紺色の僕たちは

神代 緋音

第1話  出会い

誰もいない、夜の海は冷え切っていて、無性に死を感じさせる。

いや、実際死のうとしているのだから無論、そうなんだろう。

疲れた、生きることに。

もういいだろう。さよならみなさん、さよなら私。



「ねえ、死ぬの?」


は?


「……誰」


「なんで死ぬの?」


最悪だ。人の死際を邪魔するなんて。

「あんたに関係ないでしょ。赤の他人に死際邪魔されてこっちは意味わかんねーんだよ」

「うーん、君まあまあ口悪いね。実は、僕も君と同じことしようとしたんだよね。」

「あぁ、死に損ねたってこと、だから死のうとしてた私の邪魔したわけ。」

「まあ結果的にはそうなるね。」

「勝手に一人で逝けよ。」


ようやく、ようやく死ねると思ったのに。

この紺色の世界からいなくなれると思ったのに。誰かもわからない奴に邪魔されるなんてどこまでもついてない。


「あのさ、死際邪魔しちゃったお詫びに、僕と最期を生きてみない?」



……は?どうかしてる。

「いや、あんたも死にたかったんじゃないの?それに私になんのメリットがある、あんたみたいな奴と最期になんで生きないといけないの。」


死に損なった’’だけ’’で、この男も一度は死のうとしたわけだ。

死にたいと思ったから。


「ひどいなあ、僕これでも世間的にはイケメンってやつなのになあ」

知らねえよ。私からしてみれば死際を邪魔したチャラ男にしか見えない。


「衣食住君に用意するって言っても?」

ますます意味が分からない。

「なにそれ、あんたにメリットがあるわけ?部屋に連れ込んでそういうことしようって根端でしょ。そうじゃないと私を置く意味なんてない。」


「誓うよ、君の嫌がることは絶対にしない。死ぬことは最後にとっておこうよ。

その時は僕も一緒に死ぬって約束する。」



夜の海は寒い。寒さで頭でも回らなくなったのだろうか。

なぜか、もう死ねなくなるんじゃないかと思った。


「いいよ。なんか恋人の心中みたいで面白そう。それにあんたの言う世間的には、あんたは誘拐犯ってことになるわけだし、私未成年だから。」

「うん。悪い話じゃないでしょ?」



死ぬことは最後にとっておく__。



「てか、そろそろ名前ぐらい名乗ったらどうなの。」

「あぁごめん、依(より)だよ。」


「君は?」


「……ひより」


「ねえ、ひよりって呼んでいい?」

「好きにすれば。」



生きたいと思ったわけじゃない。いつだって死ねると思ったから。


飽きたら死ねばいい。


所詮この世界に、死に損ねた私が生きる隙間なんてどこにもないのだから。

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