

「学生の頃、僕にあの子の話をしたことある?」

「あったような気がする」

 んー、と頭を掻きながら村瀬はなにかを思い出そうとしていた。

「あれだ、四年生の頃のゼミ合宿でハイキングしてて、ひとり迷子になった後輩を俺が迎えに行った話はしただろ。あれが灰谷」

「そっか」

「大変だったんだよ、あのとき。ようやく灰谷を見つけて一緒に道を下ってるとき、歩くのが妙に遅いなと思ったら足くじいてて、そんでそれを言わないの、俺が気を遣うと思って。結局俺が荷物持ってあげて、手貸しながら帰ったんだけど」

 へー、といつもどおり相槌を打とうとして、思うように声が出なかったことに驚いた。想像していたより濃いエピソードだったからか、その場面を想像して少し戸惑ってしまったらしい。いつも元気がいいあの子が申し訳なさそうにうつむいて村瀬の少し後ろを歩いていく様が思い浮かんだ。

「千尋?」

 急に反応が悪くなった僕を心配して、村瀬が歩きながら顔を覗き込んできた。再び抑揚のないように「なに」と返したら、今度は立ち止まってバツが悪そうな顔をされてしまった。一拍遅れで僕も立ち止まり、振り返る。追い風が向かい風に変わり思わず目を細めると、それによくない感情の片鱗を感じ取ったのか、村瀬は一瞬だけ不安定に視線を漂わせた。しかしそれは極めて刹那の事象で、一度だけ瞬きすると、今度はまっすぐ僕の姿を捉えて言った。

「ごめん、誤解を与えたなら訂正したいんだけど、そのあと俺と灰谷のあいだでなにかあったとか、そういうことはないから」

 恐らくこれが彼の一番の長所なのだと思う。おちゃらけた話し方を得意としながらも、真面目に話そうと思えばいくらでも真剣に言葉を紡ぐことができる。そこに変な意地や照れが入る隙はなく、逆に調子を狂わされることも多い。

「いや、そんなことは心配してないよ」

 僕は笑って否定した。本当に心配してないのかと訊かれたら、本当だと答えられる。村瀬は美沙都が大事なはずだし、そういうことはしない男だ。ただ、そんな村瀬に好意を持つことは、決して難しいことではないとだけ思った。

「本当か?」

「本当だよ」

「――なら、よかった」

 村瀬はいつもの気の抜けた顔に戻ると、打って変わって機嫌よさそうに笑った。別のことを考えて勝手に不安がっていることなど当然わかっているだろうが、村瀬も僕もなにも言わない。付き合いが長いと、口に出している言葉とは別に、言外のコミュニケーションがときどき副音声で流れてくるような気がする。有難いことも煩わしいこともある。今のがどちらだったのかはいまいち判別がつかなかった。




僕が彼女のことをほたるさんと呼ぶようになったのは、彼女がそう呼ぶように頼んだからだった。

「父からそう呼ばれているので、できたらそう呼んでください」

 変わった父親だなと思ったが、どう呼べばよいものか迷っていた時期だったし、呼び捨てにするのにも気が引けていたところだったので、その呼び方はしっくりと口に馴染んだ。

「うちは父が教師なので、結構厳しく育てられたんですよ」

 四月の終わり頃、映画を観たあとに喫茶店へ寄ったとき、ほたるさんはアイスコーヒーの氷をストローでつつきながらそう言った。溶けかかった氷はグラスの中でくるりと回って涼やかな音を立てた。

「おとなには敬語を使いなさい、漫画よりも小説を読みなさい、嘘をつかないようにしなさい、常に正しくありなさいって」

 不満げな顔で指折り言いつけを数える彼女だが、きっとひとつひとつ守ってきたのだろう。彼女の育ちがいいことはこの三か月でよくわかった。食事の際に肘をつかないところや、コンビニの店員にも視線を合わせてお礼を言うところ、映画のエンドロールの途中で立ち上がらないところ、親しみやすい口調にいつまでも敬語が付随しているところ。

