思い出旅行

ユラカモマ

思い出旅行

 ″2年前の今日″、そのメッセージとともに来た写真は卒業旅行で行った福山城だった。城前のベンチに並んで腰掛けて駅前で買ったシュークリームを食べている。もうあれから2年も経つのか、そう思うのと同時にあの頃は気軽にどこへでも行けたのになと寂しくなる。″懐かしい″″シュークリーム美味しかったよね″そうやって返してさらに頬にいっぱい詰め込んで口の端にクリームのついたスタンプを送る。返信を待つ間、写真フォルダを捲ると忘れていた思い出があふれ出してきた。

 しばらく写真を眺めていると今度はともの浦で行った常夜灯前のカフェの写真が送られて来た。割りと緩い計画だったから鞆の浦に着いてからそこそこリーズナブルで美味しそうなところを二人して調べたのだった。スマホで検索かけて行ってみて覗いてみて、散策しつつ食べ歩きもしつつ1時近くなってようやく入ったのがその店だった。何を食べたか思い出せないけど美味しかった気がするなぁ、クスクス一人笑うとお腹がぐうとなる。レンジで温めるだけの食事も今日は何だかいつもより美味しそうに感じた。

 昼食の片付けをしてスマホを見るとまた次の写真が送られてきていた。今度は2枚、1枚目はフェリーで行った仙酔島の桜の写真だった。2人でどちらが綺麗に撮れるか競ったせいで花の写真がフォルダにあふれたのだ。そしてもう1枚は南国の鳥の羽のような虹色の地層の写真。島をぐるぐる歩き回って探索したのを思い出す。海に沈む夕日が綺麗に見える島だと聞いていたからそれが見たくて日が沈む頃までふらふらと歩き回った。最後は疲れて休憩所に座って2時間ずっと喋り倒した。自販機で買ったスポーツドリンクは高かったけれど身にしみた。フォルダの中でペットボトルを持ってピースをする私はそうそう見ないレベルで晴々しい顔をしている。疲れていたはずがこんな顔をしていたのかと恥ずかしくなるぐらいだ。ふう、と、手で扇ぎながら顔を上げると時計はまだ3時過ぎ、ここまで来ると彼が突然こんなLINEをしてきた理由も最後の写真がどこだかも何となく分かってきた。次の写真が送られて来るまではまだ時間がかかるだろう。ならばやるべきことをさっさと済ませてしまおうか、私は椅子から立ち上がりぐーと大きく背伸びをした。

 しかし予想に反してLINEのメッセージは途切れた。ここまできたら旅の締めの夕日が最後に送られて来ると思ったのに急に仕事が忙しくなったんだろうか、こちらからのメッセージも未読のまま外は暗くなってしまった。中途半端になったやり取りに不満を感じているとチャイムが間隔を開けて2回鳴る。走って玄関の扉を開けるとそこには待っていた夕焼けの写真を中央に飾ったバラの花束を抱いた同棲中の恋人が立っていた。

「付き合い始めた記念、今年は旅行行くの難しそうだったから写真だけでもと思って送ってみたんだけどどうだった?」

「遅い」

「それはごめん、帰り道が混んでてさ、本当はあの時みたいに夕日の中で言いたかったんだけど…」

″卒業してもまた一緒に色んなところに行きたい。それに旅行だけじゃなくて一緒にいて色々なことをしたい。だから付き合ってください!″ 

 最後の写真は夕日か照れか顔を真っ赤にした彼と嬉しくて顔を真っ赤にした私のツーショット。

「来年こそ記念旅行行きたいね」

「別に次は記念旅行じゃなくてハネムーンでもいいんだけど」

 次の春、その時こそとっておきの旅行をまた二人で。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

思い出旅行 ユラカモマ @yura8812

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