第41話

 「危険度から考えればAランク並の依頼じゃが、今回は緊急な上に、人数が欲しいと国から言われておる。そこでCランク以上であれば、参加を受け付けることにした。どうかのう、やってみんか?」



 その場に集まった冒険者は、お互いの顔を見交わす。いくら報酬が高いと言っても、相手は一万の魔王軍。


 命がけの仕事になる。冒険者の中には、マカオス率いる〝アルバトロス″の姿もあったが、やはり躊躇していた。



 「ふむ、仕方ないのう」



 そう言うとヤコブは右手の指を三本立て、冒険者たちに見えるようにかかげた。



 「30ポイントじゃ! 魔族一体につき、ギルドの評価値30ポイントをくれてやるぞ! どうじゃ!? 国のために戦う者はおるか!」


 「30ポイント!? だったら俺はやるぞ!」


 「お、俺も! 俺もやる!!」


 「それなら俺も――」



 堰を切ったように名乗りを上げる冒険者たち。一体で30ポイントは、大型の竜の討伐に匹敵するほどの破格の条件。


 ギルドの窓口は、我先にと依頼を受ける冒険者でごった返した。



 「おー! マカオスたちも受ける気みたいだな。どうする、ヴァン?」



 ガルムは当然やりたいと考えていた。魔族とは一度戦って勝っている。


 大量のポイントと金が入ってくるなど千載一遇のチャンス。うまくすれば大幅にランクが上昇するかもしれない。



 「そうだな……」



 ヴァンも受けたいとは思っていたが、命がけの依頼であることには違いない。


 リーダーとして軽々に判断はできないうえ、ヤコブからの直接依頼がどうなるか分からないという問題もある。


 ヴァンが思い悩んでいると――



 「ホッホッホ、お主らは行かんのか?」


 「ヤコブさん!」



 ヤコブが台から降りて、ナターシャと共に近くまで来ていた。悩んでいるヴァンに声をかけ、穏和な表情を浮かべる。



 「受けたい所ではありますが、ヤコブさんからの依頼がどうなるかも分からなかったので……」


 「なんじゃ、そんなことか」



 ヤコブはやれやれといった表情で、両方の手の平を広げてヴァンに見せる。



 「十体じゃ! 魔族を十体以上倒せば、Bランク昇格を認めよう!」


 「十体!? それだけでいいのか?」



 話を聞いていたガルムが目を見開く。


 ――俺にとっちゃ朝飯前だ! マジで運が向いてきたんじゃないのか?



 「それに、大量のポイントを得てもAランクに昇格するとき試験があるが、お主らの場合は特別に免除してやってもよいぞ」


 「ま、マジでか!?」ガルムは興奮して聞き返す。


 「マジじゃよ。ホッホッホ」


 「よーし! 俺たちも参加しようぜ。みんなもいいよな!」



 ガルムの言葉に〝大鷲″のメンバー全員が頷く。



 「それで魔族を倒した場合、どうやって確認するんだ!?」



 ガルムが前のめりに聞くと、ヤコブに代わって秘書のナターシャが答えた。



 「魔族の〝左耳″を切り取ってきて下さい。魔族は特徴的な耳をしておりますので、それで判断します」


 「耳……耳さえ持ってくればいいのか!?」


 「はい、そうです」



 ――だったら、が使えるな……。


 ガルムは笑みを浮かべ、ギルドの入口に向かって駆け出す。



 「おい! どこに行くんだ、ガルム!?」


 「ヴァン! 先に行っててくれ。俺は家に帰って準備したらすぐ行くよ!!」



 そう言ってガルムはギルドを出て走り去ってしまった。ヴァンたちは呆気に取られる。



 「大丈夫かのう? もう時間がないぞ」



 ヤコブは髭を撫でながら、ヴァンを心配する。

 


 「え、ええ……」


 「魔王軍はレイフォードの北側に迫っておるそうじゃ、国王軍も向かっておるが、彼らだけでは勝てまい」


 「我々もすぐに出ます」



 ヴァンは受付に向かい、正式に魔族の討伐依頼を受注する。淡々と手続きをしていたが、不安の色は隠せない。


 魔族と戦うのなら、ガルムの力は必要不可欠だからだ。


 手続きが終わってギルドの外へ出ると、



 「おい、本当にガルムがいないまま行くのか!? 今から北に向かうのに、あいつの家、街の南端だよな? 間に合うのか!?」



 クレイも不安を口にするが、ガルムを信用するしかないとヴァンは腹を括る。



 「俺たちは先に行こう。ガルムは必ず来てくれる!」



 ◇◇◇



 ガルムは家に向かって走っていた。仕事中ではないので【天空神ヘルメスの足鎧】はつけてきていない。


 そのため少し時間はかかるが、家に帰って【足鎧】や【マント】さえ装着してしまえば、かなりの速さでレイフォードの北まで行けると考えていた。


 ――耳さえ持っていけばいいのなら、フル装備で戦っても問題はないはずだ。これで数百……いや! 千体ほどの魔族を倒すことだってできるかもしれない。そうなればB~Aランクだって充分いける!


 ガルムは興奮していた。


 まさか、こんなチャンスが巡ってくるとは思っていなかったからだ。これで金と名声の両方が手に入る。 


 そんなことを考えながら、剣や鎧を隠している自分の家へ、全力で駆けた。



 ◇◇◇



 レイフォードの北東――


 見渡しのよい平原に将軍ヨハネの姿があった。彼の後ろには国王軍、騎馬二千、歩兵三千が整列している。


 

 「まったく奴らめ、急速に南下してくるとは……思ったより早いな」



 歯をギリッと噛み締め、苛立ちを見せるヨハネ。



 「ギルドへの依頼はどうなった?」



 ヨハネは後ろに控える副官、トリンケンに尋ねる。



 「ハッ! すでに届は受諾されました。ヤコブからはすぐに冒険者を送るとだけ……何人くるかは、まだ分かりませんが」


 「そうか……」



 ヨハネは険しい顔になる。今、魔王軍を迎い撃てる戦力は五千が限度。


 しかも一人一人では魔族に劣るのは明らかだ。圧倒的な劣勢、冒険者の助力なしには戦いにもならない。



 「厳しい戦いになるだろう」

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