まだ小さいほたるさんが初対面のおとなに大きな声で挨拶させられている場面が思い浮かんだ。完全に想像でしかないが、そんな場面があっても不思議ではない。口元をゆるませると、真向かいに座る彼女が不思議そうに首を横に傾けた。

「君は昔からそんな感じだったんだろうね」

「褒めてます?」

「もちろん。そしてそれはとても稀有なことだと思う」

 コーヒーカップを持ち上げながらそう言うと、ほたるさんはわかりやすく照れ笑いして上体を左右に揺らしてみせた。口元の八重歯が恥ずかしそうに覗いていた。

 笑ったときにだけ見える八重歯。ほたるさん自身は、少し前までそんなに好きではなかったそうだ。中学生になる手前で父親に言われて矯正治療を試みてみたものの、痛みに我慢できず一か月で泣きながらギブアップし、うまく引っ込めることができなかったらしい。

「父がそれに少しがっかりして」

 以前、どことなく悲しそうな目をしながらそう教えてくれた。

「でも、最近になってようやく割り切ることができたんです。これもわたしのチャームポイントだって」

 そう言ってほたるさんはにぃっと口角を上げて、僕にその八重歯を見せつけるように笑った。

もしかしたら前までこんなふうに笑うのも気が引けていたのかもしれない。僕は意識を現在に戻すと、コーヒーカップをソーサーに戻し、そっと手を伸ばしてほたるさんの唇に指を触れてみた。

「千尋さん?」

 ほたるさんは怪訝な声を出したが、一ミリたりとも後ろに引いたりはせず、むしろ僕が触れやすいように少しだけ顔を上向けた。

「ちょっと見せて」

親指で上唇に触れてみせると、すぐに八重歯の話をしているとわかったらしい。ほたるさんは口元だけでにっと笑うと、例の特徴的な八重歯を覗かせた。白く濡れた歯はなんだか妙に甘そうで正直なところ食べてしまいたかったが、僕はひとつだけ小さく息を吐き出すと、ぱっとその手を離した。

「やっぱり、映画館のポップコーンが挟まってたよ」

「えっ」

 ほたるさんは慌てて鞄の中から手鏡を取り出すと、自分の顔を映してわざわざ「いー」と声に出しながら一生懸命ポップコーンのかけらを探し出そうとしていた。嘘だよ、わざわざそんなことを指摘するためだけに口元に触れるわけないだろ、と言ってあげたい気持ちもあったが、あたふたしている彼女をもう少し見ていたいので黙っていることにした。


 その晩、僕はほたるさんの夢を見た。正確にはほたるさんの人生を辿っていく夢だった。どうしてそんな夢を見たのかはわからない。彼女のルーツとなるような話を少しばかり聞いたからかもしれない。

 夢には当然、ほたるさんの父親が序盤に出てきた。教師と聞いたからかとても厳しそうな男性で、縁の細い眼鏡を掛けていた。昼間に想像したとおり、父親に促されて自分の倍ぐらい身長がありそうなおとなに大きな声で挨拶するほたるさんがそこにいた。次の瞬間には場面は切り替わり、今度は矯正歯科のユニットに座って大口を開けていた。が、痛くなる前に歯科を脱出し、走り続けていつの間にか僕の通っていた大学に到着していた(本当はほたるさんや村瀬の大学であるべきだが、僕は僕の大学しかよく知らない)。小教室でゼミに参加しているほたるさんの隣に村瀬が座って、なにかを耳元で囁く。夢の中だからうまく聞こえない。もう一度聞こうとしたが村瀬はすでに立ち上がって美沙都とともに歩き出しており、ほたるさんはさっきの言葉をもう一度聞くためにふたりを追いかけ始めた。途中で誰かに捕まっても、追いかけようともがいた。それでもふたりは立ち止まることなく遠くへ行ってしまい、ほたるさんは脱力してその場に立ち尽くしてしまう。

 ふと、自分の腕をつかんでいた人に振り返る。誰かと思ったらそれは僕だった。自分の顔なのに、表情が読めなくて怖かった。

 村瀬が口を寄せた耳とは逆の耳に、僕が囁く。その声すらもよく聞こえなかったが、僕がなんて訊こうとしたのかは聞かなくてもよくわかった。

自分自身なのだから、当然といえば当然だ。




「ひどい顔してるな」

 翌朝、会社に向かうための電車を待っていると、村瀬が挨拶もそこそこに声をかけてきた。勤務開始時刻は変わらないが、僕のほうが勤務地が少し遠いため、こうして朝の駅で会うことは珍しい。

