春来たれ
ひがし
正方形
煙草の煙が宙に紛れ、亡骸が器の中で山を作っている四畳半。
西から差す朱が顔焼く。
突如、獣の雄叫びで目を覚ます。
腹部にまで轟くそれは胃を病ます何かで。
人が人たる故に抱く欲求で。
その欲求に掻き立てられた裕人は一言。
「はらへった…」
徐に開けた扉の先には何も無く、渋々という顔をして扉を閉じた。
食料調達に向かうべく布団の前で横たわっている二年前に買ったであろうジャージに着替え、朱に染まった部屋を出る。
整える事を知らない髪と白く曇った眼鏡、昨日から変化のないシャツは裕人の心を映す鏡だ。
空の紫や雲を染める朱は宛ら三年前の夜空に咲く華のようだ。
穏やかじゃない。気が滅入りそうだ。
心を烏に啄まれている気分になる。
いっそ全部食べてくれればいいのに。
ブラックコーヒーと焼肉弁当を手にレジへ向かった。
「セブンスターボックス二つ。」
同時に煙草も手に入れた裕人は少し安堵する。
店を出て真っ先に煙草を燻らせ、家路に着いた。部屋の中は仄暗く、煙草の匂いと男の臭いが踊っている。
食事を早々に済ませ煙を吐く。
布団とテーブルしかないこの正方形の部屋と裕人は、あれから三度目の夏を迎えた。
全てを置いてきた夏が━━━━
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