掌編小説・『鮒』

夢美瑠瑠

掌編小説・『鮒』

(これは2019年2月7日「フナの日」にアメブロに投稿したものです)



 


     掌編小説・『鮒』   


 鮒は悲しんだ。

 住処の古びた池が渇水で干上がりつつあって、狭い浅瀬に閉じ込められるような格好になったのだ。

 泥だらけの浅瀬には、小蝦一匹もいない。次第に空腹で、動くのも億劫になってきた。ゆっくりと回遊してみるが、昔の居心地のいい、緑色の深い池はもうその面影もない。無機的な、絶望の色をした、泥の世界が広がっているだけだ。

 干天はさらに続いて、鮒は、呼吸をするのがやっとというような、差し迫った事態に襲われつつあった。

 残酷な泥と、汚濁した泥水のせめぎあいの中で、あっぷあっぷしている鮒は、だんだんに鰓も疲れて呼吸困難で気が遠くなりつつあった・・・


 その時だった。

「ピシャッ」と音がして、真新しい子供の魚網が鮒を掬いあげた!

「お父さん、お父さん、大きな鮒が取れたよ!池が干上がっていて、逃げられなかったんだ!」

「良かったね、鱒二。すごいじゃないか。こんな立派な鮒はあんまりいないぞ。池の主かもしれない。」


・・・そうして鮒は綺麗な金魚たちがたくさんいる、子供のうちの清冽な池で飼われることになった。そうして人間の投げてくれるエサを食べて丸々と太り、やがて大きな錦鯉となった。

 ある時、錦鯉の立派さに感心した大富豪に買われていって、大富豪の庭の池に棲むことになり、さらにどんどん大きくなっていった。


 そうしてしまいには七つの滝を登りなば、たちまち黄金に光り輝く壮大な蛟竜に出世して、遥かな天上界に登っていきましたとさ。


<了>


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