「早いね。朝礼当番?」

 ゆうべのこともあり勝手に気まずくなっていた僕は、地下鉄の線路を見下ろすふりをして顔を伏せると、努めてトーンの高い声で尋ねた。村瀬が気付かないはずはないが、はぐらかしたからにはわざわざ突っ込んでくることもないだろう。

「朝イチの会議の準備で少しやっておきたいことがあって、ちょっとだけ早出」

「そっか」

 ホームに電車が滑り込んできて乗降口が開く。僕と村瀬はその他大勢のサラリーマンたちと同じように無言で乗り込むと、並んで吊革につかまった。人々が圧迫してくる不快感や息苦しさからなるべく目を背けながら、ちらりと横に立つ村瀬に視線を送る。村瀬は僕とは対照的に涼やかな顔で前を向いており、窓の外のホームを眺めていた。村瀬は人より背が高いので、こういうときに僕より息苦しさのようなものを感じにくいだろうなと思ったら少し羨ましかった。

「そうだ、あのさ」

 電車が動き出すと、唐突に村瀬が僕を見下ろしてきた。横顔を盗み見ていた僕とばっちり目が合う。僕は言い訳のように一瞬だけ視線を逸らすと、再び彼を見上げて「なに?」と返した。

「美沙都がお前と飲みたがってたぞ。最近付き合いが悪いからって」

「僕だって忙しいし、そもそも灰谷さんがいるのに女の子とふたりでは飲まない」

「誰もふたりとは言ってないだろ。三人でへろへろになるまで飲もう」

「いいね。それだと美沙都にお前を押し付けて帰れる」

「ひっでーな」

 たいしてショックでもなさそうに言って村瀬は笑った。疲れ切った鈍色の空間で、その笑い声はやけに高く聞こえた。

「そうだ、灰谷も呼べる? 俺も久々に一緒に飲みたい」

 心臓がひとつ跳ねて、今度は僕が窓の外に目をやる。質量を持った冷たいなにかが、喉の奥でふわっと膨らんだ。よくないものであることはすぐに察知できたが、どうするのが正解なのかはわからなかった。見ているようでまるで見ていない窓の外に顔を向けながら、僕は「そうだね」と答える。村瀬とは対照的な低い声だった。

「今度訊いておくよ」




『最近妙に被害妄想が激しい気がする』

 昼休み、会社のデスクでそんな内容のメッセージを送ると、すぐに既読がついて返信が来た。絵文字もなにもない、素っ気なさの極みのような文章だった。

『被害妄想が激しい人間はもてない』

 半ばやけくそにスマホをデスクに伏せる。普通「なにがあったの?」とか訊くものじゃないだろうか。別に被害妄想が激しいことが話の主軸じゃないんだよ。とは思うものの、相手方はそんな回りくどい相談方法を好む人間ではないし、これは僕が悪いのだと思う。そう思い直してスマホの表側を上に向けると、ちょうど新しいメッセージが届くところだった。

『こんなこと言うの本当は大嫌いなんだけど、恋人ができると誰しもそういう側面は強くなると思うよ』

 そういうものだろうか。僕はオフィスチェアに背中を預けると、大きく息を吐き出して天井を見上げた。誰しもがそうなると言っても、僕は今までそうなったことがないのだから、戸惑いは大きい。

別に、なにか決定的な事案があったわけじゃない。同じゼミで、少し仲がよくて、ただそれだけのことだ。なにも不安がることなんてない。はずなのにこうも落ち着かない気持ちになるのは、結局自分に自信がないからだ。

『自信がない奴ってどう思う?』

 スマホをデスクに置いたまま、人差し指でトントンとメッセージを送る。即座にさっきよりも素っ気ない文が返ってくる。

『もてない』

『それ基準でしか喋れないわけ?』

『正直、人間としての魅力を感じない』

『悪かった』

 液晶を消し、再びため息をつく。自信とはどうやってつけるものだったか。あるいは、時間が解決してくれるものだと願いたいが。

昼休みが終わる。午前中は心ここにあらずといった感じで、仕事しているんだかしていないんだかわからないような体たらくだったので、午後だけでもしっかりしていたい。重く固まった肩をぐるぐる回すと、僕は業務を再開した。

「永井」

 ちょうどそのとき、後ろから声をかけられた。首だけで振り返ると、僕の同期である男子社員が申し訳なさそうな顔で立っていた。何事かと思って身体ごと向き直る。

「今日暇?」

「仕事はそれなりに抱えてるけど」

「じゃなくて、退勤後の話。飲みに来てくれない?」

 来てくれない? という言い方が気にかかって一瞬考えこむ。行かない? ならまだしっくりくるのに、まるであらかじめ飲み会が用意されているような口ぶりだ。

「合コンなら行かない」

「違うよ。社内の人で飲みましょうってだけ」

「なら頭数を揃える理由はないだろ」

 身体をデスクに向けながらそう返すと、同期は途端にきまりが悪そうな顔で開き直った。

「ノリわりーなぁ。せっかく総務課の女子たちと飲めるってのに」

「げ、総務課」

 去年一度だけ騙されるようにして総務課女子の飲み会に連行されたことがあったが、誰もかれも強気な美人でひどく気疲れしたことを覚えている。他の男連中は知らないが、捕まらない限りはもう行かないと誓っているのだ。今の僕にはほたるさんだっている。

「別の奴を誘ってくれ、僕は行かない」

「お前ならそう言うと思ったよ。だから営業二課で声かけるのはお前で最後だ」

 言外に他を当たったが全滅だった旨を伝えられるが、僕は手をひらひら振ってデスクに顔を向けた。

「嫌だよ。大体ああいう人たちと飲んでいても、こっちが気を遣うばっかりで全然楽しくな――」

 同期の顔が強張り、そそくさと僕のデスクから離れる。話の途中に放り出された僕が驚いていると、別の方向から「永井くん」と声をかけられた。ぎょっと振り返ると、総務課所属の女子社員(こちらも同期入社)がそこに姿勢よく立っていた。背中を冷や汗が伝う。聞かれた? さっきの奴の様子を見るに、きっと聞かれている。僕は乾いた唇を舐めると、なんでもない風に「どうしたの」と尋ねた。冷静に、紳士的に、なるべく目を見て話す。同期女子は微笑んだ。

「C会議室、三時から四時まで使うんだよね? 四時からこっちで使うことになったから、無駄に会議の延長とかしないでね――ってことだけ伝えに来たの。ごめんね、お話の途中に」

「……いや、大丈夫。わかった、ありがとう」

 口早に返してさっさと仕事に戻ろうとすると、彼女が僕のオフィスチェアの背もたれに手をかけた。観念してため息をつく。椅子がくるりと回され、彼女と真っ向から向き合う形になった。

「あまり総務課を敵に回すことはおすすめしないんだけど、永井くんはどう思う?」

「僕もそう思います」

 ほとんど反射的にそう答えていた。僕とて総務課の悪口を聞かれてただで済むとは思っていない。捕まらない限りはもう行かないが、捕まったからには行くしかない。


「永井さん、去年の飲み会にもいましたよね?」

 テーブルの端でなるべく目立たないように飲んでいたら、向かいの席から声をかけられた。斜め前にハイボールのタンブラーを置いたその女子社員には、申し訳ないことに覚えがなかった。

「えっと――」

「総務課の黒田です。二年目なので永井さんの一個下ですね」

「ああ、そうなんですね……」

 勝手に気まずくなり、なんとなくジョッキを持ち上げて口をつける。彼女も例にもれず、いわゆる「強そうな女子」だった。きちんとアイラインの引かれた目元、肩甲骨の辺りで切り揃えられた暗めの茶髪、赤色が強い口紅、どこをとってもほたるさんとは違う。初めてほたるさんと会ったときのようなコミュニケーション能力は発揮できそうになかった。

