津々浦々の途中
雨のモノカキ
冬のわたしたち
朝。
先に起きるのは、わたし。
目覚まし時計で起きれるのは、わたし。
隣の、寝坊助なお姉さんはいつだって起きれない。
目覚ましを止める。
「つづねえちゃん、朝だよー」
「んー……あと五十分……」
「現実的な数字ー」
「まだ眠いの……」
「ねー、わたしだけでお湯わかしていい?」
「……いいよー」
そういって、つづ姉ちゃんは再び毛布にくるまり、寝息を立て始めた。
いつものことなので大して気にせず、わたしは荷物から携帯コンロとやかん、色の違うコッヘルふたつを取り出した。
外はまだ寒い一月の終わりごろ。
しっかりとパジャマからあったかい服に着替えて、荷台の扉を開ける。
とても冷たい空気が車内へと入りこんでくる。
さっきまでそれなりに温かかったのが、なくなった。
「うー……さむいー……」
つづ姉ちゃんが何か言ってるけど、とりあえず準備ができるまでは扉は開けっ放しにしなくてはいけないので我慢してもらう。
開くだけで座れる簡単な椅子と机を設置して、その上にお湯を沸かすための道具をそろえる。
それとココアの粉。
本当は牛乳がいいけど、おなかを壊しちゃうので、我慢する。
あとつづ姉ちゃんが牛乳苦手なので、あんまり買う機会がない。
そういうわけなので、お湯でココアを溶かすのだった。
ペットボトルの水をやかんに移して、コンロの火にかける。
ついでにコンロの火で暖をとる。
「ユナちゃーん……しめてー……」
準備が終わってたのに開けっ放しにしていたことを忘れていた。
慌てて荷台の扉を閉める。
つづ姉ちゃんはかっこいいのに色んなところが弱すぎる。
朝にも寒さにも弱い。
なんでそんなに弱いのと、聞いたことがあった。
『大人だからだよ』
すごい自慢げな顔で答えてくれた。
わたしは思った。
大人って、駄目なんだなって。
「……あ」
ぼーっと考え事をしていたら、やかんがしゅんしゅんと音を立てて、沸いたことを教えてくれていた。
慌てず、厚手の手袋を装備して、ココアの粉を入れたコッヘルにお湯を注ぐ。
粉の色がお湯を含んで変わっていくのを見るのが、わたしは好きだったりする。
そこでわたしは一つ忘れものをしていたことに気が付いた。
「スプーン……」
混ぜるものを用意していなかった。
しょうがないので、荷台の扉を開ける。
「あー……さむいー……」
「もういい加減起きたら、つづ姉ちゃん」
「……そうするかー」
大きなあくびをしながら、つづ姉ちゃんは体を起こした。
いつも通り何にも着ていないから、きれいな体が丸見えだ。
やっぱり寒いらしいので、毛布にまた包まった。
「また裸だし……」
「服着ると寝れないー、さむいー、服ー」
「自分で着なさい……あ、あったあった」
「スプーン?」
「混ぜるもの忘れてた」
「そっかぁ……服ー」
「はいはい」
起きたてのつづ姉ちゃんは、わたしより子供な気がする。
服を着替え終えたつづ姉ちゃんは、ぼんやりと寝ぼけながら、ココアをすする。
満足げに白い息を吐くお姉ちゃんは、綺麗だった。
そんな光景を見ながら、わたしはココアを飲むのだ。
わたしだけの、特別、なのだ。
今日も、わたし達の一日が、始まる。
津々浦々の途中 雨のモノカキ @afureteiru
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