第22話 お客様は神様です!!!って人の足元見てないか!?








 ーーーボォンンッッッッ!!!ーー



 セイ達が武器を構えると同時にフィレックスが魔法を展開し攻撃してきた。

全員躱したが攻撃してきた魔法は威力の高い火炎魔法で地面が真っ黒く焦げていた。




「ーーっち!あれはちょっと当たっただけでもヤベェぞ・・・」




 中間にいたが危険と判断して後衛にいたセイの隣所までバックステップで下がって来たアクスがセイに伝えた。


「ーー分かった。ミラ金貨5枚で有償の愛で緊急支援を全員に頼んだぞ!!」


 有り金全部と言っていい。

もう俺は銀貨数枚と銅貨数枚しか持ち合わせていない。

これ片付いたら両ギルド長達から経費として、この分の金を徴収しようと心に深く刻みつけた。



「ふぁぁぁぁぁ!!!毎度ありがとうございます!!!ーーーーいつもニコニコ現金払い!!!お客様は神様ですっっっっ!!!」



 ミラは俺から引ったくる様に金を受け取ると、満面の笑みで金を握った手を胸の上に置き片手で覆う。

祈っているかの様に見えるが、ただ金を大事に持っているだけである。

ミラの見かけだけ詐欺は酷いんじゃないだろうか?

騙される奴絶対居ると思う・・・。

そしてミラの術がかかり全員のステータスが一気に上昇したのを感じた。

金額が変わったせいか前回と術を掛ける言葉が違うなぁとセイは思ったが取り敢えず、戦闘が終わってから聞いてみようとスルーする。



「へぇ〜、上級の支援魔法を持っていたとはな。Cランクの癖に生意気な事だ」


『行ケ、トドク・・・焼キ殺セ・・・』


 変質者の展開した赤い魔法陣から犬の形をした真っ黒い炎が3匹飛び出してきた。出てきただけでその場の温度が熱気で上昇した。



「セイさん!あれはレベル30の魔物だよ!!!」

「マジかよ!!さっきの飛んでた魔物よか強いじゃん!!」



 ーーードンッッッ!!!・・・パキパキパキッッ



 アクスが氷結魔弾を撃つが火トドクは逃げるのが速く掠った程度だ。



「俺が近寄らせねぇ!!!その間になんとかしてくれ!!」


 ーーーガチャンッッッ!


 ーーードンッッッ!!!・・・パキパキパキッッ


 アクスが再び魔弾装填し氷結魔弾を、向かってくる火トドクに向かって撃ち込み続け徐々に体力を削り怯ませる。

するとカックスギルド長が両手にそれぞれ一枚ずつ指に挟んだお札に、呪文の様なものを唱えながら変質者とフィレックスに向かって放つ。

手裏剣の様な速さで吸い寄せられる様に、一直線に飛んでいきそれぞれの前に着いた瞬間大爆発を起こした。



 ーーーちょっ、ちょっと待って!!爆風で瓦礫が飛んで来てめちゃくちゃ痛いんですけどっっっっ!?これ支援魔法を掛けてもらってなかったら俺瓦礫で死んで無い?ちらっとステータスウインドウ開いてみたら【体力197】あったのが今【体力153】だからね!?・・・俺、仲間に殺される予感しかしない・・・。支援魔法無かったら瓦礫で瞬殺だったよ・・・?ねぇ?みんな俺の体力覚えてるよね??つか、出し渋って金貨3枚だったら絶対に瀕死だよこれ!!こわっ!!

味方も敵じゃんっっ!!弱くても死、金が無くても死って事かよ!?



 フィレックスと変質者は巨大な爆発をものともせず、少しも怪我を負う事なく立っていた。

それを確認したカックスギルド長は眉間に皺を寄せ再びお札を出し準備する。

今度は明らかにさっきと違う色のお札である。



 次のマジであかん気がする・・・。隠れるとこないんですけど???



 セイが回避方法考えているとギルド長はお札を発動した。

2人の前に飛んで行ったお札は高速で回転し黒い火花を撒き散らし2人と火トドクにも火花が攻撃する。大きく舞い上がった瓦礫などで渦を描きどんどんと黒い火花が大きくなり、周囲の風も強くなって行く。



 「(竜巻みたいになってどんどん黒い雷の威力が増すのは火山雷みたいなもんか?取り敢えず巻き上げているだけで俺らを巻き上げようとはして無いから良かった・・・で、この後どうなるんだ?)」



 空高く巻き上がっていく瓦礫と大きくなる黒い雷。

これが跡形もなく収束するイメージが一切浮かばない自分の想像力の欠如が恨めしい・・・。

そして予想に反して商業ギルド長が異常に強い事に若干引き始めている。お金を多く扱う商業ギルドのギルド長だから、盗賊団なんか一人で撃退出来る位の人間じゃ無いとギルド長になれないんだろう。



 セイの想像通り、商業ギルド長も冒険者ギルド長も条件に『冒険者ランクAランク以上』が入っている。カックスギルド長も勿論Aランク冒険者である。カックスギルド長は札術師で自身の魔力をお札に精密に流しながら作ったお札で攻撃・回復・支援全てを行う事ができる。攻撃と回復に特化しており支援の威力はミラに金貨5枚渡した場合の「有償の愛」を使用した「緊急支援」より劣る。



「手応えを感じない・・・ミラくん、すまないがジョシュアを呼びに行ってくれ!!連れて来るのはジョシュアだけだ」


 カックスギルド長が自分では倒せないと判断して、ミラに指示を出した。


「はっ、はいぃぃぃっっっっ!!行ってきます!!」


 ミラもアクスも顔色が悪く、この状況はかなり悪いのが分かる。

ミラは急いで町の外に向かって走り出した。


 