「嬉しいなぁ。永井さん、あまりうちとの飲み会に来ないじゃないですか」

「こういう場はそんなに得意じゃなくて」

 昼間とは打って変わって無難な答えを返すと、斜向かいに座っていた同期女子が少しだけ噴き出した。静かにしてほしい。

「永井さんって確かに大人しそうな感じですもんね。文学部っぽい感じ」

「文学部だったのは本当だけど大人しくない文学部もいますよ。黒田さんは?」

「法律を勉強してました。市ヶ谷の大学で」

「へー……」

 市ヶ谷といえば村瀬とほたるさんの大学があるところだ。なんとなくその大学名を出してみると、黒田さんは両手をぱんと合わせて表情を輝かせた。

「そうですよ! 毎日地下鉄で通ってました」

「僕の友達もそこで法律勉強してたんですよ。村瀬っていうんですけど」

 奴の名前を出した瞬間、黒田さんは突然、尋ねるように村瀬のフルネームを口にした。びっくりして「そうだけど」と肯定すると、彼女は「えー!」と大きな声をあげて口元を覆った。同じテーブルで飲む人々がなんだなんだと会話を中断して振り向く。

「一個上の村瀬さんですよね? 知ってますよ、同じゼミでしたもん!」

 思わず息を呑み、ジョッキを横に置く。村瀬と同じゼミ。ということは、ほたるさんとも同じゼミだ。彼女のことも当然知っているだろう。しかし彼女の名前を出すのはなんとなくためらわれて、僕は口をつぐんだ。横からみんなが「どうしたの?」と口々に尋ねてくる。僕が言葉を発する前に黒田さんが興奮しながら大雑把に説明すると、みんなは「そうなんだ!」と興味を持つそぶりを見せつつ、自然な感じで己の会話に帰っていった。そんなに重要事項ではないだろう。ただ、世間は狭いねというだけの話だ。

「もしかして永井さんも同じ大学でしたか?」

 黒田さんが首を傾げる。

「いや、僕は御茶ノ水のほう……村瀬とは幼なじみで」

「へー! 意外なつながり」

 ハイボールのタンブラーを持ち上げ、ひとくち嚥下してから、黒田さんは歯並びのいい口元をさらしながら笑った。

「私、村瀬さんに告白したことあるんですよ。村瀬さんもてたんですよ、知ってますよね」

「……それは知ってますが」

 知ってはいたが、当事者が目の前に現れるとは思わなかった。唐突な展開に頭が追い付かない。というか、村瀬に彼女がいることはゼミ内では周知の事実だったんじゃないのか? ほたるさんが出会った当初にそんなことを話していたのを思い出す。

「彼女さんがいるのは知ってたから、全然勝算はなかったんですけどねぇ。あれは悔しかったな」

「失敗するって知ってて告白したんですか?」

「そうですよ。言っておきたかったんですもん」

「それはなんていうか、村瀬が負担だったんじゃないかな……」

 余計なことを口にした、とは思った。しかしあの村瀬が人からの思いを退けるときになにも感じないとは思えなかった。黒田さんは一瞬驚いたように目を見開くと、ふっと小さく笑って、またハイボールを口にした。その目に宿るのは、非難でも苦々しさでもない。どちらかというと、恐らく懐かしさに似たものだった。

「むかし、ゼミの友達にも同じようなこと言われたんで、びっくりしちゃいました」

 タンブラーを置き、肘をついてまっすぐに僕を見据える。僕も目を逸らすわけにはいかず、テーブルの下で手を組んで黒田さんを見つめ返した。テーブルのこちら側だけほかと温度が違うが、誰が気にするわけでもなかった。

「確かに私を振ったときの村瀬さんはどことなく居心地が悪そうで、見ていて少し申し訳なかったですよ。でも――こればっかりはそうするしかないものなんですよね。私はこの気持ちを知っていてほしかった。それで村瀬さんの中に思いっきり爪痕を残せたら、次に進める。それだけは確信があったんです」

