君との時間。
赤坂 葵
会えない時間
突然出された、外出の自粛要請。
数日前まで何一つ不自由なく生活してた反面、僕にとって苦痛以外の何ものでもなかった。
自粛によって、僕の楽しみは消えてしまった。
一人旅、好きなバンドのライブ、そして恋人とのデート。
他にも沢山あるが、それらはどこへ消えてしまったのだろうか。
今まで当たり前のように過ごしてきた日々は、一瞬で崩れ去ってしまった。
本当なら今日は、付き合っている彼女と会う約束をしていた日なのに。
大切な約束も、ふとしたきっかけで消えてしまう。
やりたいことも規制によって縛られ、満足にできない日々。
こんなものが続くのならば、いっそ全て投げ出してしまおうかな。
僕は下向きに考えていたが、彼女は違った。
「確かに辛いよね。でも、それによって、当たり前なものの大切さを知る機会を与えてもらった。そう言い換えると、少しは楽にならない?」
僕が吐いた弱音に対し、宥めるように優しく画面越しに言った。
画面越しの会話は違和感があるね。僕が呟くように話すと、彼女は頷いた。
今までは週一で目の前にいた存在だったこともあり、違和感に加えて寂しさもある。
しかし、自粛で会えなくなったことにより、僕が寂しがるだろう。そう思った彼女が週一のビデオ通話を提案してくれて嬉しかった。
僕が寂しがり屋だからなのだろうか。週一のビデオ通話でも、会えないよりはまだ良いと思える。
それに加えて、彼女ととビデオ通話をすることによって、一週間頑張るための活力になっている。僕の一週間は彼女とするビデオ通話でできていると言っても過言ではない。
「そういえば、怜くん」
僕がぼんやりとしていると、ムッとした顔をした彼女が言った。
僕は我に返り、慌てて「どうしたの?」と言う。
「怜くんって、長期休みの課題終わった?」
彼女は僕を真剣且つ、全てお見通しだよと言っているような表情で見つめてくる。きっとうっすらと感ずいているのだろう。
「……終わってません」
僕は手を膝に置き、下を向きながら言う。すると彼女はふふっと笑ってから口を開いた。
「やっぱりかあ。いや、怜くんなら終わってないと思っていたよ」
「やっぱりとか言わないでよ……。一応これでも、一時間はやったんだよ? 僕真面目だからさ」
「そっかあ。真面目くんなら、きっともう終わってるよね?」
彼女は笑顔で、圧をかけながら聞いてくる。その表情に僕は、つい恐怖を感じてしまった。
「お、終わってない……です」
僕が正直に言うと、彼女はいつもの笑顔に戻る。
「はい、よく言えました〜。偉いよ怜くんっ!」
彼女は笑顔で元気よく言うが、僕は対照的に震えながら、小声で「あ、ありがとうございますぅ……」と言った。
僕の彼女は優しいと思う。
しかしそれと同時に、怖いとも思う。
確かに優しい所はある。しかし先程のように、複数の笑顔を使い分けているところはとても怖い。
「そうだ! 怜くんの課題が終わるまで、私が付き合ってあげるよ。そうすれば集中力切れても安心だよ!」
彼女は満面の笑みで言うと「早く準備して!」と急かしてきた。
彼女の笑顔を見て、ふと思った。
今までと違う、不自由な生活。確かにそれは辛いものだ。
以前は時間に縛られていたが、今は空間に縛られている。
周囲はこの時間が嫌いだ、早く終わってほしいと言った。
しかし僕は、この時間が大好きだ。
君との時間。 赤坂 葵 @akasaka_aoi
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