おやすみ時間

一条 遼

第1話

おうち時間。

それは世に蔓延るうぃるす たるものから

身を守るために家にいろ!と言う時間である


「家にいろってもなぁ…やることないんな…」

ボサボサ髪にだらしない顔ダサいTシャツ短パン

完全ニート武装のヨシタカは頭を搔く


することねぇーって


素直な感想である。


午前11時 起床

あひるごはん食べる(朝昼兼用の飯のこと)

ゲーム

なんか辺りが暗い夜飯の時間だ

風呂&歯磨き

夜中ゲーム

就寝

午前11 起床


そんな生活をしているとふと思う

「俺、無限ループしてね?」

そんなことは無いのだけどそう思わざるを得ない


まさに引きこもり

そんな生活を続けてはや3週間

ふとした時に不安を覚えた


「俺一生このままの生活…?」

そして焦る、自分の怠惰に満ちた姿を見て


「俺は…俺はぁっ!まだっ!

高校生活をっ!満喫していなぁァァァい!」


「うるさいよ!バカタケ!

あんた何時だと思ってんだい!

ここんとこ最近不規則な上にゲームゲームゲームゲームゲームゲームゲームゲームゲームゲームゲームゲームゲームゲームゲームゲームゲームっ!

いい加減ぶち殺〇ぞクソガキがァ!!アァん!?」


メタメタ怒られた


休みを持て余すと人間ってここまで堕ちるんだ

あれだけ欲しかった休み。いらないなぁ……


突然襲い来る喪失感、脱力感、寂しさ、賢者

窓を少し開けそこから来る風を感じながら

漆黒の中に微かに煌めく街を眺め悲観する。


泣きそうになる、いや、なんか泣けてきた。


後ろで流した

世代がドンピシャで

共に青春を駆け抜け

今年リメイクが決定したとあるゲームの

とある200番台の

とあるどうろの夜のBGMをかけているからだろうか


そうだ、高校生活は終わったのだ。


こうやって同じことを繰り返す日々

終わらないとどれだけあの時間が

愛おしいものだったのか

かけがえのないものだったのか

終わって欲しくない時間だったのか


大切なものに気が付かず

それでも残酷に無慈悲に、止まることなく

時はすぎていく。


3年なんて莫大な時間だと思っていた

それも一瞬だった


楽しくなかったといえば嘘になる

でも、永遠に続くと信じていたが故に

後悔と虚無感、そしてとめどなく涙が込み上げる。



「何してるんだろう…皆

何してるんだろう…俺…。」



「一日だけでいい…最初からなんて

そんな贅沢言わないから……どうか…

俺に……俺たちに………奪われた最後の

青春の時間をください……」


部活に勉強に遊び

高校生活、全てがなんの狂いもなく

なんの不足もなく過ぎていくと

そう信じていた全ての人達の願い


どうか叶ってください。


そう願って床につく。


不思議な夢を見た

不思議な世界にいた

不思議な体験をした



なんてことは無かった。

翌日なんの変化もなく春の訪れを知らせる

ウグイスの鳴き声で目が覚める


「はは…まぁ現実なんてこんなもんだよな…」

知っていた、起きてたまるものかと

何度も自分に言い聞かせたのに期待した

「もしかしたら」と

やはり残酷に時は過ぎていく今この時すらも

歩みを止めず進み続ける


目頭が熱く…





「あんたいつまで寝てんだい!

いい加減起きなぃ!遅刻すんだよお前は!」


「は?」


素っ頓狂な声が出る


「は?じゃないよ!」


「いやいやいや何言ってんだよ

もうとっくに学校は終わったって!

