第7話 寂れた町並み
寂れている。以前はもっと活気の溢れていた町であった。確かに昔から教区の司教達が我が物顔で治めていたが、それでもこの町の広場には大道芸人達が芸を見せたり、露店が並んだりと賑わい、休みとなると商店街にも人がたくさん歩いていたものである。
しかし、今はどうだ。僅かな店が開いているだけで、その殆どは店をたたんで閉まっているのか、その入口は固く閉ざされている。まるでゴーストタウン。また、この時期になると町を囲む麦畑も昔は黄金の穂がざわりざわりと風に揺られ、それは見事な光景であったが、今では耕作地も半分以下となっていた。
飢饉や教会からの献金強要だけはない。その事で起こった暴動。そしてそれを切っ掛けに、それまで仲良くしていた隣人を司教達や役人達に売った。友を売った。親戚を売った。だが、それも皆、生き抜く為であった。あの飢饉の飢えから逃れる為、重税や教会からの献金という名の搾取を少しでも軽くする為である。その結果、皆が誰を信じて良いのか分からず疑心暗鬼に陥ってしまったのだ。明るかった町民達はその罪の意識と誰も信じられなくなった事により、その顔に笑顔がなくなった。
その人気のない、商店街を歩いているライネリオ。その彼はこの町から少し離れた小さな村の出身である。そして、この町に親戚がおり、子供の頃に良く遊びに来ては大道芸人の芸を見たり、並ぶ露店の賑わいに目を輝かせていたのだ。
「変わったな……」
ふと、服屋へと目がいった。開店はしているが、全く外観を手入れしている様子がなく、ショーウインドーは埃等で汚れ、そこから見えるマネキンも陽の光で日焼けしているのか元の色が分からない程である。
からんころん……
その店の扉が開き、中から見覚えのある女が出てきた。否、女と言うよりも、まだ少し少女の面影を残している。すこし、太めの女。その女と目があった。ライネリオに気付いた女が明るい笑顔を見せる。
「おやぁ、隊長じゃないですかぁ!!」
「ラファエラ、そこで何をしている?」
「私ですかぁ?私は可愛い可愛いアンへリカちゃんのお洋服やその他諸々を買いに来てたんですよ」
「そうか、ご苦労さま。アンへリカは?」
「今、イメルダさんとお風呂に入っていると思います。だから私も急いで帰って、アンへリカちゃんと……」
そう言うと、何故か口元を拭うラファエラ。だが、そんなラファエラの様子から全てを察したライネリオが苦笑いを浮かべた。
「あまりぐいぐい行くなよ?アンへリカが怖がってしまう」
「えぇーっ、隊長に言われるなんてぇ……ショック。まぁ、良いです」
ライネリオは自分の顎をさらりと撫でた。確かにライネリオは体も大きく顔もどちらかと言うと厳つい。子供には懐かれた覚えがない。
「隊長、私は急いで帰らなきゃなので、これで失礼しますねぇ」
さっとライネリオへと敬礼すると疾風の如くその前から消えて行った。余程、アンへリカが気に入ったのだろう。ライネリオはくくくっと一人、笑っている。だが、直ぐに真顔へと戻ると、あの時、アンへリカの首から下げられていた金の装飾が施された青色の黄玉を思い出していた。
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