 毛先を軽くいじりながら、彼女は茶目っぽく笑った。

「それに、そうすれば村瀬さんは私のことを忘れないでしょう?」

 忘れない。それは本当にそうなのだろう。むしろそんな村瀬だからこそ好きになったのかもしれない。

 黒田さんは燻ぶった気持ちを抱えたまま生きていくことを選ばなかった。上からいくつも覆いをかけて自然に消化されることを待つことより、その熱を直接村瀬にぶつけることを選んだ。それが村瀬の負担になったとしても。自分が次のステージ向かってに歩き出すために。

「まあ、それは正しくないんじゃないかって友達にも言われたんですけどね」

 そう言って黒田さんは苦笑した。ふと気になって、僕は身を乗り出す。

「僕と同じようなこと言ったっていうその友達は、どんな子だったんですか」

「ザ・真面目な子でしたよ。仲良かったんですけどね。なんか四年に上がる前くらいからあんまり話さなくなっちゃって」

 黒田さんがスマホを取り出し、カメラロールを確認する。

「大体の写真がバックアップ取り終わっちゃってここには残ってないんですけど、動画だけはバックアップできてないんですよね。これしかないや」

 そう言って画面を横向きに見せてくる。暗い画面に明るい炎がゆらめいた。キャンプファイヤーだ。

「三年生の時のゼミ合宿の動画です。ほら、村瀬さんの隣に座ってる子」


 動画のメインは炎の前で行われている出し物で(女子五人くらいが当時流行っていたアイドルかなにかの真似をして踊っている)村瀬とその横の子はとても小さくしか映っていない。半分想像していたことだが、それが紛れもなくほたるさんだった。眼鏡を掛けていて、今より少し垢抜けないが見間違えるはずがない。ハイキングで怪我をした直後なのか、サンダルを履いた足に湿布を貼っている。

 出し物が終わって、見ていた学生たちから拍手が沸き起こる。音を消しているのでわからないが、みんな笑っているので歓声もあがっていることだろう。村瀬も笑っていた。当然ほたるさんも。

 不意に村瀬がなにかに気付き、ほたるさんの肩を叩いた。ほたるさんが振り向くと、村瀬はにっと笑って自分の口元を指差した。ついでになにかを言っている。

八重歯だ。「灰谷は八重歯があるんだな」と、村瀬はそう言っているのだろう。

ほたるさんは、はっとして口元を覆った。まだ八重歯が気に入っていない頃なのだろう。恥ずかしそうに眉を下げて、首を横に振っている。「どうして?」と村瀬が言ったのがわかった。ほたるさんが俯いて困り顔をした。村瀬が再びなにかを言った。周りが騒がしかったせいでうまく聞き取れなかったのか、ほたるさんが「え?」と言いたげな顔で耳を寄せる。村瀬がその耳元に再び語りかけた。


 動画はそこで終わっていた。十五秒もないような短い動画だったのに、僕にはやけに長く感じられてならなかった。黒田さんがスマホをしまい、「以上です」と告げてハイボールを飲み下す。僕は義務的に「へー」「なるほど」と言葉を返してはいたが、内心ではなにを考えていたのか、自分でもうまく飲み込むことができなかった。

「この子も村瀬さんと仲良かったんですよ。好きだったんじゃないのかなぁ。でも本人に訊いても、彼女がいる人だよーの一点張りで」

 頬杖をつきながら黒田さんが思い出す。かつて自分がほたるさんに「村瀬のこと、好きでした?」と尋ねたときと同じ答えだ。ほたるさんにとって、すでに彼女がいる男を好くことは「正しくない」。「正しくない」ことはしない。それはきっとほたるさんの根幹を担う真意だ。

 真意がそうだとして、事実は?

