第9話 ▶︎にげる→にげられなかった!!
家は二階建てで弱小パーティーと呼ばれる割にはかなり良い家を借りている様だ。
マリアが扉を開けて引き入れられる。俺は入った瞬間にとんでも無い光景が目に飛び込んで来るとはつゆにも思っても見なかった。
「っ!?」
そこにはロープで縛られたパンツ一枚で傷だらけのアクスが転がっていた。
目隠しと猿轡を噛まされ一瞬変態プレイかと思ってしまった。え?だって亀甲縛りってやつだぞ?変態プレイだろ。俺の声に反応してもがもが何か言って暴れ出した。好きでやっているのか分からないが聞き取れないので、猿轡を外してみる。
「兄貴なんでこんな格好を?」
アクスは荒く息をしながら呼吸を整えた。息がしづらいのに叫んだ所為だろうけど、身体が赤らんでいて益々そういうプレイに見えて仕方ない。ある一定層の女子がめちゃくちゃ喜びそうだ。アクスなら薄い本大量生産されそうだけど、その女子達の妄想の中でアクスの相手が俺で無ければ全く問題ない。俺はノーマルだ。いくら美少女の様に可愛い男だろうが優しい匂いのする女性が良い。だからといってミラみたいなあからさまに性格ヤバい奴は女でも男でも遠慮するが。まぁ元の世界でも付き合った事無いんだけどな。
おっと、思考が脱線してしまった。
「セイ!!俺が余計な事言ったばかりにっっっ!!!!すまねぇっっっ!!!あの時は俺達のパーティーに誘ったが、抜けてお前を誘って2人で新しいパーティー作ろうと思ってたんだ・・・そしたらミラの野郎がリーダーとユリアナにチクりやがったんだ・・・。この状態にしたのはユリアナとミラだ、アイツらが帰ってくる前に逃げないと!!こんな事なら勝手に抜けて逃げりゃ良かった・・・くそっっ!!!」
アクスが俺と2人でパーティーを組もうと思ってくれていた事が嬉しかったが、目隠し先に外せば良かったな・・・と、マリアが横に居るとは思っていないアクスは話を続ける。俺は今、とてつも無く胃がキリキリしている。切実に鳥のマークの胃薬を元の世界から持ってきて欲しい。
因みにマリアはしゃがんで両手で頬杖をついて聞いている。アクスの勝手に抜けて逃げればという発言に特に怒っている様子が無いのがまた怖い。
「セイ、2人で逃げるぞ!!それが無理そうならお前だけでも早く逃げろっっ!!!そう言えば良くここに俺が居るって知ってたな?誰かから聞いたの・・・か・・・ま、まさか・・・セイ・・・お前1人だよな・・・?」
赤らんでいた身体は既に血の気が引いていて、ホラー映画の様な成り行きになってきた。俺が事実を言うのを躊躇っていると次の瞬間マリアが目隠しに手を伸ばした。ホラー映画ならアクスこの後、絶叫して死ぬんだろうな・・・。なんか本当ごめん。
「じゃーんっ実は僕がいました!あーくん驚いた?」
マリアは一気に目隠しを外した。アクスが大きく口を開け声にならない声を出した後、白目になると泡を吹いて意識を失った。意識失うほどこの子ヤバいの!?俺付いてきちまったよ!!子供の頃、親や教師が口が酸っぱくなる程注意してた知らない人について来てしまったよ・・・。これが厳ついおっさんだったら絶対付いて行かなかったのに!!
「みんなひどいよねっ!!あーくんにこんなケガさせるなんてー!僕怒ったよー!!」
マリアはあざとい女子の様に頬を膨らませ怒っている。普通なら何やってんのコイツって冷めた俺は思っちゃうんだけど、マリアはめちゃくちゃ似合うんだなーこれが。急いでいる感は一切ないけど可愛いから許そう。すまん!!兄貴!!!ーー手当て遅れるわ。
「取り敢えず傷を治療しないとな、マリア・・・いやリーダーか。リーダー回復薬みたいなのは無いのか?」
「マリアでいいよー。うーん、そういえばよく効く回復薬があったと思うんだー。持ってくるね!!」
2階から跳ねる様に降りてきたマリアの手には豪華な作りの瓶があった。あと少しという所で何も無いところでずっこけた。
嘘だろ・・・。今時こんなコテコテヒロインみたいな少女漫画でもいないだろ・・・。絶滅危惧種だよ。
マリアの手から離れ飛んだ瓶は反射的な行動なのだろう、元が犬のシロは口を大きく開きキャッチした。
「良かった〜・・・シロ今のを出してくれ」
ーーガタガタガタガタ・・・
ーーガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ!!!
亀の疾走であっという間にどこかに逃げていった。取られると思ったのか?いやまぁ取るけど・・・。参ったなぁ・・・あぁいう時のシロは中々離さないんだよなぁ。シロは後で捜すとしてまたマリアに持って来てもらうか。シロの逃げる姿可愛かったなぁ・・・。宝箱になっても可愛いとか犯罪級だな。早く捕まえて抱きしめてスリスリしたい・・・。
「どうしよう・・・あれ最後の回復薬だったのに。あーくんしんじゃうっっ」
マジかい!!本当昭和の少女漫画かってくらいベタベタな子だな。ついに泣き出したよ・・・。ーー泣きたいのは俺だよ!!どうすっかなー・・・傷は深くは無いけど傷口から血が滲んでんだよなぁ。よし、消毒液くらいはあるだろうから手当てするか。
「ほらっ、マリア大丈夫だ。傷口は浅いから消毒液と包帯でも治るよ。そういう道具あったら持ってきてくれないか?そしたらあーくん元気になるから」
「わかったっ!!あーくんの為に探してくるーっ」
マリアは走って2階に上がって行った。確かに徐々にではあるがマリアがヤバそうな事は感じ始めている。このままバックれる事は出来ないだろうか・・・?あっでもシロを捜さないといけないから今は無理か。それにアクスをこのままには出来んしな。逃げる時はアクスも連れて行こう。
マリアが転けずに戻ってきた。箱を受け取るとかなりある傷口に消毒液を塗り、ガーゼを当て貼り付けたり包帯で巻いたりしながら治療を終えた。
「あーくんの部屋に連れて行きたいんだけど、部屋教えてくれるかな?」
「うんっ!いいよっ。あーくんのお部屋はね、2階の1番奥だよーセイさん運べる?だいじょうぶ?」
「んーぶっちゃけしんどいわー。でもここに置いておく訳にもいかないだろ?」
「あっ!ちょっと待って!!」
回復薬や傷薬を持ってくる為に椅子に、マリアが置いていた黒猫のぬいぐるみを持ってきた。
「カルト、セイさんと一緒にあーくんをあーくんのお部屋まで運んで?」
マリアが黒猫のぬいぐるみを持ち上げお願いすると、生きているかの様にぬいぐるみが動き始めた。そしてが肩を抱えている俺とは逆でアクスの足元に行く。ぬいぐるみはアクスの脚を軽々と持ち上げた。
「(え?この子、剣士なんだよね??ぬいぐるみ操るって呪術使いか黒魔術師のイメージあるけど、剣士って他のも兼任出来るのか?)」
余計マリアがよく分からなくなったが、アクスの安静の為に部屋へと向かった。
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