 ーーズズズズズ・・・・



 足の裏に響く様な振動が響きミラは揺れる地面にバランスを崩し転け、セイ達も立っていられず片膝を突いた。


「さぁ、変質者よ此奴らに力を見せしめるのだ!!」


フィレックスの声と共に竜巻になっていた暴風と黒い雷が消し飛び、中から変質者とフィレックスが未だ無傷で存在した。最初に変質者が召喚した火トドク達は弱まっているもののまだ生きている。


ーーーーそして、もう一つ巨大な影が加わっていた。


4階建の建物位の大きさで完全に見た目はドラゴンだ。

ただそのドラゴンは虚な目をしており生命力を感じない。


「流石にギルド長でも怖いか?」

「変質者は禁術にも手を出していたのかっ!!」


 フィレックスは瓦礫の上でこちらを見下ろしながら得意げに語り出した。


「変質者達はこの世界の理を創った傲慢な神に鉄槌を下すのだ!!その為には神が禁じた事を全て行わなければならないのだよ。まずは手始めにこの町を消すことから始めるのだ。この神殿に遺されていた骨で生き返らせたごんドラでな!!」



 アクスがあのドラゴンの事をこんな状況にも関わらず教えてくれる。

俺なんか立っていることすらやっとなのに、アクスの俺に教えようとする精神はここまで来ると狂気すら感じてしまう・・・。


「セイ、あれはレベル55のごんドラだ。遥か昔神によって討伐された王金おうごんドラのしもべだ。アイツは書物で見ただけだが厚い皮膚には斬撃も魔法も通じないと記されていた・・・。当時誰も討伐できず全ての生き物が死に絶えるところを神が降り立ち王金おうごんドラ共々倒してくれたらしい。・・・俺がパーティーに誘ったばっかりに・・・すまねぇ!!」


「ーーえ?あぁうん。どうにか逃げないとな」

「え?・・・そうか・・・そうだな!!」


 前半は話を聞いていたが、アクスのこんな状況でも教えようとする精神に引いてしまい後半を聞き逃したので適当に合わせた。アクスが急に元気を取り戻したのがよく分からんがまぁいいか。今は目の前にいる問題を解決しないとな。火トドク達は弱っているからどうにか倒せそうだな・・・。


 アクスはやる気を取り戻し、ごんドラに魔銃で攻撃し牽制する。

ミラは回復術を使用しみんなの減った体力の回復に当たる。

セイは腕に抱えていたシロを両手で持ち上げ前に突き出した。


「シロ!!火トドクに連続で瓦礫攻撃だ!!」


 ーーぱこんぱこんっっっ!!ぱかぱかぱかっ!!


 シロが口をぱかぱか開閉するたびに、凄まじい勢いで瓦礫が弱った火トドクにぶち当たって行く。

3匹いる火トドクに交互に発射して行き虫の息になった所でシロに指示を出す。



「シロ!!次は回収だ!!」


 ーーぱかっ!!


 ーーしゅぼぼぼぼぼぼぼぼーーーーーっっっっっっ!!!!!!


 ーーぱこん。


 あっという間に周辺に散らかった瓦礫や魔飛竜の死骸などと一緒に瀕死の火トドクを回収した。

なんとか数が減った事に安堵し、アクスが魔弾で攻撃して攻防を繰り広げていたごんドラに的を変更する。


「シロ!!兄貴を援護するんだ!!」


 ーーーぱこん、ぱかっ!!!


 ーーどごんどごんどごんっっっ!!!


 シロの砲弾の様な瓦礫攻撃がアクスの魔弾と共に被弾して行く。

ごんドラは無理矢理生き返らせた為か自分の意思を持っていない様に見える。

避ける事が出来ず硬い皮膚でも体内にはそれなりの衝撃が届いている様でふらふらとし、見当違いの場所に攻撃をしている。

その間にセイはシロに放出した瓦礫を再び回収させる。


 「ん?」



 視線を感じるなと顔を上げたらフィレックス・変質者・ギルド長が固まっている。

顔の見えない変質者以外の2人は目を剥き口が半開きになっている。

あれ?俺、空気読めない事した感じじゃね・・・?もしかして大事な話している時に瓦礫回収して話遮ったとか??今までの人生、空気しか読んで来なかったのにこんなミスをするなんて一生の不覚!!ヤバいな・・・。視線が痛い・・・。

だから、ごめんって。冒険者になったばかりの俺に完璧求めないでよ・・・。




 瓦礫回収がかなりゴミが落ちていた所を最新の掃除機で吸い取っているかの様な、楽しさにセイは完全に忘れていた。あり得ない量の周辺の瓦礫と魔物の死骸と瀕死の魔物を綺麗に消し去った異空間魔法が普通で無い事を・・・。


 異空間魔法はスキル所有者の魔力量による事や生き物は入れられない事、離れた場所にある物は収納できない。これが可能ならば街そのものを一瞬で消し去ることや、戦争で敵軍を一気に消すことが出来る。

しかし長い歴史の中でそんな事をした異空間魔法を持った国家転覆を図った犯罪者は存在しない。

考え付かないわけではない。悪用を防ぐために国は様々なスキルや術を日夜調べているが、異空間魔法ではその犯罪は不可能だという結論でどの国も調査を終えているのだ。

それを可能だとはっきり知らしめたのだ。

セイは気付いていないがこの場にいる全員をシロに回収させる事すら出来るという事実に敵も味方も恐れ慄くのは当たり前である。



この日、セイとシロのコンビがどちらの敵になっても史上最悪の危険人物にのし上がってしまった。







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