この間卒業したじゃんか!」


「あんた事何言ってんだ。寝ぼけやがって

今は7月だろ?久しぶりに登校なんだから

さっさと支度しな!」


「えっ…」

勢いよく閉まるドアの音で寝ぼけていた頭も

完全に目が覚める



「戻ってる…」

机の上にあるカレンダーを見た

そこにはバッチリとハッキリとクッキリと

7月1日 登校日 久しぶりだぜ!とメモがあった


着替えてご飯食べて学校に行く

そこにはいつも通り登校する他の生徒の姿が


それを見た、当たり前の光景を、日常を

もう見れないと思っていたものを



泣いた。



「あれ…なんでヨシタカ泣いてんの?」

「え、マジで?!珍しくね!?」

「ど、どうした?なんか変なもん当たったのか?」


「仲良しこよ氏」 のグループのヤツらが

声をかけると共に顔を覗き込み笑う


「何してんだい、」と


「べ、別に泣いてねぇ!ニヤニヤするな!

トラミネにミナトにタツキチ!こっち見んな!」


「おい見てみろこいつ耳まで真っ赤だぞ」

「声震えてんじゃん」

「あ、おいユカリ!ハナ!ミチ!ユリ!見てみろよ

ヨシタカが泣いてんだけど!」


「えっ、ちょっほんとじゃないですか!」

「なんで泣いてんの…」

「……えっ………」

「朝から号泣する男子って…」


「ちょっと…何をべらべらと……

って、違います!そこの3人!

泣かしたんでしょう!、なんでそいいうおと…」


「おっと」

「まさかのここで」

「決まりましたユカリ選手の必殺カミカミ!」


「ちょっとそこの3人組…いいかなぁ?」


「嘘です」

「ごめんなさい

「ふざけました」


「あぁ…もう目が真っ赤じゃないですか

何があったんですか?何か悲しいことでも…」


「ちがっ、泣いてないって!」


「お前…」

「ここまで来てまじか」

「そんな言い訳もう無理だろ」


「う、うるせぇ!3人してからかいやがって!」


もうめちゃくちゃだ

声も震えて、涙は止まらなくて

でも嬉しくて…嬉しくて……


「ん」

「何やってんだよ早く来いよ」

「もう目の前だってのに遅刻するぞ」

トラミネにミナトにタツキチが手を差し伸べる


「どうかしましたか?ヨシタカ君」

「泣き止んだと思ったら立ち止まって」

「ん…………」

「もうほんとにいい時間よ?」

ユカリ、ハナ、ミチ、ユリが

こちらへ、と手招く



目の前に有り得ない光景が広がっていたら

誰だって泣く

慣れ親しんだ友達がいる

自分と同じ制服を着て

同じ目的で同じ場所に集まって


当たり前だと思い込み蔑ろにした日々


でも、もうそんなものは無い

夢も幻想も理想も覚めるもの


時は決して戻らないそのルールは絶対

それを知っていた

それ故に拒絶した。


「俺は…もう学校には行けないよ……」


その瞬間7人の顔が歪む

辺り1面青く染る不気味に暗く暗く

「「「「なんで?」」」」

       「「「「こっちに来ないの?」」」」

「「「「どうして?」」」」

     「「「「これは君が望んだものだろう?」」」」


「「「「「「「願い通り永遠に続くこの生活を」」」」」」」


「どうして拒む」


「確かに望んだ」


「でもそれを受け入れたら二度と会えない」


「偽物と一緒に生活した、なんて言ったら

あいつら怒るし」


「だからそっちには行かない、もう帰らなきゃ」


「「「「「「「そう、じゃあもういい」」」」」」」


「ほいじゃ、またね。

今度は本物のアイツらとまた会うよ」


そう告げるとみな歪んだ顔が笑顔に変わる


視界も白く白く……


目が覚めるといつも通りの部屋の天井


安定の夢オチ

 そしてあっさりとしすぎでは?と

そう思わざるを得ない

都合よく帰って来れるってのが物語のいい所だよね


もう過去には戻れない

だが、それでいい。


それでも会える

あの時のように毎日会えるわけじゃない

けれどいつ会えなくなるか分からない


いつか会える、じゃなくて

会いたい時に会えるように

他愛のないことをタネにして

少しでも長く、多く関わろうとメールを送った。


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