第4話 天使ちゃん?!
特務部隊の詰所として借りている民家は教会の少し離れた所にあった。徒歩十分程である。そこまでイメルダとアンへリカは手を繋いで歩いていた。孤児院では大人達と、ほとんど手を繋いで歩いたと言う記憶がない。繋ぐのは周りにいる子供達とだけ。イメルダの掌から温もりが伝わってくる。
「ねぇ、アンへリカ。あなた、孤児院へは誰かの紹介で入ったの?」
イメルダの問いにふるふると首を振る。
「お父さんとお母さんが死んで直ぐに、孤児院の人が迎えに来たの」
「直ぐに?」
「うん……その日の夜に来たわ」
そんなに早いものなのか?イメルダは孤児院へ入る過程をよく知らないが、手続き等諸々の事も必要だろう。そう言えば、アンへリカの両親は暴動を起こした仲間だという事で処刑されていた。緊急措置みたいなものか?少し考え事をしているイメルダの顔を不安げに見上げているアンへリカ。そのアンヘリカの表情に気付いたイメルダがにこりと微笑んだ。
「アンへリカ、あなたが心配する事は何もないわ。だから安心して」
「うん」
イメルダの言葉にアンへリカが笑顔で答える。そして、しばらく他愛のない話しをしながら歩いて行くと、詰所に使っている民家が見えてきた。大きくも小さくもない普通の民家である。アンへリカも何度もその前を通った記憶があった。確か、お婆さんが一人で住んでいた家。
「ここに住んでいるお婆さんにお願いして、しばらく借りているの」
そうイメルダは言いながら、民家の扉を開いた。直ぐにばたばたと喧しい足音が聞こえて来る。すると、一人の若い女……否、まだ少女と呼んでも良いくらいのイメルダと同じ制服を来た隊員が顔を出した。そして、イメルダの後ろに隠れる様にして立っているアンへリカを見て驚いた。
「あらぁ……可愛らしいお嬢ちゃんっ!!」
紺色の長い髪、ぱあっと明るい笑顔を浮かべた少し丸い頬とぷるんとした可愛らしい唇。アンへリカを見詰めている空の様に蒼い瞳はとても大きく、そして、きらきらと輝いていた。そんな隊員の様子に更にイメルダの背後へと隠れてしまったアンへリカ。
「おいおい、ラファエラ……まずはおかえりでしょう?」
呆れ顔でラファエラを見ているイメルダに、ラファエラがぺろりと舌を出してた。
「おかえりなさぁい、イメルダさん。今日は何事ですかぁ?こんな天使ちゃんを連れて帰ってくるなんて♡」
「天使ちゃん……って、この子はアンへリカ。あの司教の孤児院に住んでいる。詳しい話しは後でするから、まずは風呂を準備してくれない?」
「アンへリカ……です」
イメルダの後ろから顔を出したアンへリカが小さな声で自分の名を名乗りぺこりと頭を下げた。
「よろしく、アンへリカちゃぁん♡私はラファエラ。衛生班の隊員よ」
ばちんとアンへリカへとウインクをすると、イメルダから急かされて風呂の準備へと向かった。何かと騒がしい少女である。奥の方からふんふんと楽しげな鼻歌が聞こえてくる。ラファエラが口ずさんでいるのだ。
「ごめんね、アンへリカ。ラファエラはとてもいい子なんだけど、可愛いものに目がなくて、直ぐに興奮してああなってしまうのよ……って、大丈夫、大丈夫。変なことはかしないから」
アンへリカの顔がみるみるうちに不安の色に染まっていくのが分かったイメルダが慌てて付け加えた。
「アンへリカちゃん、アンへリカちゃぁん」
ラファエラのアンへリカの名を連呼する声。その声を聞いたアンへリカがぷるぷると震えだしている。はぁっと大きな溜息をつくと、アンへリカに少し待っててと一声掛けるとダッシュで奥のラファエラの所へと消えていく。ごつんっと言う大きな音。それと同時にラファエラの声が止まった。
涙目で奥から戻ってきたラファエラとふんっと鼻息の荒いイメルダの二人。そして、イメルダがラファエラへと何か指示を与えている。それを頷き聞いている。
「わっかりましたぁっ!!」
大きな声で返事をしたラファエラが外へと出て行こうしているが、急に立ち止まりアンへリカの方へと振り返ると、またばちんっとウインクをした。
「さっさと行きなさいっ!!」
「はぁいっ」
ばたんと扉の閉まる音がすると、家の中が静かになった。まるで嵐の様な少女、ラファエラ。
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