 それはただの推測で確かなことなんてなにもない。

 わかったのは、ほたるさんがこのキャンプファイヤー以降、きっと自分の八重歯が嫌いじゃなくなったということだけだった。




「千尋さん」

 川の流れがさらさらと耳に心地よい。ふと呼ばれておもむろに目を開けると、足首まで川に浸かったほたるさんが、こちらに大きく手を振っていた。

 ゴールデンウィーク最終日。天候は晴れ。少し遠出しようかという話になり、僕たちはレンタカーを借りて奥多摩の辺りまでやってきていた。

「なんだか久しぶりですね」

 車を借り、駅までほたるさんを迎えに行ったとき、乗り込んでくる彼女が少しはにかみながらそう言った。本当は休みのあいだにもう少し会いたかったのだが、ほたるさんが高校時代の友達と旅行に行く約束をしていたり、僕も僕で親戚の結婚式に出たりと忙しかったので、最終日しか予定が合わなかったのである。僕は「そうだね」と微笑みつつ返したが、黒田さんからあの動画を見せてもらったあと、どういう顔でほたるさんの前に立てばいいのかわからない節があったので、時間が空いたのは正直都合がよいと言えた。ほたるさんに向かってうまく笑いかけられたという手応えを覚えたとき、僕は心の底から安堵した。

 考え過ぎるのはよくない。もう三年近く前のことだ。過去のことにじたばたさせられるのは馬鹿馬鹿しいし、生産的ではない。

「千尋さーん」

 ほたるさんがもう一度僕を呼んだ。川べりに座っていた僕は靴を脱ぎ捨てると、冷たい水に足を浸してほたるさんのもとへと歩を進めていった。ぱしゃぱしゃと足元で水がはねる。透明できれいな水だった。流れはゆったりとしていて大して深くもなく、辺りに繁っている木々を水面に映し出していた。

「きれいな川ですね」

 ぱしゃん、と水をはね上げながらほたるさんが感心したように言った。今日の彼女は水色の長袖シャツに白いスカートという出で立ちであり、来る夏を感じさせる爽やかな装いだった。いつもどおりの薄化粧に、見慣れぬ青いイヤリングを身につけている。旅行先で気に入って買ったのだそうだ。

「二十三区じゃ考えられませんね」

「このきれいな水を利用して、ここらへんで日本酒が造られているらしいね」

「そうなんだ! 水がきれいだとそういうこともできるんですね」

 そう言ってほたるさんは膝に手をつき、足元を見下ろした。水に浸かった足は目に痛いほど白くて、水面でゆがんだ太陽光が不規則な模様を描きながらその甲を照らしている。

「こんなにきれいだと、夏は蛍が見られるんでしょうね」

「虫のほうの?」

「そりゃ、そうですよ」

 ほたるさんがこちらを見上げて笑った。件の八重歯がちらりと顔を出す。

「わたし、本物の蛍って見たことないんですよ。名乗ってるくせに」

「街に住んでるとね」

「いつか本物が見たいなあ」

 そう言って不意に姿勢を直したほたるさんが大きくよろめいたので、僕は慌てて手を伸ばして彼女の腕を引っ張った。川底の石に生えていた苔で滑ったのだろう、ほたるさんは「あっ」と口を開けて驚いていたが、次の瞬間には大きな声をあげて笑っていた。僕があまりにも焦った顔をしていたのが面白かったのかもしれないし、滑ってぐるりと回った視界が面白かったのかもしれない。無理くり体勢を立て直し、再び自立できるようになっても彼女は相変わらず笑っていて、またしても転んだりしなないように僕のTシャツの裾を握りしめていた。

「ごめん、ごめんなさい、あはは」

「あのね……」

 仕方ないな、と言う代わりに彼女の背中をぽんぽんと叩き、川べりのほうへと誘導する。ほたるさんはどうにか笑いを収めながら大人しくついてきて、僕と一緒に川岸の岩の上へと腰を下ろした。

「ずぶぬれになるところだったね」

「ごめんなさい。助けてくれてありがとうございます」

「いや、いいよ。大事にならなくてよかった」

 足だけは水につけたまま、ふたり揃ってふうと息をつき、対岸へと視線を送る。深くはないが、それなりに広い川だ。夏休みには家族連れが遊びに来そうなロケーション。それこそキャンプでもして、夜には蛍を探すようなことがあるのかもしれない。後ろに手をつき、隣に座るほたるさんを見やる。ちょうど彼女もこちらを向き、何用かと首を傾げた。

「今度は夏に来ようか」

「蛍を見に? やった。楽しみにしてますね」

 そう言って目を細めると、ほたるさんは再び川に向き直り、大きく水を蹴り上げた。水しぶきが太陽の光を受けて輝く。それがわずかにほたるさんのスカートを濡らすが、彼女は気にも留めない。それが少しおてんばな彼女らしくて、思わず口元がほころんだ。

