第13話 半魔人
やがて身体を起こした俺はナナちゃんのドレスを直して紐を結んでやる。
「嬉しかったかの?」
「嬉しかった。ありがとう」
とりあえずそう言っておく。
不満があると思われたら次になにをしでかすかわからないから。
……まあ、実際、気持ちが落ち着けて嬉しかったには違いないが。
「親父に母親のことを聞いてみるか」
「そうじゃな」
ベッドから降りた俺はナナちゃんを連れて部屋を出る。
居間へ行くと、親父とファニーさんの心配そうな顔が同時にこちらを見た。
「マオルド!」
「マオルドさん!」
イスから立ち上がった親父とファニーさんが叫ぶ。
「ふたりとも無事で……うわっと」
言いかけたところで親父が抱きついてくる。
「よかった……もう目覚めないんじゃないかって心配したんだぞ」
「心配かけてごめん。この通り俺は平気だから。親父は平気なのか?」
「ああ、傷はファニーさんに治してもらったから平気だよ」
「そうか。よかった」
俺はファニーさんに目を向ける。
「親父を治してくれてありがとうございます」
「そんな……ヘイカーさんが怪我をしたのは私のせいなんです。お礼を言わなければいけないのは私のほうです。それに謝罪も……」
申し訳なそうに俯くファニーさんを見て俺は察する。
きっと自分がここへ来たせいでと、責任を感じているのだろう。
実際そうかもしれない。
しかしそのことでファニーさんを攻めるつもりなど俺にはなかった。
「謝る必要はありませんよ」
「えっ?」
「あなたがここへ来てくれたおかげで親父は愛する女性に出会えた。俺もナナちゃんみたいなかわいい妹ができて嬉しいんです。なにも謝ることはありませんよ」
「でも……」
「もういいじゃないですか。みんな無事だったんですしそれで。なあ親父」
声をかけつつ、身体に抱きついている親父を離す。
「その通りだよ。ファニーさんが気に病むことはないって」
親父がそう言ってもファニーさんは俯いたまま顔を上げない。
良い人だ。
それゆえに自責の念から解放されるのは難しいだろう。
時間が解決してくれると、俺は思った。
「親父、少し聞きたいことがあるんだけど」
「聞きたいこと? ……ああ」
察したように親父の表情が締まる。
「まあ座りなさい。みんなも」
ナナちゃんとファニーさんも促し、俺たちはテーブル前のイスに座る。
「親父……」
「わかってる。聞きたいのは母親のことだろう」
「う、うん」
「いつかは話さなければいけないと思っていた。こういう形で話すことになるとは思っていなかったけどね」
いつになく重い口調で親父は言葉を吐く。
「君の母親は魔人だ。名はキーラキル。もしかしたらファニーさんとナナちゃんはこの名前を聞いたことがあるんじゃないかな」
やはり。
俺は向かいに座るナナちゃんと目を合わせた。
「は、はい。キーラキル様はこの子の一番上の姉です。でもまさかマオルドさんのお母さんがキーラキル様だったなんて……」
「うん。魔界へ連れ戻される前にマオルドを僕に預けて行ったんだ」
「そうだったのか……」
半分は魔人だった。
ナナちゃんの仮説が確実となり、俺は衝撃を受けた。
「自分の半分が人間じゃないと知ったら傷つくと思って今まで言えなかった。けど、あんな力を使ったんだ。もはや隠してはおけないだろう」
「親父……」
「あれは紛れもなく魔人の能力だ。キーラキルの能力『ガーディアン』。それをなぜ君が使えるのかまではわからないけどね」
さすがに親父でもそこまではわからないか。
しかし自分の出生を知れたのは良いことだ。
疑問が解消されて俺の心は少し晴れたような気がした。
「にーに」
「うん? なに? ナナちゃん」
聞くも、ナナちゃんは俯いて黙ってしまう。
「どうしたの?」
「……うむ。あのの、わし、の、ずっとここにいてもいいのかの?」
「もちろんだよ。どうして?」
「また他の兄弟姉妹がわしを連れ戻しにここへ来るかもしれん。そうしたらまたにーにやヘイカーパパを危険な目に合わせてしまう……」
「そうしたら俺が守ってあげるよ」
俺は身を乗り出してナナちゃんの頭を撫でる。
「俺の力はまだよくわからないけど、君を守ることはできる。だから君は安心してここにいていいんだ。俺もいてほしいしね」
「にーに……えへへ、嬉しいのじゃ」
今まで無表情しか見せなかったナナちゃんがにっこり笑う。
その顔はあまりにも美しくかわいく、俺は少しドキリとしてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます