第17話

 物の数分で山の北側に周り込み、ジュエル・ラビットの捜索を開始した。



 「ん? アンバーか」



 〝サーチ″によって一キロほど先にアンバーがいることに気づいたガルムは、慎重に迂回して辺り一帯を探し回る。


 山の斜面を駆け上がり、鬱蒼うっそうと生い茂る木々を抜けていく。


 降り注ぐ木漏れ日を体に浴びながら、そこに住み着く動物の存在を感じ取る。


 すると――



 「いた!!」



 大きな木の陰に隠れているジュエル・ラビットを見つけた。気づかれないよう背後に周り、一瞬で距離を詰める。


 ウサギも異変に気づき、大きく飛び跳ねて逃げようとするが、ガルムの方が速い。


 空中に浮き上がったウサギの体を右手で掴むと、足を大地にめり込ませ、急ブレーキをかけ、その場に止まる。


 地面はえぐれ、土煙が舞い上がった。



 「よし! 一丁上がりだ!」



 右手に収まったウサギを見ると、驚いて硬直している。



 「心配しなくても、取って食ったりしねーよ! 飼い主の所に連れてってやるから安心しろ」



 ガルムは兜をはずし、揚々と山を下りていった。



 ◇◇◇



 「もう日が暮れるな……」



 山の東側でジュエル・ラビットを探していたヴァンは、今日の捜索を切り上げる。


 元々、一日で見つかるとは思っておらず、数日かけて捜索範囲を絞り込もうと考えていた。


 メンバーには捕まえても、捕まえなくても、日が暮れれば最初に集まった場所に戻るように伝えていたため、自分も戻ることにする。


 三十分ほどかけて山道を進み、散開した山の麓に辿り着く。


 すでに他の三人は来ているようだ。



 「おーい、今日はこれで帰ろう!」



 ヴァンが声をかけると、三人が振り向く。その時、ソフィアが何かを抱えていることに気づいた。


 長い耳に、白い毛並み。額には色とりどり宝石が見て取れる。



 「ジュエル・ラビット! 捕まえたのか、ソフィア!?」


 「ああ、ヴァン。違う違う、私じゃなくてガルムが捕まえたんだよ」


 「ガルムが!?」



 慌てて駆け寄るヴァン。



 「確かにジュエル・ラビットだな。この辺に生息する動物じゃないから……探していたペットで間違いないだろう」



 見るとガルムは「ふふん」と言って胸を張っている。



 「そうか、ガルムが……よくやってくれた。ガルム!」


 「まあな、俺にかかっちゃこんなもんよ!」


 「本当、最初はただのオッサンだと思ってたけど、結構仕事できるわね!」


 「私も……そう思います」


 「うんうん、そうだろう。もっと褒めてくれてかまわんぞ!」



 調子に乗って笑い声を上げるガルムを見て、ヴァンは信じられない気持ちになる。


 ――まさか、一日で見つけてくるとは。


 

 「ガルム、よく見つけたな。どこにいたんだ?」


 「ん? ああ、探し回ってる時に木の陰にいるのを、たまたま見つけてな。後ろからそっと近づいて捕まえたんだよ」


 「そうか……」



 見ればアンバーやソフィアも、愛らしいジュエル・ラビットの頬を突っつき、かわいがっている。


 何にせよ依頼が達成できて良かったと、ヴァンは胸を撫で下ろす。



 「よし! ギルドに戻るぞ。そのあと祝勝会だ」


 「おお、いいね! そうこなくっちゃ」



 ガルムは大喜びで、ヴァンの肩をバシバシ叩き、ソフィアとアンバーもウサギを逃がさないように気をつけながら、笑い合って山を下りてゆく。


 それを、微笑ましく見つめるヴァン。


 ――ガルムが来てから仕事がうまく回り始めている。俺たちパーティーにいい流れがきてるのかもしれない。


 山から戻り、ギルドで依頼達成の報告に行って、その足で酒場に行く。


 夜遅くまで、どんちゃん騒ぎをして飲み明かす。酒好きのガルムに取っては最高の時間となった。



 ◇◇◇



 その後も〝大鷲″は様々な依頼を受ける。


 農村を襲ったゴブリン退治。


 医療に使う、希少な植物の採取。


 畑を荒らす巨大猪の討伐。


 街で盗みを働いていた、こそ泥の拿捕。


 そのことごとくを成功させた。


 上位のパーティーでも依頼成功率は七割ほどと言われている。そんな中、Dランクパーティーとしては、ありえないほどの成果だ。


 このことはギルド内でも少しづつ、話題になってゆく。



 そして―― 


 月に一度、ギルドの評価査定の日。



 「やったぞ!!」



 ギルド会館に、一際大きな声が響く。


 新しいランクが書かれたボードがギルドの一角に設置される。その前で〝大鷲″のメンバーが集まっていた。


 特にはしゃいでいたのはガルムだ。



 「FからEランクに上がったぞ! 思ってたより、ずっと速い」


 「私もDからCに上がってる! アンバーも!!」


 「ほ、本当……良かった」



 そしてヴァンも、ボードを眺めながら目を細める。



 「とうとうCランクか……」



 パーティーのリーダーであるヴァンもDからCに上がっていた。


 それはパーティー自体のランクが上がったことを意味し、今後受けられる依頼も変わってくる。



 「これもガルムが〝大鷲″に入ってくれたおかげだ」


 「確かにそうね。以前ならこんなに仕事がうまくいくことなかったわ」


 「私も……ガルムが来てくれて……本当に良かった」


 「お……おお」



 三人に褒められ、さすがに照れて頬を掻くガルム。



 「いや~ま、まあ、俺だけの力じゃねーけどな」



 今までの人生で、こんなに褒められることも評価されることも無かったガルムは、むず痒い気持ちになっていた。


 ――あの武器や防具を見つけてから、俺の人生が好転してるようだ。これからも、こいつらと一緒に冒険者として駆け上がれるかもしれない。


 そう、ガルムが考えていると――



 「おう! お前ら、探したぜ!!」



 ギルドの入口から大きな声が聞こえてくる。


 ガルムが振り返ると、そこには鋼鉄の鎧を纏い、大きな盾を背負った大柄な男が立っていた。



 「クレイ!」



 ヴァンがそう叫ぶと、男はまっすぐにガルムたちの元へと歩いて来る。



 「クレイ、もういいのか?」


 「ああ、今日から完全復活よ!」



 ヴァンとクレイは、拳を合わせて笑い合う。



 「ガルム、紹介するよ。〝大鷲″のメンバーのクレイだ。今まで体調が悪くて休んでいた奴だよ」



 クレイは一歩前に出て、ガルムを見下ろす。



 「あんたの話は聞いてる。俺の抜けた穴を埋めてくれたんだってな。ありがとよ、助かったぜ!」



 クレイは右手を差し出してきた。ガルムもそれに応じ、握手を交わす。


 力強い大きな手に、なかなか強そうだとガルムは思う。



 「まあ、これで〝大鷲″のメンバーが全員そろった訳だ! おっさんに変わって、俺が大活躍してやるから安心しろ!」



 自信ありげに言うクレイに、ヴァンが後ろから声をかける。



 「ちょっと待て、クレイ」


 「ああ? 何だヴァン」


 「ガルムには、これからもパーティーに残ってもらうつもりだ」



 その言葉に、クレイの表情は明らかに曇った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る