 でも、彼女のこんな面を知っているのはきっと自分だけではないし、もっと言えば彼女と仲のいい人間なら誰でも知っているだろう。恋人だからこそ知っている、あるいは恋人しか知れないような面に、僕は触れたことがあるだろうか。

 ふと、出会った日の交差点でのことを思い出した。車のライトに照らされた表情の読めない横顔。あのときの妙に大人びた顔つきを、あれ以来見たことがなかった。彼女が意図して人に見せないようにしているのかもしれないし、無意識下で存在を隠蔽している表情なのかもしれない。

「蛍ってかわいそう」

 唐突にほたるさんがそんな言葉を発したので、ぼんやりとその横顔を見つめていた僕は急速に現実へと引き戻された。川面に落としたその視線は、やけに遠くを眺めているようにも見えた。ここにはいない蛍を見つめているのかもしれない。

「どうして?」

「だって、すっごく水がきれいなところじゃないと生きられないでしょう? それって生きづらいじゃないですか」

 再び足元の水をはね上げる。今度は少し弱々しく、低く飛んだ水しぶきが水面にばらばらと散っていく。

「そう思いませんか?」

意見を求め、こちらに顔を向ける。僕は暫し考え込み、川のほうへと視線を移した。相変わらず陽の光は明るく、水面で不規則に揺らめいている。とても美しい場所だが、ここで産まれた蛍は決してここを離れられないだろうし、ここ以外に行けばすぐに死んでしまうだろう。夢のように儚く、脆い存在。確かに、かわいそうに見えるかもしれない。

「でも、だからこそ尊いんじゃないかな」

 僕がそう答えると、ほたるさんはほんの少しだけ目を見開き、水につけていた足を岩の上に引き上げ、続きを促した。

「きれいな場所でしか生きられない、そんな清らかな存在だからこそ、とても稀有な存在だ。だからかわいそうなんかじゃないさ」

 言葉を慎重に選びながら結論付けると、ほたるさんはそれまでの僕と同じようにじっと考え込み、やがてはきはきとした声で「確かに」と元気よく言ってにぃっと笑った。彼女の望む答えを出せたらしい。――違う。僕の望む答えだ。彼女の意見を肯定していれば、きっとこんな顔は見られなかった。でも出した答えは紛れもなく本心で、そう答えたことにはなんの後悔もない。

 そろそろ車に戻ろうか、とほたるさんを促す。ほたるさんはこくりと頷くと、少しだけ名残惜しそうに、目の前の美しい川を眺めた。


「ほたるさんは夏生まれなの?」

 帰りの車の中でふと尋ねると、少しうとうとしていたのか、やや間を空けてほたるさんが「そうですよ」と首肯した。

「七月十日生まれ。誕生花はホタルブクロ」

「ホタルブクロ?」

「初夏から夏にかけて紫色の花を咲かせる多年草です。かわいいですよ、控えめに下を向く花で」

「そうなんだ」

「同じ日の誕生花だと金魚草とかラベンダーとかあるみたいなんですけど、一番名前にしやすいし、清らかなイメージがあるから『ほたる』っていう名前にしたんだそうです」

「そっか」

 車内は再び沈黙に包まれ、なんとなくつけていただけのカーラジオが夕方の六時を告げた。随分と長くなった日が西側の空に消えていくのが見える。助手席に座るほたるさんがこくこくと船を漕いでいた。信号に引っかかったタイミングで自分の上着をかけてやると、彼女はわずかにまぶたを押し上げ、「ありがとうございます」と微笑んで小さな寝息を立て始めた。

 彼女の誕生日はおおよそ二か月後。それまでに、今日みたいな時間を重ねて、僕の不安がすっかり払拭されていればいいと思う。

もっとほたるさんのことをよく知りたい。そうすれば、きっとあんな嫌な感じ方をする自分はいなくなる。

 信号が青に変わった。多摩の山々を背にしながら、僕はゆっくりとアクセルを踏み込んだ。

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